工事完成基準と工事進行基準について

1. はじめに

 今回は、「工事完成基準と工事進行基準について」をテーマとして取り上げます。
 企業会計において、工事契約に関する収益の認識基準には、大別して「工事完成基準」と「工事進行基準」とがあります。これらの基準は企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、「工事契約会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、「工事契約適用指針」という。)において規定されています。
 これらの基準が公表される以前においては、長期請負工事に関する収益の計上について、工事完成基準又は工事進行基準のいずれかを選択適用することができるとされていました。そのため、同じような請負工事契約であっても、適用される収益の認識基準が企業の選択により異なる可能性があり、財務諸表間の比較可能性が損なわれる場合があるとの指摘がなされていました。その他にも、四半期財務報告制度が導入されるなど、より適時な財務情報の提供への関心が高まり、このような面からも工事契約に関する収益認識の方法について見直しの必要性が指摘されていました。こうした状況を受けて、平成19年12月27日に企業会計基準委員会から、工事契約会計基準及び工事契約適用指針が公表され、平成21年4月1以後に開始する事業年度から適用することとされています。
 そこで、今回は建設業における会計の特殊性を念頭に置きつつ、「工事完成基準」及び「工事進行基準」の概要に関してみていきたいと思います。

2. 収益の認識基準

 まず、簡単に一般的な収益の認識基準を確認したいと思います。企業会計原則により、収益の認識基準は、原則として実現主義によるものとされており、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものを対象とすることとされています。ここに、実現主義とは、収益を実現の時点で認識するという考え方であり、「実現」とは、「財貨又は役務の移転とそれに対する現金又は現金同等物の取得」とされています。
 一方で、工事契約に関しては、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準を適用し、その要件を満たさない場合には、工事完成基準を適用することとされています。では、工事完成基準及び工事進行基準とはいったいどのような基準であるのか、また、なぜ工事進行基準の適用が認められているのでしょうか。

3. 工事完成基準と工事完成基準について

 工事完成基準及び工事進行基準の会計処理方法については、工事契約会計基準において次のように規定されています。
工事完成基準とは、工事契約会計基準において、「工事契約に関して、工事が完成し、目的物の引渡しを行った時点で、工事収益及び工事原価を認識する方法をいう」(基準6項(4))と規定されています。
 他方、工事進行基準とは、工事契約会計基準において、「工事契約に関して、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法をいう」(基準6項(3))と規定されています。工事進行基準は、①工事収益総額、②工事原価総額、③決算日における工事進捗度、この3点を合理的に見積り、収益を計上する点に大きな特徴があります。

4. 財務報告に与える影響

 財務報告の目的の一つに、財務諸表の利用者に対して、企業の将来キャッシュフローの予測や、企業価値の評価に役立つ情報を提供することが挙げられます。そのためには、企業がどのように資金を投資し、その投資にあたって期待された成果に対して、実際にどれだけ成果を上げることが出来ているのか、といった情報を提供することが重要であると考えられています。そして、物の引渡しを目的とする売買契約においては引渡しを行った時点、工事の完成と完成した物の引渡しを目的とする請負工事契約においては完成・引渡しを行った時点が、成果の確実性が得られた段階に相当するとされています。
 このように考えると、工事完成基準を適用することが、財務諸表の利用者に対してより正確な情報を提供できると考えられるのではないでしょうか。
 しかし、建設業などにおいては、工事の着工から引渡しまでの期間が1年以上になるなど、長期にわたることや、その取引金額が高額になりやすいことが特徴として挙げられます。そのため、長期の請負工事に関しては、一定の条件が整えば当該工事の進捗に応じて、対応する部分の成果の確実性が認められる場合があると考えられるため、工事完成基準の他、工事進行基準が認められています。
 そのほかに、請負工事に関する会計上の特徴としては、以下のような勘定科目を用いることが挙げられます。

建設業など 商品販売業など
完成工事高 売上高
完成工事原価 売上原価
未成工事支出金 仕掛品
完成工事未収入金 売掛金
工事未払金 買掛金
未成工事受入金 前受金
工事損失引当金 引当金

5. おわりに

 以上のように、会計上収益の認識に関しては、実現主義が基本とされていますが、建設業における請負工事の特殊性などの観点から、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準を適用することとされています。そして、成果の確実性が認められるためには、次の各要素について、信頼性をもって見積ることができなければならないとされていることが分かります。

  ① 工事収益総額
  ② 工事原価総額
  ③ 決算日における工事進捗度

 今回は、工事進行基準の概要を説明するにとどまりましたが、実際に工事進行基準を適用するにあたっては、見積りの要素が強く、上記3点についての理解を深めることが重要となってきます。次回では、この点を中心に深堀していき、工事進行基準の理解を深めていきたいと思います。


maekawa_100 執筆者 
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾 氏

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。
公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。
また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。
2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。
税理士としてグループの税務業務を統括する。

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掲載日 2016年08月20日

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