税務上における工事進行基準の取扱いと留意点

はじめに

 前2回にわたって、請負工事契約に関する、会計上における取扱いを見てきました。前回までのおさらいとなりますが、会計上では、工事の進行途上において、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、一定の要件を満たさない場合には、工事完成基準を適用することとされています。一方、税法上では、工事期間や工事規模が一定の要件に該当する長期大規模工事については、工事進行基準の適用が強制されることとなっています。
 今回は法人税法における工事契約に関する規定について確認を行い、会計上と税務上の処理が異なる場合の取扱いについても触れたいと思います。

法人税法上の取扱い ~長期大規模工事とは~

 まず、法人税法において、どのように規定されているのか見ていきたいと思います。法人税法においては、長期大規模工事と長期大規模工事に該当しない工事(以下、「長期大規模工事以外の工事」とする。)に区分し、それぞれ税法上の取扱いを定めています。具体的には、次のように規定されています。

(1) 長期大規模工事
 長期大規模工事とは、次の要件をすべて満たす工事を指します。
① 工事の着手日から契約に定められている目的物の引渡しの期日までの期間が1年以上であること(法人税法64条1項)。
② 工事の請負対価の額が10億円以上であること(施行令129条1項)。
③ 工事の請負対価の額の1/2以上が工事の目的物の引渡期日から1年以上を経過する日後に支払われるものでないこと(施行令129条2項)。

 上記の要件をすべて満たすと、長期大規模工事に該当し、工事進行基準が強制適用されることとなります。また、ここでいう工事進行基準の意味や考え方は、基本的には会計上の工事進行基準と同じとなっています。

(2) 長期大規模工事以外の工事
 上記の要件を満たさない長期大規模工事以外の工事に関しては、工事進行基準と工事完成基準の適用は法人の任意とされています。工事進行基準を適用する場合には、着工事業年度からその目的物の引渡しの日の属する事業年度の前事業年度までの各事業年度の確定した決算において工事進行基準の方法により経理する必要があり、工事の着工事業年度に工事進行基準を適用しなかった場合には、翌事業年度以後の事業年度においては工事進行基準に移行することはできないとされています(法人税法64条2項)。

 このように、法人税法上においては、金額等の一定の基準により、長期大規模工事に該当するか否かで取扱いが異なってきます。会計上では、強制適用という考え方は取られていませんが、税務上においては、長期大規模工事に該当すると工事進行基準が強制適用となる点に注意が必要です。

会計上と税務上の取扱いの違い~税務調整の要否~

 工事進行基準と工事完成基準の適用要件が会計上と税務上で異なることにより、税務調整が必要となるケースも考えられます。今回は次のような2つのケースを参考に、どのような取扱いがされるのか考えてみたいと思います。

(1) 会計上は工事進行基準を適用しているが、税務上は長期大規模工事以外の工事に該当し、工事完成基準を適用しているケース

 この場合、会計上は工事進行基準が適用されるため、当該工事に係る収益及び費用が計上されることとなります。一方で、税法上は工事完成基準を適用していることから、会計上で計上した収益及び費用を、税務調整により減算あるいは加算することが可能であるかとい論点です。

 長期大規模工事以外の工事に該当する場合、工事進行基準と工事完成基準の適用は法人の任意とされていますが、法人税法62条2項によると「工事の請負をした場合・・・収益の額及び費用の額につき、着工事業年度からその工事の目的物の引渡しの日の属する事業年度の前事業年度までの各事業年度の確定した決算において・・・工事進行基準の方法により経理したときは、その経理した収益の額及び費用の額は、当該各事業年度の所得の計算上、益金の額及び損金の額に算入する」(法人税法62条2項)と規定されています。

 この規定を見ると、工事進行基準と工事完成基準の適用は法人の任意とされているものの、一度各事業年度の確定した決算において、会計上で工事進行基準の方法により経理した以上、計上された工事損益は各事業年度の所得を構成するものと解することができます。そのため、確定した決算において、会計上において工事進行基準を適用したからには、税務上の調整はできないものと解されています。

(2) 会計上は工事完成基準を適用しているが、税務上は、工事進行基準が強制適用されるケース

 この場合においては、税務上において次のような特例を設けることによって、税務調整が必要となるケースを少なくしていると考えられます。

① 請負をした工事の請負対価の額が、事業年度終了の時において確定していない場合には、工事進行基準の適用に際し、対価の額を、その時の現状により当該工事につき見積もられる工事の原価の額を、その請負の対価の額とみなして取り扱うことができるとされています(施行令129条4項)。
② 長期大規模工事に該当し工事進行基準が適用される場合であっても、当該事業年度終了の時において、着手の日から6か月を経過していないもの、又は、進行割合が20%に満たないもの、のいずれかに該当する場合には、当該長期大規模工事に係る収益及び費用の額はなかったものとすることができます。ただし、会計上においても工事進行基準により経理された場合は除かれます(施行令129条6項)。

 例えば、法人税法上、工事進行基準を適用した申告を行っていても、消費税法上においては、実際の引渡しがあった時において一括して資産の譲渡等とすることができます。そのため、法人税法上の収益の計上時期と、消費税法上の収益(資産の譲渡等)の計上時期が異なるケースもあり得ることに留意が必要です。

おわりに

 全3回にわたって工事進行基準と工事完成基準について、取り上げてきました。最終回となる今回は税務上の取扱いを中心に取り上げましたが、会計上との違いについて整理できましたでしょうか。

改めて最後に整理をしますと、税務上では金額等の一定の基準により、長期大規模工事に該当するか否かで、工事進行基準が強制適用となるのか、工事進行基準と工事完成基準の任意適用となるのか、判断することとなります。

 会計上では、工事進行基準の強制適用がない点や、税務上とは適用要件が異なる点などから、会計上と税務上で取扱いに差異が生じることがあります。これらの差異が生じた際に、都度税務調整をするようでは実務上の処理管理が煩雑になってしまうことから、法人税法では、特例を設けることによって一部簡素化している側面があります。しかしながら、特例外の工事も実務では出てくることが十分に想定されますので、会計及び税務処理を行う際には、チェックシート等を用いて慎重に検討する体制を整備することが肝要です。


maekawa_100 執筆者 
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾 氏

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。
公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。
また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。
2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。
税理士としてグループの税務業務を統括する。

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