建設業と管理会計 ~CVP分析~

はじめに

 今回は前回に引き続き「建設業と管理会計」というテーマで、管理会計の基本的分析手法ともいえるCVP分析について具体例な数値例も用いつつ、見ていきたいと思います。

CVP分析及び損益分岐点

 建設業は受注請負産業であることから、受注別、現場毎のマネジメントに徹していればよいとも考えられるかもしれません。しかし、全社的視点で数値化された短期利益計画の策定は、他業種と同様に企業運営上不可欠なものといえます。

 その際に有効な分析手法の一つにCVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis)があります。CVP分析とは、費用(原価)=Cost、活動規模(建設業では完成工事高)=Volume、利益=Profitの相互関係を分析する手法です。即ち、来期の販売量増減に伴い、コストと利益がそれぞれどのように変化するのかを分析するものです。

 CVP分析の中心となるものとして損益分岐点の分析があります。損益分岐点とは「売上高=費用」となる点、いわば、赤字と黒字を分ける境目(損益ゼロの点)のことを言います。また、損益分岐点における売上高を損益分岐点売上高といいます。

 企業活動においては、売上高が損益分岐点売上高を超えることで初めて利益が発生します。そのため、損益分岐点を把握し、どれだけの活動規模で損益分岐点を超えられるかを把握することは重要です。

 損益分岐点と結び付けた活動規模の推定は、予算策定の際にも、ベストプラクティスのケース、ワーストケースのそれぞれにおいて、最低限どの程度の活動規模が必要なのかの推定にもつながるため、非常に有用です。

損益分岐点売上高の計算

 益分岐点売上高の計算手順は以下のようになります。

① 原価分解(固変分解)をする。(詳細は前回コラム参照)
② 変動費率を算出する。
 【変動費率=変動費/売上高】で算出され、売上増加に伴い変動費が増加する割合を表しています。
③ 損益分岐点売上高を算出する。損益分岐点売上高をAと置くと、以下のような算式で表すことができます。

 A=(変動費率)×A+固定費  ➡ (1-変動費率)×A=固定費
 

 以下に数値例を使って実際に計算してみます。

▼ 前提となる簡易版PL

損益分岐図表

 上記例を、一般的に用いられる損益分岐図表で表現すると、以下の通りとなります。

▼ 損益分岐図表

CVP分析の活用

 損益分岐点売上高が算出できると、以下の式で安定余裕率を求めることができます。

 安全余裕率=(売上高-損益分岐点売上高)÷売上高×100

 安全余裕率とは、実際の売上高と損益分岐点売上高の乖離によって利益の安定性を示す指標です。安全余裕率が高ければ高いほど利益が安定していることになります。安全余裕率の推移を見ることで自社の経営の安定性の動向を客観的に見ることができます。

 またCVP分析を基に、目標利益のシミュレーションや費用構造の変化時のシミュレーション等も可能になります。

 例として、目標利益を上述の損益分岐点売上高の式で求める場合を確認します。上記の式の「固定費」に目標利益を加算した「固定費+目標利益」と置き換えた以下の式にて、目標達成の売上高を求めることができます。

 目標達成の売上高(B)=(変動費率)×B+(固定費+目標利益)
 ➡ (1-変動費率)×B=固定費+目標利益 
 

 このようにCVP分析は、コスト構造を的確に把握し、各々の要素が損益にどう影響するか知るために効果的な手法といえます。

おわりに

 前回から2回に渡り、管理会計について取り上げました。同じ「会計」という言葉を使っていても、過去の企業活動の成果を適確に示すための財務会計と、将来の企業活動の意思決定やマネジメントに生かすための管理会計では、目的も作成するものも利用者も異なります。管理会計は任意のものですが、経営者の判断材料を提供するツールとなりえます。当コラムが、管理会計の理解や自社の管理会計を見直す際のきっかけとなれば、幸いです。

 執筆者 maekawa_100
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。

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