建設業と管理会計 ~管理会計の意義、原価分解~

はじめに

 新型コロナウイルスの影響が長引き、先行き不透明な状況が続く中、多くの企業で経営戦略の見直しや損益管理の強化が必要とされています。このような未曾有の事態だからこそ、経営者には経営環境の変化に俊敏に対応し、適時適切な戦略の策定及び実行が求められます。

 今回から2回に分けて、経営者の意思決定や業務のコントロールに役立つ「管理会計」について取り上げます。管理会計の概要や導入メリット、建設業における必要性、及び具体的な手法である「原価分解」と「CVP分析」について見ていきたいと思います。

管理会計とは

 一般に「会計」と聞くと、会社の経営成績や財政状態を示した貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を作成し、企業活動の成果を数字で示すこと、といったイメージがあると思います。これは会計の大きな役割ですが、企業会計は大きく分けて「制度会計」と「管理会計」に分かれます。

 「制度会計」は上述通り、企業を取り巻く利害関係者に対して経営成績や財政状態を報告することを目的として、会社法や税法などの法律に基づいて実施される会計を言います。制度会計は更に、財務諸表の作成・開示を通じて会社の実態を利害関係者に提示する「財務会計」と、公平な課税を行うための税額計算のための「税務会計」に分けられます。財務会計と税務会計とでは、税額調整によって導き出される数値が異なることがあります。

 一方「管理会計」は、企業の経営者や管理者が、経営計画や業務改善、原価の把握や管理といった経営上の意思決定を行う際の情報提供を目的として実施される会計を言います。

 つまり、制度会計は企業の外部の人を対象としており、管理会計は企業の内部の人を対象としている点が大きく異なります。制度会計と管理会計の特徴をまとめると以下の通りです。

制度会計と管理会計の特徴

制度会計(財務会計・税務会計) 管理会計
目的 経営成績・財政状態の報告、適正な税額計算 経営者の意思決定、マネジメント、業務コントロール
利用者 社外の利害関係者、税務署 社内の経営者、管理者、従業員
法規制 会社法、税法、金融商品取引法、会計基準 なし

管理会計の意義

 前項に示した通り、管理会計は会社の経営のための社内向けの会計ということができます。また、法規制により会社に義務付けられている制度会計と異なり、会社の義務ではないので、実施するか否かは会社の自由です。

 しかし、管理会計を導入することで、売上はいくらになるか、コスト削減ができるものは何か、利益はいくらになるのか、など数字を使った分析が可能になります。これにより経営者の感覚を数値化し、具体的な戦略に落とし込むことができます。即ち、管理会計は会社の将来を予測し、方向性を示すための手法といえます。

 未曾有の事態といわれるコロナ禍において、会社はより慎重で説得力ある意思決定が求められます。客観的な数字の裏付けを提供する点で、管理会計はますます重要になってくるといえます。

建設業における管理会計

 建設業は、受注請負産業であること、現場毎に損益計算が行われること、入札・契約制度があること等の特徴から、他業種に比べても予算管理や原価管理が会社の損益を左右する重要なファクターとなる業種といえます。そのため、実際に多くの会社で予算管理や原価管理といった管理会計が取り入れられています。

 予算管理とは、事業計画を会計数値に置き換えた予算を決定し、予算と実績を比較し、予算からの逸脱を防ぐようタイムリーにフィードバックすることを言います。これは多くの会社で取り入れられていますが、予算を作成して予算と実績の差異を確認するだけでは、予算管理として十分ではありません。予算管理の目的はあくまで目標利益の達成です。予算と実績を分析し、差異の原因究明及び対策をタイムリーに講じることが重要です。

 原価管理とは、製品の製造に必要となる原価の算出とそれに応じた目標値の設定を行い、目標値と実績の差異原因を分析してコスト改善を行うものです。製造業に限ったもののように思われがちですが、建設業やサービス業等、様々な業種で取り入れられている重要な管理手法です。

建設業に役立つ管理会計の基本的考え方

 管理会計の手法は多岐に渡り、網羅的に理解することは容易ではありません。よって当コラムでは、建設業への適用可能性も考慮に入れつつ、管理会計の前提ともなりうる重要な考え方及び手法として、以下の2つの項目について掘り下げて見ていきたいと思います。

 ① 原価分解(固変分解)
 ② CVP分析(次回にて取り上げます)

原価分解(固変分解)

 管理会計では様々な手法を利用する際の前提として、原価(費用)を固定費と変動費の2つに分解(固変分解)します。固定費とは操業度(売上)の増減に関わらず、決まった金額で発生する費用です。例えば、作業員の基本給、リース料、地代家賃、減価償却費などです。一方、変動費は操業度(売上)の増減に応じて比例的に変化する費用です。例えば、原材料費や外注加工費などです。

 実務上、固定費と変動費の主な分類方法として、統計的方法である「最上二乗法」と「勘定科目精査法」があります。ここでは一番基本的、かつ手軽にできる「勘定科目精査法」について見ていきます。

 勘定科目精査法とは、損益計算書や製造原価報告書に記載されている各勘定科目の性質によって固定費と変動費を振り分ける方法のことを言います。どの勘定科目が固定費or変動費になるのかを一様に決定することはできず、業種の特性や各々の企業の実態に応じて判断することになります。

 単純な方法ではありますが、担当者の判断がキーとなります。判断に迷った際に参考となるのが、中小企業庁から提示されている「中小企業の原価指標」です。ここでは製造業、卸・小売業、建設業の3業種について原価分解の基準を示しています。建設業における固定費・変動費の区分基準は以下のように示されています。

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_05c_4_3.html

 なぜ固定費と変動費に分解することが管理会計の様々な手法の前提となるかというと、固変分解により利益の予測が可能となるためです。

 利益は売上から費用を差し引くことで求められます。よって利益予測には、売上が増加した際の費用の増加額を把握する必要があります。費用のうち、売上の増加に伴って増加する変動費を固変分解で把握することによって、売上に比例して上昇する費用を把握することができます。その上で、売上に連動しない固定費と算出した変動費の合計を予想売上から差し引くことで予想利益を求めることが可能となります。

おわりに

 今回は、管理会計の概要や意義、建設業での必要性や原価分解について見てみました。原価分解をベースとした分析手法の基本ともいえるCVP分析については次回掘り下げて見ていきます。

 厳しい経済状況だからこそ、経営者の主観だけではない、数字の判断材料によって裏付けされた戦略が重要になってきます。一言で管理会計といっても、様々な手法があり、複雑な分析手法から経理業務の中からちょっとした心がけですぐに取り入れられるものもあります。今回紹介した原価分解は、行うだけで自社のコスト構造を的確に把握することにつながります。また、次回紹介する損益分岐点や目標利益達成のための売上高の算出など、管理会計的視点からの様々な分析の基礎にもなります。

 まずは身近なところから管理会計を取り入れてみてはどうでしょうか。

 執筆者 maekawa_100
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。

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