建設業の税務調査

はじめに

 建設業は税務調査の対象になりやすい業種といわれています。その理由は、工事一件あたりの売上が高額にのぼることや、建設業特有の会計処理にあります。特に建設業会計は各社の判断が絡む曖昧さ、複雑さを持っています。例えば、売上計上においては入金時期に関わらず、工事の進捗状況や完成・引渡時点をもって収益計上する、費用計上においては間接工事費の按分計算が必要となる、といったように各社の判断が絡む事項が多いからです。

 判断が絡む事項が多ければ数字を操作し易くなり、数字を操作しやすければ不正割合が高くなる傾向があると考えられ、また1件あたりの売上計上額も高額に及ぶとなれば、税務調査が多くなるという状況も理解できます。

 今回は、建設業の税務調査について実際の税務調査実績、税務調査で注目される建設業特有の論点及びその対応策について考えてみたいと思います。

税務調査実績

 国税庁は、毎年11月~12月に「法人税等の調査実績の概要」としてその年度の税務調査結果を公表しています。そこではその年の税務調査のトピックや、主要な取組内容などが記載されており、様々な視点から調査結果が示されています(参考:令和元事務年度 法人税等の調査事績の概要)。

 そこで直近5年間の税務調査における「不正発見割合の高い10業種(法人税)」として挙げられている業種を見てみます。下表の通り、建設業はトップ10に毎年複数業種入っており(黄色ハイライト部分)、税務調査においても毎年重要業種として捉えられていることがわかります。

不正発見割合の高い業種(法人税)

 直近の「令和元事務年度 法人税等の調査事績の概要」における「不正発見割合の高い業種(法人税)」を更に詳しく見てみましょう。「土木工事」「一般土木建築工事」の令和元事務年度の不正発見割合は30%程度、不正一件当たりの不正所得金額も15百万円近くなっており、いずれも高い水準といえます。

(1)不正発見割合の高い10業種(法人税)

(出典)国税庁 令和元事務年度 法人税等の調査事績の概要

建設業の税務調査での注目論点

 税務調査で注目される建設業特有の論点について、①売上関連と②費用関連とに分けて見ていきたいと思います。

(1)売上関連

 建設業における工事契約は長期にわたるものが多く、現行ではそのような長期工事については原則として工事進行基準を適用することとされています。工事進行基準では、工事収益総額、工事原価総額、決算日における工事進捗度を見積もった上で、工事の進捗度合いに応じて売上計上することになります。この点、2021年4月から主に大会社に強制適用になる「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」においても、工事契約に係る履行義務が、「一定の期間にわたり充足される履行義務」と判断される場合は(ほとんどの工事契約が該当)、履行義務の充足度合いにより、一定の期間にわたって収益を計上することになります。

 即ち、新収益認識基準適用の前後に関係なく、長期にわたる工事契約に係る売上を計上する際には、工事の進捗度を見積もるといった見積りの要素が加わることになります。これは、見積り次第で、本来は当期に計上すべき売上を翌期に計上したり、赤字見込みの翌期完成の工事を黒字である当期の売上と相殺する目的で前倒し計上したりするといった操作もし得るといえます。それゆえ、建設業の税務調査ではこういった売上の期ズレの有無は必ずチェックされる重点項目になります。

(2)費用関連

①期ズレ
 上述の通り、長期にわたる工事を請け負う建設業において、売上の期ズレは税務調査において最も重点的にチェックされる項目の一つといえますが、これは経費に関しても同様のことが言えます。売上と同様に、工事契約の履行義務が充足されていない部分(工事未了部分)に係る費用を当期に計上するといった期ズレも税務調査でよくチェックされるポイントです。

②間接工事費の按分
 工事原価については、工事に直接紐づけできる材料費などの直接工事費と、直接工事に結び付かない複数の工事現場の管理を行う従業員の労務費や現場諸経費などの間接工事費があります。この間接工事費は按分計算して各々の工事に割り振りを行います。この按分計算においても判断の要素が入りますので、一定のルールを定め、継続的な処理を行うことが求められます。

③外注費と給与の線引き
 建設業の税務調査では、従業員扱いの人を外注扱いとして、給与ではなく外注費として処理していないかという点も着目されるポイントです。これは、従業員ではなく外注扱いとすることで、雇い主の社会保険料及び消費税の負担が軽くなるため(給与は不課税である一方、外注費は課税対象のため、消費税の納付額から差し引くことが可能)、本来給与として処理すべきものを外注費で処理するインセンティブがあるからです。

 この点、外注費として処理したものが給与に認定された場合には、消費税の追徴課税と源泉徴収漏れの2つが指摘されてしまうことになります。

 外注費か給与かは、その者が自分で事業を営んでいる立場(事業者)であれば外注費、会社に雇用されている立場(従業員)であれば給与、といった考え方になりますが、両者の区分は曖昧です。この点、消費税税法基本通達1-1-1に示された以下の4つの基準等を参考に、実態を総合的に勘案して判断されることになります。

(ⅰ) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
  → Yesなら外注費としての性格が強くなる。
(ⅱ) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
  → Yesなら給与としての性格が強くなる。
(ⅲ) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
  → Yesなら給与としての性格が強くなる。
(ⅳ) 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
  → Yesなら給与としての性格が強くなる。

対応策

 上記のような税務調査での注目論点への対応策としては以下のものが考えられます。

(1)工事台帳の作成

 工事台帳とは、工事毎の原価を集計する台帳のことです。工事台帳を作成することで、原価計算が明確になるのはもちろん、工事の進捗度や収支内容、利益率など経営状況を把握することも可能となります。また、工事台帳は売上や費用の計上時期、間接工事費の按分における基礎資料となります。よって、税務調査でも工事台帳の有無を確認されることが多く、適切な工事台帳をベースに会計処理がなされていることは、首尾一貫した処理が行われているというメッセージになります。工事台帳の記載自体に恣意性が無いことを証明するためにも、工事請負契約書、工事完了報告書、請求書といった原資証票も共に保存しておく必要があります。

(2)請負契約書の作成

 外注する際にはまず、請負契約書を作成することが必要です。請負契約書があるだけで、外注費として認められるわけではありませんが、請負契約書がなければ、なおのこと給与と判断される可能性が高いといえます。証明書類として請負契約書を作成し、実態としても外注者自身で社会保険に加入してもらうなどの従業員との差別化を図ることが重要です。

おわりに

 建設業が税務調査の対象になりやすいということは、調査実績からも明らかです。税務調査の連絡はいつやってくるかわかりません。しかし、調査側も長年の経験によるノウハウが蓄積されており、注目される論点は概ね決まっていると考えることもできます。調査の連絡が来てから慌てないよう、日頃から注文書、契約書、請求書といった一連の取引を確認できる証票書類の整理・保管、工事台帳の作成、社内ルールの明確化及び継続的適用を心掛け、準備しておくことが大切です。そしてこのような対応は、結果的に税務調査対策だけではなく、会社の規定整備や証票整理、経営判断に役立つ情報提供にもつながることになると思います。

 執筆者 maekawa_100
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。

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