死亡災害が4年ぶりに増加

死亡災害が4年ぶりに増加

はじめに

 厚生労働省が公表した2021年(1月-12月)の労働災害による死亡者数は、1月7日現在(速報値)で779人、うち建設業は274人で全体の3分の1を占めています。この数字を前年同期と比べると34人、14・2%増となり、死亡者数は4年ぶりに増加となりました。建設専門紙によれば、「近年の確定値までの推移を踏まえると、21年の死亡者数(確定値)は295人から305人程度になるとみられ、3年ぶりに300人台となる可能性も出ている」ということです。その背景には、確定値が出されるまでの間に死亡者数が「19年が23人、20年が18人増えていた」ことがあり、それを加味しての確定値を予想しています。

第13次労働災害防止計画

 厚労省は18年度から22年度までを「第13次労働災害防止計画」期間とし、死亡災害についてはその数を17年と比較し22年までに15%以上減少させることを目標に据えています。建設業は重点業種として15%以上、死亡者数を減らすということが打ち出されています。建設業では特に「墜落・転落」による災害が多いことから、墜落防止用保護具を「フルハーネス型」にすることを義務付けました。

 また、同計画では業種ごとに重点対策を打ち出しており、建設業では解体工事における安全対策の検討、自然災害に被災した地域の復旧・復興工事での労働災害防止対様の徹底、建設工事従事者の安全および健康の確保に関する基本的な計画に基づく取り組み施策の着実かつ計画的な実施のほか、計画期間中には東京オリンピック・パラリンピック競技大会施設の建設が最盛期を迎えることから、長時間労働の縮減を含めた労働災害防止の徹底ということも盛り込まれました。

 対17年比15%以上の減少を目指した計画ですが、実際には速報値段階で6・5%減にとどまっています。安全設備の整備とともに新しく現場に来た人たちに対する「安全教育」の徹底が必要不可欠です。

業種別、型別死亡災害を見る

 21年の全産業での死亡者数は770人でした。業種別の内訳は製造業127人(全体に占める割合16・3%)、鉱業11人(1・4%)、建設業274人(35・1%)、交通運輸事業16人(2・1%)、陸上貨物運送事業84人(10・8%)、港湾運送業4人(0・5%)、林業29人(3・7%)、農業・畜産・水産業40人(5・1%)、第三次産業194人(24・9%)、商業64人(8・2%)などとなっています。製造業に比べて安全設備が少なく、高所作業も多い建設業の多さが目立っています。

 型別では「墜落・転落」が全産業で204人(26・2%)を占めており、最も多くなっています。これに次ぐのが「はさまれ・巻き込まれ」の132人(16・9%)、交通事故(道路)126人(16・2%)となっており、この3型が3桁台の死者数となっています。

 最も多い「墜落・転落」の過半数を占めているのが建設業で、その数は104人に達します。労働災害防止計画で、この「墜落・転落」防止に重きを置いているのは、こうした数字の裏付けがあるとみることができます。建設業の死亡災害のおよそ4割が「墜落・転落」で発生しているわけで、労働災害防止計画でフルハーネスの装着を義務づけた理由が理解できる結果となっています。

 「墜落・転落」に次いで建設業の死亡事故が多いのが「はさまれ・巻き込まれ」の29人(建設業死亡事故に占める割合10・6%)、「崩壊・倒壊」の28人(10・2%)、「交通事故(道路)」の24人(8・8%)、「激突され」の21人(7・7%)の順となっています。

死傷災害の発生傾向

 これまで見てきたように、死亡災害は「墜落・転落」の多さが目立ちます。第13次労働災害防止計画の中で厚労省は、「事故の型別に見ると、転倒、動作の反動・無理な動作といった、高い年齢層で発生しやすい災害が増加している」と指摘しています。建設業は他産業に比べ、高齢化が進んでいることから、高齢者に無理をさせないことが死亡災害増加を防ぐ重要な要素となってきています。

 また、肉体的な面だけでなく、労働者の精神の健康を守るということも求められています。厚労省によれば「仕事や職業生活に関する強い不安、悩みあるいはストレスを感じる労働者は全労働者の半数を超えている」といいます。過労死等で労災認定された件数は「ここ数年は700件台で推移」し、その中で「死亡あるいは自殺(未遂含む)の件数は200件前後」に達しています。身体に対する安全設備の充実・完備と同様に、心(精神)に対するケアという安全設備の充実が強く求められてきています。

心も体も健康が大切

 24年4月からは建設業にも「残業規制」が適用されます。それにより長時間労働は緩和されそうですが、メンタルヘルスに関する部分はどうでしょうか。働く人の心と体の「健康」が維持されてこそ企業は成長・発展を続けていけるのではないでしょうか。

 死亡事故を起こせば、管理者は業務上の責任を問われることはいうまでもありませんし、指名停止という行政上の処分を受けることになります。安全は何を差し置いても守るものであるということはいうまでもありません。

 受注額が厳しくなると、安全面にかける費用が削られるという話を聞いたことがあります。これからますます受注競争は厳しくなりそうな予想の中、安全面での「手抜き」による事故が多発しないことを願うばかりです。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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