建設業の主要財務・損益状況と財務指標

1. 主要財務・損益状況と財務指標

 平成28年4月、中小企業庁は中小企業白書(2016年版)を公表しました。これは中小企業庁が、中小企業の動向等を国会に報告する目的で毎年作成しているものです。最近の中小企業の動向分析から、稼ぐ力に着目した中小企業の取組の現状と課題を分析しており、その中で付属統計資料として、本タイトルの主要財務・損益状況と財務指標の掲載がありましたのでこちらをご紹介したいと思います。
 今回ご紹介する財務・損益の各項目と財務指標は以下の通りです。

項目 算式
比率の意味

財務 ・ 損益

売上高 売上高
総資産 総資本
付加価値額 営業利益+人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課
従業員数(役員含む) 従業員数

主要財務指標

当座比率(%) 当座資金 / 流動負債×100
当座資産と流動負債との割合を表す比率。
比率が高いほど、資金の流動性が高いことを示す。
自己資本比率(%) 自己資本 / 総資本×100
総資本に対する自己資本の割合を表す比率。
比率が高いほど、企業の健全性が高いことを示す。
総資本営業利益比率(%) 営業利益 / 売上高×100
投下した総資本に対してどれだけの営業利益を獲得したかを表す比率。
比率が高いほど、収益性が高いことを示す。
売上高経常利益率(%) 経常利益 / 売上高×100
売上高に対する経常利益の割合を表す比率。
比率が高いほど、収益性が高いことを示す。
総資本回転率(%) 売上高 / 総資本
投下した企業資本に対してどれだけ効率的に売上高を獲得したかを表す。
回転数が高いほど、活動性が高いことを示す。
付加価値率(%) 付加価値額 / 売上高×100
売上高に占める付加価値額の割合を表す比率。
比率が高いほど、生産性が高いことを示す。
労働生産性(%) 付加価値額 / 従業員数
従業員1人当たりの付加価値額を表す。
金額が高いほど、生産性が高いことを示す。

2. 建設業の主要財務・損益状況と財務指標は?

 それでは、上図の構成における建設業の各数値を見てみましょう。

項目 / 年度 建設業
2011 2012 2013 2014

財務 ・ 損益

売上高 28,100 27,203 28,850 32,400
総資産 23,250 23,150 23,009 23,150
付加価値額 5,400 5,500 6,089 6,400
(うち人件費) 4,900 4,700 5,000 5,300
(支払利息) 63 31 17 9
従業員数(役員含む) 13 13 13 13

主要財務指標

当座比率(%) 111.2 115.4 117.0 117.4
自己資本比率(%) 31.1 32.1 31.9 33.7
総資本営業利益率(%) 1.2 1.7 2.2 3.0
売上高経常利益率(%) 0.9 1.3 1.7 2.4
総資本回転率(回) 1.3 1.4 1.4 1.5
付加価値率(%) 19.3 19.5 20.1 20.4
労働生産性(円) 441 464 475 507

※売上高、総資産、付加価値額(うち人件費、支払利息)は万円単位 従業員数(役員含む)は人単位

 財務・損益項目では、売上高と支払利息に注目してみます。売上高は2011年から2013年にかけ横ばいだったのが2014年に上昇しているという傾向が読み取れます。一方で支払利息については4年間で大幅に減少している傾向です。
 財務指標については、概ね全ての指標が増加している傾向にあります。一般的に、上図に掲げた項目は、いずれも増加することが良しとされる項目であるため、売上の増加傾向も含めて、建設業界は2011年から2014年においては景気が良かったと評価できるでしょう。

3. 日本全体はどうだったのか?

 建設業界が好調だったのはなんとなく分かりましたが、では日本全体としての各数値はどうだったのでしょうか?

項目 / 年度 全産業(非一次)
2011 2012 2013 2014

財務 ・ 損益

売上高 44,150 45,500 45,300 47,800
総資産 57,900 57,900 58,900 60,850
付加価値額 10,800 11,100 11,300 11,900
(うち人件費) 8,100 8,000 8,200 8,400
(支払利息) 100 100 100 100
従業員数(役員含む) 19 19 19 20

主要財務指標

当座比率(%) 106.3 109.5 110.5 111.9
自己資本比率(%) 33.1 33.7 34.7 36.2
総資本営業利益率(%) 1.7 1.8 1.9 2.1
売上高経常利益率(%) 1.8 2.1 2.3 2.5
総資本回転率(回) 1.0 1.0 1.1 1.1
付加価値率(%) 26.3 26.3 26.1 26.2
労働生産性(円) 523 526 533 542

 上図は全産業(非一次産業)における推移です。実は、前述した建設業のコメントと概ね同じ内容が言えてしまうのです。細かく見ていくと従業員数が2014年だけ1名増加しているため、人件費が増え、支払利息は横ばいだったため、結果として付加価値額が売上の増加の割には伸びていないという点が異なっており、付加価値率もほぼ横ばいという傾向でした。

 ここで、建設業と全産業の2011年と2014年における数値比較を見てみましょう。

項目 / 年度 建設業(A) 全産業(B) 差(A)-(B) 建設業(C) 全産業(D) 差(C)-(D)
2011 2011 2014 2014

財務 ・ 損益

売上高 28,100 44,150 -16,050 32,400 47,800 -15,400
総資産 23,250 57,900 -34,650 23,150 60,850 -37,700
付加価値額 5,400 10,800 -5,400 6,400 11,900 -5,500
(うち人件費) 4,900 8,100 -3,200 5,300 8,400 -3,100
(うち支払利息) 63 100 -37 9 100 -91
従業員数(役員含む) 13 19 -6 13 20 -7

主要財務指標

当座比率(%) 111.2 106.3 4.9 117.4 111.9 5.5
自己資本比率(%) 31.1 33.1 -2.0 33.7 36.2 -2.5
総資本営業利益率(%) 1.2 1.7 -0.5 3.0 2.1 0.9
売上高経常利益率(%) 0.9 1.8 -1.0 2.4 2.5 -0.1
総資本回転率(回) 1.3 1.0 0.3 1.5 1.1 0.4
付加価値率(%) 19.3 26.3 -7.0 20.4 26.2 -5.8
労働生産性(円) 441 523 -81.9 507 542 -34.9

 建設業は2011年時点で当座比率と総資本回転率以外の項目すべてで全産業を下回っており、景気が良かったと思われた2014年においても結果は変わらないままでした。

4. 財務指標は多角的に視て分析することが重要

 ここまで財務指標を用いた分析について述べてきましたが、各年における推移を見て評価するだけでなく、それが全産業と比較してどうだったかという視点が必要だということが分かったかと思います。

 ここでさらに比較の仕方を変えてみると、また違った側面が見えてきます。

項目 / 年度 建設業 全産業(非一次)
2011 2014 増減率 2011 2014 増減率

財務 ・ 損益

売上高 28,100 32,400 15.3% 44,150 47,800 8.3%
総資産 23,250 23,150 -0.4% 57,900 60,850 5.1%
付加価値額 5,400 6,400 18.5% 10,800 11,900 10.2%
(うち人件費) 4,900 5,300 8.2% 8,100 8,400 3.7%
(うち支払利息) 63 9 -86.2% 100 100 0.0%
従業員数(役員含む) 13 13 0.0% 19 20 5.3%

主要財務指標

当座比率(%) 111.2 117.4 5.6% 106.3 111.9 5.2%
自己資本比率(%) 31.1 33.7 8.4% 33.1 36.2 9.3%
総資本営業利益率(%) 1.2 3.0 145.6% 1.7 2.1 24.1%
売上高経常利益率(%) 0.9 2.4 173.6% 1.8 2.5 37.4%
総資本回転率(回) 1.3 1.5 12.7% 1.0 1.1 2.3%
付加価値率(%) 19.3 20. 5.4% 26.3 26.2 -0.5%
労働生産性(円) 441 507 15.0% 523 542 3.7%

 上図は、2011年と2014年の各数値の増減率を、建設業と全産業とで表したものになります。増減率とは、すなわち成長性や改善具合の角度を示し、数字が大きいほど成長性は大きく、各指標は改善が大幅に進んだ、という具合に評価されます。
 財務・損益項目のうち、建設業の売上高、付加価値額の増減率は、全産業比約2倍と伸びているのが分かります。
 財務指標については、総資本営業利益率、売上高経常利益率の収益性を示す指標が全産業比約6倍、4.6倍の改善具合でした。
 上記から建設業の総括は、全産業比では依然として各数値・指標が概ね下回っているものの、全産業が伸びている傾向にあるなか、建設業はそれを上回る増加率で伸びており、特に収益性の面で近年目覚ましい改善を示している、という評価がいえると思います。

5. まとめ

 これまで業界分析について述べてきましたが、実際のところ、業界全体の景気がいいからといって、自社も好調だと判断する人はいないでしょう。自社の業績評価は、あくまで業界全体の指標と照らし合わせて、それを上回っていてはじめて好調だったと評価できるものです。もし、財務分析に少しでも興味を持たれましたら、まずは、自社の財務・損益状況と財務指標を算出してみてはいかがでしょうか。それが業界全体の水準と照らしてどうだったのか、自社の優位・劣位はどこなのかを分析していくことで、より俯瞰的な視点で自社のポジションが視え、新たな経営戦略の発見につながるかもしれません。


maekawa_100 執筆者 
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾 氏

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。
公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。
また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。
2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。
税理士としてグループの税務業務を統括する。

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