コロナ禍での建設業の業績分析

はじめに

 2020年は、新型コロナウイルスの影響により、多くの業界や企業において経済活動が停滞するといった未曾有の事態に見舞われました。未だコロナ禍にあり、先行き不透明な状況が続く中、建設業の業績はどのように推移しているのでしょうか。

 今回は、2020年1月~12月の建設業の業績を産業平均と比較することによって、建設業の現状を分析してみたいと思います。

法人企業統計調査

 建設業と産業平均の比較分析を行うにあたって、財務総合政策研究所(財務総研)が定期的に公表している「法人企業統計調査」を利用したいと思います。

 法人企業統計調査とは、標本調査として実施されている統計法に基づく基幹統計調査です。これには、年度における確定決算の計数を調査する「年次別調査」(9月に発表)と、資本金、出資金又は基金1,000万円以上の営利法人等を調査対象として四半期ごとに仮決算計数を調査する「四半期別調査」(3月、6月、9月、12月に発表)があります。

 今回の検討にあたっては、法人企業統計調査の四半期別調査の最新版(令和3年3月発表)を利用しています。前述の通り、こちらの統計には資本金1,000万円未満の企業は含まれていない点にご留意ください。

売上高・営業利益・経常利益の推移

 業績に関する指標として、一般に重要視され、かつ、法人企業統計調査で取り上げられているものとして「売上高」「営業利益」「経常利益」があります。

 この内、「営業利益」は売上高から売上原価(建設業の場合工事原価)、販売費および一般管理費を差し引いたものであり、企業の主たる営業活動の収益性を表します。「経常利益」は、企業の営業活動に加え、毎期経常的に発生する財務活動を加味したもので、営業利益に利息等の値を加減算したものです。まずは、この2つの利益について比較を行います。

 建設業と産業平均(全産業(金融業・保険業を除く))を比較するにあたっては、各指標の絶対数の推移よりも、前年同期増加率の推移を利用する方が、業界規模や季節変動による影響を受けづらいため、以下の検討においては、前年同期増加率の推移を利用しています。

① 全産業(金融業・保険業を除く)の売上高、営業利益、経常利益の推移

 【グラフ1】より、全産業においては、売上高、営業利益、経常利益の全ての指標で2020年1月~3月期以降、年間を通して、前年同期増加率がマイナスで推移していることがわかります。特に外出自粛等の影響を大きく受けた2020年4月~6月期の落ち込みが激しく、新型コロナウイルスの影響が顕著に出ているものと思われます。

② 建設業の売上高、営業利益、経常利益の推移

 【グラフ2】より、建設業では、売上高については、2020年4月~6月ではなく、2020年7月~9月にて最大の減少幅を記録しており、産業平均よりも新型コロナウイルスの影響が緩やか、かつ、一足遅れて発生したように読み取れます。

 営業利益と経常利益については、2020年4月~6月が最大の減少幅となっていますが、産業平均と比較すると、その下落率は穏やかで、直近(2020年10月~12月)では、大幅な増加に転じていることがわかります。この数値だけで判断すると、大局的には、建設業は回復基調になっているとも考えられます。

 全体として【グラフ1】と【グラフ2】の比較より、各指標共に産業平均よりも建設業の方が2020年の年間を通じて業績落ち込み幅は少なかったことがわかります。

設備投資の推移(全産業と建設業の比較)

 次に、業績と同じく、法人企業統計調査における主要指標である「設備投資」の推移について、全産業と建設業で比較してみてみたいと思います。ここに設備投資とは、有形固定資産(土地の購入費を除き、整地費・造成費を含む)及びソフトウェアの新設額のことを言います。

 【グラフ3】より、産業平均では、2020年4月~6月で大幅なマイナスとなり、直近に至るまでマイナスで推移しています。コロナによる業績低迷や将来の不確実性を背景に、企業による投資が抑制されているものと読み取れます。

 一方、建設業では2020年は一貫してプラスで推移しており、ウィズ・ポストコロナの状況下でも底堅く設備投資がなされている状況にあるといえます。特に直近の2020年10月~12月は増加率が大幅に上昇しており、主要業種の中で、建設業が最も増加率が高い業種となっています(報道発表 四半期別法人企業統計調査(令和2年10月~12月期)結果の概要 r2.10-12.pdf (mof.go.jp)

おわりに

 今回の分析により、建設業においても他業種と同様に新型コロナウイルスの影響による業績悪化は見られたものの、産業平均と比較するとその落ち込み度は限定的であったこと、利益ベースでは好転の兆しが見えていることが示されました。また、建設業ではコロナ禍においても継続して積極的に設備投資が行われていることがわかりました。

 今後、ウィズ・ポストコロナ時代の新たな生活様式により、リモートワークが定着し、サテライトオフィスの設置、地方への移住、複数拠点でのデュアルライフなどが進む中、新たな建設需要も生まれてくるでしょう。加えて、国の重要課題とされている国土強靭化に向けての取り組み、大型再開発、大型案件が控えていることを鑑みると、建設ニーズは堅調に増えてものとみられます。

 コロナ禍の影響は未だ続いており、予断を許さない状況ではありますが、他業種の業績回復や新規投資が遅れる中、建設業は一足早く回復に転じているとも考えられ、日本経済を支える機能を果たしているともいえます。先行き不透明なウィズ・ポストコロナ時代において、日本経済回復のためにも、建設業の役割がますます期待されています。

 執筆者 maekawa_100
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。

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