新収益基準の建設業に与える影響④

1.はじめに

 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「本会計基準」)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「本適用指針」)が公表されたことから、前3回にわたり、本会計基準の概要及び建設業に与える影響を順にみてきました。今回も、引き続き本会計基準の建設業に与える影響の個別論点をみていきたいと思います。

2.建設業に与える影響(個別論点)

 前回は④複数の履行義務についてみてみました。本会計基準には表現が難解なところもありますが、そのような場合は具体的な事例である設例などを参考にするとよいと思います。今回は⑤契約変更や追加工事、⑥変動対価についてみていきますが、イメージを具体化するために、設例も取り入れながらご説明したいと思います。

⑤契約変更や追加工事

 工事契約の変更は、しばしば生じるものです。この点、本会計基準では、契約の範囲又は価格の変更で、別個の財又はサービスの追加により契約の範囲が拡大される等、一定の要件を満たす場合には、独立した契約として処理すべきこととなっています(本会計基準第30項)。

 契約変更が独立した契約として処理されない場合、契約変更日以前に移行した財又はサービスと移行していない財又はサービスが①別個なものである場合は、契約変更を既存契約の解約及び新しい契約締結として処理し、②別個のものではない場合は、契約変更を既存の契約の一部であると仮定して処理、即ち、契約変更による取引価格の修正は収益の修正として計上します(本会計基準第31項)。

 これについては重要性の基準が適用されており、契約変更が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合には、いずれの方法も適用することができるとされています(本適用指針第92項)。

 本適用指針の設例4にて、工事契約における間取り変更に係る契約変更の例が挙げられています。当該設例の契約には、下記にて取り上げる変動対価の要素も組み込まれていますが、契約変更をどう捉えるかという点でも参考になります。ここでは間取り変更に伴い、対価や見積原価は変更となっていますが、契約上の履行義務はあくまで当初契約の通り、建設物の完成引渡しであることから、当該契約変更も含めて、引き続き単一の履行義務として処理すべきと判断しています。よって、契約変更による取引価格の修正は収益の修正として会計に反映させる処理を行っています。

⑥変動対価

 建設業では、工事完成時期や性能評価の結果により、対価が変動するなど、対価の額が未確定のまま、工事を進めるケースがあります。現行ではこのようなケースでは、信頼性のある見積もりができる場合は工事収益総額に反映させることになりますが、当該見積りについて具体的な定めはありません。この点、本会計基準ではこのような変動する可能性のある対価を変動対価といい、最頻値又は期待値のいずれか適切な方法により、見積もることを定めています(本会計基準第50項及び第51項)。また変動対価の見積りは、各報告期間末日に見直す必要があります。

最頻値 発生し得る対価の額で最も可能性の高い単一の金額(考え得る結果が2つのみの場合には適切な見積方法)
期待値 発生し得る対価の額を確率で加重平均した金額の合計額

 この際、当該不確実性が解消される際に、収益の著しい減額が発生しないように変動対価の見積りに保守的に制限を加えています(本会計基準第54項及び第55項)。

 変動対価の事例としては、上述した設例4に加え、工事契約における完成時期及び評点の結果により、対価が変動するケースとして、設例10にて変動対価の見積方法(最頻値と期待値のどちらを使用すべきか)の判断が紹介されています。

【設例10】
前提条件

工事契約においては以下の変動対価の要素があり、
①対価は2,500,000千円であるが、建物の完成が×2年3月31日より1日遅れるごとに減額され、×2年3月31日より1日早まるごとに10,000千円増額される。
②建物の完成時に、第三者による検査で、所定の評点が付いた場合には150,000千円の報奨金が受け取れる。

変動対価の見積方法

①対価は完成日によって増減することから、考え得る結果は多数存在。
  ↓
期待値による方法が適切と判断。
①考え得る結果は報奨金を受け取れるか否かの2つである。
  ↓
最頻値による方法が適切と判断。

3. おわりに

 今回は、本会計基準の建設業に与える影響として、⑤契約変更や追加工事、⑥変動対価についてご説明しました。工事契約においては、契約の変更や対価が未確定のケースは、しばしば発生するものと考えられます。その際の参考となれば、幸いです。


maekawa_100 執筆者 
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾 氏

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。
公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。
また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。
2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。
税理士としてグループの税務業務を統括する。

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