建設業における収益認識基準適用時の重要論点~変動対価、重要な金融要素~

建設業における収益認識基準適用時の重要論点~変動対価、重要な金融要素~

はじめに

 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識適用指針)が2021年4月より、原則適用となります。

 今回は収益認識基準適用にあたっての建設業における重要論点(以下参照)のうち、「4 変動対価」「5 重要な金融要素」について、順に見ていきたいと思います。

表1 建設業における収益認識の重要論点

1 収益計上の方法及び時期
2 保証サービスへの収益認識
3 代理人取引に係る収益認識
4 変動対価
5 重要な金融要素

変動対価

 建設業では、工事完成時期や性能評価の結果によって対価が変動するなど、対価の額が未確定のまま、工事を進めるケースがあります。現在、このようなケースでは、信頼性のある見積もりができる場合は工事収益総額に反映させることになりますが、当該見積りについて具体的な定めはありません。この点、収益認識基準ではこのような変動する可能性のある対価を「変動対価」といい、見積もりについて、最頻値又は期待値のいずれか適切な方法による、としています。

【関係する会計基準】

 変動対価は、収益認識基準50項において、「顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分」と定義されています。収益認識基準では、取引価格の算定にあたって変動対価に該当するものが含まれる場合、その影響を考慮する必要があるとしています(収益認識基準48項(1))。

 変動対価には、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態によって対価の額が変動するものや、返品権付き販売等が該当します(収益認識適用指針23項)。

 この変動対価は、最頻値又は期待値(表2 参照)のいずれか適切な方法によって見積もり、取引価格に含めることとされます(収益認識基準51項)。

表2 変動対価の見積方法

最頻値 発生し得る対価の額で最も可能性の高い単一の金額
(考え得る結果が2つのみの場合には適切な見積方法)
期待値 発生し得る対価の額を確立で加重平均した金額の合計値

 なお、当該不確実性が解消される際に、収益の著しい減額が発生しないよう、各報告期間末日に見積もりを見直すことによって、変動対価の見積りに保守的に制限を加えています(収益認識基準54項、55項)。

【建設業への当てはめ】

 工事契約においては、下記のようなものが、変動対価の例として挙げられます。

  • 工期短縮による割増金
  • 工期遅延によるペナルティー
  • 第三者による検査で所定の評点が付いた場合の報奨金

 また、建設業においては上述の通り、取引金額が未確定のまま、工事を進めるケースもあり、この場合も変動対価の見積りと同様の処理がなされることとなります。

【税務上の論点】

 法人税では、値引き、値増し、割戻し等により対価の変動の可能性がある場合において、以下の3要件を全て満たすときには、会計上と同様の取扱いがなされます。

 具体的には、資産の引渡し等があった日の属する事業年度に、会計上収益の額を減額又は増額して経理した金額は、当該事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映することとされています(改正法基本通達2-1-1の11)。

表3 値引き、値増し、割戻し等の額を収益の額に反映させる場合の3要件

1 予め収益を増減するための算定基準が取引慣行や内部的に定まっている。
2 増減額する可能性や基礎数値が合理的に見積もられている。
3 算定根拠書類を保存しておく。

重要な金融要素

 工事契約の支払においては、工事債権の回収までが1年超となるなど支払サイトが長い場合があります。この場合、収益認識基準においては、契約に「重要な金融要素」が含まれていないかの検討が必要となります。

 売上債権等に重要な金利部分が含まれている場合は、支払時期によってその支払額が変動することがあります。その際には当該対価変動部分は金利調整分の性格があると認められ、「重要な金融要素」を含んでいるものとされます。

 例えば、対価1,000千円のものを×2年3月に販売し、その支払いを×4年3月に行う契約について、×2年3月の時点で支払いを行うと、対価900千円とされる場合、差額100千円分は、時間の経過によって対価が変動する、即ち金利と同様の性質があるとし、これを「重要な金融要素」として認識します。

【関係する会計基準】

 収益認識基準では、契約が重要な金融要素を含む場合の取引価格の算定において、まず対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整します。その上で、収益は約束した財又はサービスが顧客に移転した時点で、顧客が支払うと見込まれる現金販売価格で認識し(収益認識基準57項)、最後に、金利相当分を決済期日までの期間にわたって各期の損益に、受取利息等として配分します。

 損益計算書においては、顧客との契約から生じる収益は売上項目、金融要素の影響分は受取利息又は支払利息として区分して表示されます(収益認識基準78-3項)。

 但し、取引開始日において、収益認識時点から1年以内に顧客の支払が見込まれる場合は、金融要素の影響を調整しないことができます(収益認識基準58項)。

【税務上の論点】

 法人税の計算においては、会計と同様、資産の販売等を行う契約に金銭の貸付に準じた取引が含まれるか否かを判断します。この判断にあたっては、以下に示す2つの要素が確認されます。

表4 契約に金銭の貸付けに準じた取引が含まれているか否かの判断

1 契約の対価の額と現金販売価格との差額
2 対価を支払うまでに予想される期間の長短及び市場金利の影響

 上記要素を判断した結果、当該契約に金銭の貸付に準じた取引が含まれていると認められる(=金融要素があると認められる)場合には、継続適用を条件に、その利息相当額を当該資産の販売等に係る収益の額に含めないことができるとされています(改正法基本通達2-1-1の8)。即ち、会計と同様の処理が認められるといえます。

 一方、消費税では、課税標準はあくまで資産の譲渡等の対価の額であるため、重要な金融要素の影響は調整されません。よってPL売上高≠課税売上高となるので実務上注意する必要があります。

おわりに

 今回は、収益認識基準適用にあたっての建設業における重要論点のうち、「変動対価」と「重要な金融要素」について取り上げました。両論点とも会計と法人税は、個々の要件はあるものの、概ね整合した処理がなされることが予想されます。一方、消費税上の販売対価は、あくまで現金収受額であるため、変動対価の変動要因や金利の調整はなされず、金額に相違が生じることに留意する必要があります。

 収益認識基準の適用会社は、基本的に監査対象法人(有価証券報告書作成会社や会社法上の大会社)とされており、監査対象法人以外の中小企業においては、2021年4月からの強制適用は求められません。しかし、今後の目指すべき方向として、中小企業においても、当基準の理解と適用準備を進めることは有意義なことと思います。当コラムがその際の参考となれば幸いです。

 執筆者 maekawa_100
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。

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