統合型リゾート(IR)は、今どうなっているのか

これまでの経緯

 「統合型リゾート」(IR)の正式な名称は「特定複合観光施設」で、その整備を推進するための「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(IR推進法)」が成立したのは2016年12月のことでした。その2年後の2018年7月には「特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)」が成立しました。

 IR整備の目的は、国のIR施設区域整備推進本部によると、「観光振興に寄与する諸施設」と「カジノ施設」が一体となった施設群を、民間事業者が整備することによって、集客と収益を通じた観光地域振興と、新たな財政への貢献を図ろうというものです。IR施設群と言えばカジノ施設だけが注目されていますが、カジノ施設は施設群の3%以下の面積しか取れません。主体は「観光振興に際する施設」で、ホテルや国際会議場・国際展示場(MICE施設)、レストラン、ショッピングモール、劇場や水族館といったエンタテイメント施設などで構成され、事業者はこれらを一体的に整備・運営することが求められます。

 立地先として、大阪府・市、横浜市、北海道、長崎県、和歌山県などが声を上げました。しかし、新型コロナの感染拡大を機に、申請期間が延期となり、それを受けて北海道は、一転して誘致に慎重な姿勢を示すようになりました。

動き出した横浜市

 そんな中、横浜市は5月21日まで事業者の公募を受け付け、今夏に事業者を選定すると発表しました。同市が描いた「IR等 新たな戦略的都市づくり」の検討調査報告書によると、12事業者から提供された情報として、立地場所は全社が「山下埠頭(ふとう)」を想定しており、70,000㎡~22万9,000㎡のMICE施設、日本の伝統文化・芸術を紹介・公演する魅力増進施設、国内観光地への拠点となる送客施設、約27万㎡~約60万㎡、約2,700室~約5,000室で構成されるホテルなどを整備するとしています。建設費などを加えた投資見込額は約6,200億円から約1兆3,000億円、売上見込額は年間約3,500億円~約8,800億円としています。

 経済効果はIR建設時では、直接効果として約4,700億円~約1兆1,900億円、全体効果として約6,700億円~約1兆8,000億円、開業後の事業運営時はそれぞれ年間約4,900億円~約9,100億円、約7,700億円~約1兆6,500億円としています。これを元にした増収額は年間約600億円~約1,400億円になると試算されています。

 IR施設で懸念材料となっているのが「ギャンブル依存症増加」と「資金洗浄」です。依存症増加に対しては、マイナンバーカードや顔認証システムによる入場制限や自動現金支払機(ATM)の設置禁止などを、資金洗浄に対しては国際基準に準拠した内部統制システムの構築、反社会性力の排除などを掲げています。

大阪府・市の対応、一方の北海道苫小牧市は

 2025年の国際博覧会の会場となる夢洲(大阪市此花区)に誘致をめざす大阪府・市は、2027年度~28年度の全面開業を諦め、「実施方針」には開業時期を明記しないことにしました。報道によれば「部分開業」は2020年代後半になるようです。

 大阪府・市がこうした措置をとったのには、新型コロナ感染拡大による事業者への深刻な影響ということが背景にあります。開業までに巨額の費用が必要となるわけですから、今の状態が続けば、事業者そのものの存続が危ぶまれるのではないでしょうか。実際、大阪府・市はIR施設までのアクセス線整備費用として200億円超を事業者に求めることにしています。加えて、遅々として進まない国の対応に、事業者側に嫌気がさしたという指摘もあります。それでも、IRは菅政権の「目玉事業」ですから、政府としては新型コロナ感染拡大の動向を見ながら、粛々と進めていくことになるでしょう。

 一方、IR施設誘致に慎重な構えを見せる北海道に対し、誘致先である苫小牧市では、まだIR誘致に挑戦し続けています。そこには、IR施設の誘致によって雇用を拡大し、人口減少をストップさせようという思惑があると言われています。もちろん、財政への貢献という視点も欠かせません。IR施設は良質な雇用の場であると、同市では見ているようです。

その他の自治体はどうなのか

 大阪府・市、横浜市のように動いている自治体がある一方、北海道のように慎重になった自治体もあります。一時期、東京都、千葉県、愛知県なども誘致に動こうとした時期もありました。名古屋市の河村たかし市長は「三重県の長島スパーランドに誘致すればいい」と話し、三重県知事から「他県のことに口出ししないでほしい」と言われたという、笑い話のようなことがありました。国が現時点で決めている誘致先は3カ所です。先行組が勝つのか、とすれば残る1カ所はどこになるのか、気になるところです。

建設業界の動きは

 IR推進法が成立し、実際に「夢洲」といった具体的な地名が出たことで、建設業界は担当部署を置きました。「オリンピック後は万博とIRが大きな市場だ」という判断によるものです。横浜市の例を見れば分かるとおり、投資額は1カ所あたりで数千億円から1兆円超にも達します。

 しかしながら、新型コロナの感染拡大による影響で、実際の「発注」がいつになるのか分からなくなってしまいました。担当部署はなくなってはいませんが、縮小しつつ、今後の成り行きを見ているといったところでしょうか。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
常務取締役コミュニケーション・デザイン局長
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、現在のコミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄している。

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