コロナ禍の中での建設業界の動向

コロナ禍の中での建設業界の動向

はじめに

 新型コロナウイルスの感染拡大により、建設業界でも工事の休止、工期の遅延、資材納入の遅れ、自粛体制による受注の減少など、様々な影響を受けました。

 今回は日本の建設業界において中核的役割を担っている大手ゼネコンのうち4社の業績結果及び業績予想を考察すると共に、帝国データバンクが提供する建設業の景気動向指標、ヒューマンタッチ総研が提供する人材動向レポートを参考に、コロナ禍の建設業界の動向について考えてみたいと思います。

大手ゼネコンの業績動向からの考察

 大手ゼネコンとは年間売上高が1兆円超のゼネコンのトップに君臨する企業をいい、大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店の5社がこれに該当します。この内、竹中工務店は、非上場である点、12月決算である点が他の4社と異なり、比較が複雑化することから、今回は竹中工務店以外の4社を対象に考察を行います。

 これらの企業は施工工事の営業だけではなく、設計部門、エンジニアリング部門および建設技術の研究開発部門を持つなど、建設業界を牽引する存在であることから、大手ゼネコンの業績把握は建設業界の動向を掴むにあたって重要なポイントになるものと考えます。

 以下、上場企業である大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設の4社の売上高、純利益について直近2期の業績結果と進行期の業績予想の推移をグラフ化してみます。

売上高推移

純利益推移

 上グラフより、4社共に2020年3月期(FY2019)は前年度と比較して売上高は増収となり、純利益ベースでも大成建設は増益、その他3社は減益となってはいるものの、その落ち幅は少なく、概して好調な結果に収まっているといえます。これは新型コロナウイルスの感染拡大による影響が出始めた第4四半期(2020年1月~2020年3月)の段階では、業績へのダメージは限定的であり、年間を通じて2020年3月期としての決算には大きな影響を及ぼしていなかったものと考えることができます。

 一方、2021年3月期(FY2020)の業績予想を見てみると、各社共に大幅な減収減益を見込んでおり、厳しい経営環境が予想されています。特に2020年3月期においては増収増益の結果であり、かつ、純利益では4社中トップであった大成建設においては、2021年3月期予想では売上高・純利益の両方で4社中最下位水準まで落ち込むことを予想しており、極めて厳しい状況を見込んでいます。

 以上より、ここ数年継続した建設特需や、主要都市部の再開発、地震や台風等災害に関わる復旧工事などによる建設需要の高まりから堅調に推移してきた建設業界の業績は、コロナ禍で一変して、極めて厳しい経営環境にさらされることが予想されています。

景気動向指標(景気DI)からの考察

 帝国データバンクでは毎月、全国全業種、全規模の企業を対象に、景気動向調査を行っています。当該景気動向調査の結果で、興味深いデータが得られています。

 ここで使用されている景気動向指標(景気DI)とは、調査対象企業に、景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について、7段階の判断(非常に良い、良い、やや良い、どちらともいえない、やや悪い、悪い、非常に悪い)を行ってもらい、各々に対応する点数(6点~0点)を与え、各区分の回答数に乗じて算出したものをいいます。その結果を「50」を基準に判断し、「50」より上であれば景況感が「良い」、下であれば「悪い」と考える指標です。「TDB 景気動向調査(全国) 2020年8月調査」によれば、最近の建設業の景気DIの推移は以下の通りとなっています。

建設業の景気動向指数(景気DI)の変化

2019年 2020年
12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月
景気DI 51.6 50.0 47.8 41.5 33.9 33.5 36.3 37.5 38.4
前月比 -0.6 -1.6 -2.2 -6.3 -7.6 -0.4 2.8 1.2 0.9

「TDB景気動向調査(全国)-2020年8月調査-」より作成

 上記結果より、新型コロナウイルスの影響が出始めた2020年1月に景気DIは「良い」「悪い」の判断の分かれ目となる「50」ちょうどに落ち込み(帝国データバンクの情報によれば、50まで落ち込むのは2017年6月の49.5以来、2年7か月ぶり)、それ以降は下落を続け、緊急事態宣言が発令された2020年4月には過去最大の下落幅を記録しています。一方、緊急事態宣言解除後、6月には前期比でプラスに転じ、それ以降、指標は上昇を続けています。依然として景気DI自体は50以下であることから景況感は「悪い」状況にあることに違いありませんが、直近3カ月で指標増加がみられる点から、企業活動の中で徐々にプラスの要因が出てきていることが予想されます。

人材動向からの考察

 最後に、従来指摘されている建設業界での人手不足について確認したいと思います。

 ヒューマンタッチ総研の提供する『建設業界人材動向レポート(2020年8月)』によると、2020年度の有効求人倍率は、1月時点では2019年の6.82倍と同水準の6.86倍を記録しましたが、2月以降は下降し、6月には昨対比で0.77ポイント低い状況となっています。

 一方で、有効求人倍率が2月から4月に向けて下がり、6月以降上昇していくという傾向自体は昨年と類似しており、かつ依然として有効求人倍率が高い状況があることから、新型コロナウイルスの影響が長期化する中でも、人材不足は解消されていない状況と言えます。

建築・土木・測量技術者の有効求人倍率推移

出典:『建設業界人材動向レポート(2020年8月)』内、
【図表① 建築・土木・測量技術者の有効求人倍率推移】ヒューマンタッチ総研ホームページより

 人手不足という建設業界に継続して残る重要課題は、官民を問わず解決に向けた様々な取り組みが続いています。

 そんな中の新型コロナウイルス感染症の流行によって、「密」が生じやすい現場仕事であるという見方がなされるようになった点、前項までで確認したように景気動向指標こそ回復の兆しがみられているものの、業績の不安感が拭えない点など、建設業界の人材獲得にあたってクリアしなければならない条件が加えられたと捉えることもできます。

 「i-Construction」に代表される建設業界のITの利活用への取り組みは、これまでは建設業界の生産性向上に向けた一つの柱でありました。今後は生産性向上に加え、ウィズコロナ、アフターコロナの状況下における建設業界の人手不足の解消に繋がる取り組みという性質も、強まっていくと言えるでしょう。

おわりに

 コロナ禍での建設業界の動向として、①業績面では、新型コロナウイルスの感染拡大が、甚大なマイナス影響を及ぼし、今後、厳しい結果が予想されていること、一方で②景況感としては、一時的には過去最大幅の悲観的指数に転じたものの、緊急事態宣言解除後、徐々にプラスに転じており、業界全体としては、少しずつ企業活動が回復してきていること、③コロナの影響下においても人手不足の解消に向けて継続的な対応が必要となることがわかりました。

 今後、新型コロナウイルスがもたらした受注高の減少や工事遅延は現実として業績に反映されていくものの、コロナ対策を講じた上で事態の推移を慎重に見極めながら、確実に事業活動を進めていく企業が増えていくと思われます。

 「コロナ禍+人材不足」の両面に対応していくために、業務のデジタル化、ITの利用は必要不可欠な要素となるでしょう。新型コロナウイルスの影響を契機にデジタル化を進めた企業も増えている状況を鑑みるに、新型コロナウイルス感染症の影響は建設業界に急速なデジタル化をもたらし、生産性向上、人材不足の解消を加速させる分岐点となるかもしれません。

 執筆者 maekawa_100
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。

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