新型コロナと現場閉所がもたらすもの

新型コロナと現場閉所がもたらすもの

1.はじめに

 新型コロナウイルス肺炎が世界的な猛威を振るっています。
端緒は中国・武漢市で2019年12月31日に男性の発症が報告され、2020年1月7日には同国の専門家が新型コロナウイルスを特定しました。武漢市での最初の発症から2週間後の1月13日には、タイで発の感染が確認され、その3日後には日本での感染が確認されています。その日本での感染者数は10,361人、死亡者は161人(4月19日16時現在)となっています。この死亡者の中には、当然、建設産業界で働く人たちも含まれています。その結果、建設現場を閉鎖するという動きが急激に広がり始めました。こうした中、今後の建設産業界はどうなっていくのでしょうか。

2.国の対応

 世界保健機構(WHO)は3月11日、新型コロナウイルスの拡大をパンデミックとなったと発表。
これを受けて日本政府は4月7日、緊急事態宣言を発令、7都府県(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)を対象地区とし、さらに、16日には全都道府県を対象地域としました。政府の動きと連動し、国土交通省は新型コロナウイルス対応による施工困難は、建設工事標準請負契約約款における「不可抗力」であるという判断を示し、民間発注者団体に通知しました。不可抗力の場合、受注者は発注者に工期延長を請求でき、増加した費用に関しては両者が協議して決めるという形になりました。ちなみに、国の直轄工事での一時中止申し出は6,000件のうち100件(4月10日現在)となっています。赤羽一嘉国土交通大臣は17日の記者会見で、一時中止について「受発注者間で協議することとしていると、改めて確認するとともに、「工事を継続する場合に、屋内での作業、移動中の車内、現場事務所での打ち合わせなど、いわゆる3つの「密」が生じやすい場面がある」と指摘した上で「換気の徹底など3つの密を回避する措置が講じられるように、すでに注意喚起を行っている」と同省の対応を示しました。

3.建設業界の対応

 建設産業、特に建設業は「労働集約型産業」と言われ、大現場では1,000人を超える人たちが、同時に働きます。現場では毎朝、ラジオ体操の後に、その日の作業で起こるかもしれない危険を予知する「KY活動」が実施されます。まさに「密集」状態です。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、この活動は職長のみを対象に実施され、職長が現場の作業員に伝えるという形に変わりました。密集を避けるためです。

 建設業界の大筋としては、管理部門はテレワークや自宅勤務という体制を取り入れました。
ただし、現場に関しては、あくまで「発注者との協議」の結果で決めるというスタンスです。
というのも、開業が間に合わない、オフィスやマンションなどで入居に間に合わないといった場合には損害賠償が発生するためです。ただ、国が新コロナウイルスを「不可抗力」としたことから、発注者側の対応も変わるものと想像できます。多くのゼネコン、設備工事会社では、緊急事態宣言が出されている5月6日まで、対象地域の現場を閉めることを決めましたが、やはり発注者との協議」が前提となっています。

 そうした中、残念ながら大手ゼネコンで死亡者が出てしまいました。このゼネコンでは先陣を切って、まず7都府県の現場を原則として閉所することを決めました。その時点で各社は「粛々と工事を進める」という流れでしたが、別のゼネコンで自社の社員に死亡者が出たこと、非常事態宣言の対象地域が全国に拡大されたことから、全国で現場閉所するという動きが加速してきています。ただし、緊急性が高い工事など、特殊な事情がある現場は継続する場合もあるといいます。

4.現場閉所の問題点

 建設現場は多くの人が働く、重層下請構造となっています。4次下請けに至ると「一人親方」のようなところもあります。また、「日給月給」で働く人たちもいます。現場が動かなければ、当然、収入はなくなりますので、経営基盤の弱い企業はどうやって経営を維持していくのか、日給月給の人たちはどうやって暮らしていくのかという問題が生じます。

 とあるサブコンストラクターの社長は「銀行には当社にではなく、当社の協力業者に融資するようお願いした。彼らが潰れてしまっては、この問題が解決して現場が動き出した時に対応できない」からです。3次、4次下請け企業は、こうした手助けがなければ、たちまち潰れてしまうという可能性があります。

 一方、地元建設業の場合は、災害対応という面もあります。去年から今年にかけての雪は少なかったのですが、豪雪を除雪し、道路を啓開しているのも地元建設業者です。彼らを潰すことは、そういった生活に直結した面でも多大な影響を受けてしまいます。それだけ身近な業界だと、建設業は言えるわけですが、彼らも窮地に立たされることになります。

 閉所問題は単に建設業だけに止まりません。建設資材を作っている製造業や、資材を販売している商社にも大きな影響をもたらします。ただ、製造業の場合は「中国から資材、部品が入ってこず、製品が作れない」という問題もあります。トイレの衛生陶器は、一時的にメーカーからの出荷が停止しました。大手管材商社によれば、30日以降、受注を再開する予定とのことですが、現場が閉所されているため、ストック場所の確保が必要となります。そのコストをどこが持つのだろうかという疑問も生じます。メーカーの物流という問題もあります。

5.現場閉所がもたらすもの

 閉所期間がどれくらいの長期にわたるのか、今は想像することができません。一部には、こうした状況は2022年まで続くという予測もあります。長期になればなるほど、経済に与える影響が甚大になるのは言うまでもありません。

 建設業で働く人たちは、少し増えたというものの、人口減少を考えれば、今後も増えるとは考えられません。そうした中で求められてきたのが「生産の合理化」です。国土交通省は「生産性2割アップ」を目指してICTの導入を進めてきました。現場で働く人たちをなるべく少なくしようという発想です。それが、まさに、今、新型コロナウイルス感染防止対策として、急速に進めなければならないテーマとなりました。

 現場事務所で集まってしていた「打ち合わせ」は、移動時間の合理化を図るためにiPadなどのネットワーク機器を使って行うということが、「人に接触しないために行う」という形に変わるでしょう。日々の報告もネットでということも、大手だけでなく、中小にも否応なく求められるようになるはずです。つまり、「労働集約型」から「情報集約型」に変わるということです。現場にいるのは最小限の人たちということになります。

 さすがに鉄腕アトムのようなロボットというわけにはいきませんが、ロボット化も進めなければなりません。新型コロナウイルス騒動は、こうした動きを加速させるという側面があるのではないでしょうか。

 この新型コロナウイルス対策は、もしかすると「建設生産の姿」を大きく変える可能性を秘めていると言えるかもしれません。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
常務取締役コミュニケーション・デザイン局長
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、現在のコミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄している。

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