各地で相次ぐ金属泥棒
太陽光発電施設の電線、廃屋の水道の蛇口など、金属製品が盗まれていることは、すでにここで書いたとおりです。最近、その「窃盗」の度合いがますますエスカレートしてきています。電線といえば窃盗犯の狙いは「銅」ですが、ついに神社の銅屋根まで盗まれてしまうという事件が起きました。もはやこうなると、神をも恐れぬ所業とでも言いたくなります。神社総代は警察に盗難届けを出したことは言うまでもありません。蛇口も窃盗場所が廃屋から、実際に使われている公園に移ったようで、傍若無人さが目に余るようになってきました。
ガードレールや工事現場内の鉄板といった「鉄製品」だけでなく、とある障害者施設からは300kgにおよぶアルミ缶が盗まれました。アルミは「資源ゴミ」として地方自治体が回収して収入に充てることもあり、黙って持っていくのは犯罪となります。それを承知でやっているのでしょうから、いかに価格が上がっているのかを裏付けているとも言えます。
金属泥棒が相次いでいるとはいえ、鉄スクラップや銅地金などに見られた価格高騰は、今は1年前に比べ、まだ少し高いのですが、落ち着きを見せ始めています。現在はナフサ高騰に伴って塩ビ樹脂やポリエチレンといった化成品の価格が上昇しています。それが製品価格に転嫁されるのは、火を見るより明らかです。
値上げは金属だけではない
建設物価調査会の「建設物価調査リポート」8月号によると、レディーミクストコンクリート(生コン)価格が、全国103都市で値上がりしました。単月としては過去最多で、値上げ交渉が続いているといいます。
生コンはセメントを原材料に、細骨材、粗骨材、混和剤に水を加えて製造します。その原材料となるセメントの値上げも相次いで表明されています。値上げ幅は1トンあたり3,000円といったところです。セメントメーカーでは、ロシアのウクライナ侵攻による石炭価格の上昇、円安の進行、代替炭確保のためのエネルギーコスト上昇、輸送コストの上昇を値上げの理由に挙げています。石炭価格の大幅な上昇を踏まえ、石炭価格と連動する「サーチャージ制度」を導入するメーカーも出てきました。
生コン業界の動きも注目されます。東京地区生コンクリート協同組合は、契約当初の価格に縛られる「契約ベース」から、実際に出荷する時点での価格で納入する「出荷ベース」に、2023年4月から変更するとし、10月中に具体的な内容を公表する方針です。
同協組では4月に3,000円の値上げと「残コン」の有償化を打ち出しており、残コン有償化については、10月にアジテータ車内の残コンを目視するルールや、相当額を計算するシステムをユーザー(ゼネコン)に公表、23年4月から適用したい考えでいます。
こうした生コン業界の動きが全国に広がっていくだろうことは想像に難くありません。
設備機器にも値上げの動き
大手設備機器商社が毎月出している「セグメント別市場動向」(8月)によると、トイレやバス、洗面、キッチンといった「水回り関係」製品での価格改定が、10月以降に見込まれています。
トイレ関係では温水洗浄便座の納期が改善傾向にあるというものの、貯湯式シートタイプの供給は、依然としてタイトな状況が続いています。10月の価格改定(アップ)では衛生陶器で3~8%、温水洗浄便座で2~13%程度の値上げが見込まれています。バス、洗面でも「各メーカー素材上昇による価格改定あり」との予測ですし、キッチンは価格改定済みに加え、機器欠品に伴う納期遅延が続いているもようです。
納入まで数か月かかると言われていた給湯機器ですが、出荷は改善傾向になりました。一方でポンプは中国・上海のロックダウンの影響が残り、納期は遅延しています、増圧、給水ユニットはメーカー間の差はあるものの納入までに3カ月から半年はかかるとされており、メーカーによっては受注停止という事態に及んでいます。工期に与える影響が気になるところです。
建設業界の動き
資材価格の高騰は、当然のことながら建設業経営に大きな影響を与えます。そのため、公共発注者に対しては、発注価格に対して、スライド条項を適用するよう求めていますし、発注者側も理解を示しています。建設労働者の処遇改善(賃金アップ等)も含めて、公共発注者に対しては、業界団体を通じて適切な対処をするよう求められていくでしょうし、発注側も相応の対応をしてくれるだろうという期待があります。
問題は民間発注者です。そこで早速動いたのは日本建設業連合会(日建連)です。日建連では「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い」と題するパンフレットを作成しました。この中で「建設資材高騰等の現状」(2022年7月版)として①新型コロナ禍による生産・供給制約②コンテナ不足等、物流のひっ迫・停滞③EV(電気自動車)シフトに伴う半導体需要増大④CN(カーボンニュートラル)に伴う設備投資コスト上乗せ⑤生産拠点の被災⑥ウクライナ危機――の5点から「世界的な原材料及び原油等エネルギーの品不足や価格高騰の影響を受けて、建設工事の資材価格なども高騰しています」とし、建設資材物価は21年1月に比べ21%(土木15%、建築25%)上昇していること、材料費割合を50~60%と仮定した場合、ここ17カ月で労務費、仮設費、経費等を含めた全建設コスト(平均)としては10~12%上昇していることを明らかにしています。
こうした背景からパンフレットでは、「既に締結された契約における資材高騰に伴う個別協議」という項目を設け、短期間に多くの資材価格が上昇することは工事請負契約締結時には予測できなかったこと、契約法では、いわゆる「事情変更の原則」が認められていることを十分に勘案して請負価格の変更や設計の変更等に係る協議等に対応してほしいと訴えています。
今後の予想
当たり前のことですが、建設費の上昇は事業者の負担増となります。そのことが事業者の資金計画を狂わせ、ともすると着工の延期という事態になりかねません。上昇したコストをどこでどれだけ吸収できるか、また同時に製品がきちんと決められた納期に納入され工期に間に合うかどうか、現場経営の舵取りが難しい時代です。
あくまで請負価格の変更を求めていくか、材料・工法を変更して請負価格は変更しないでおくのか、はたまた「泣く子と地頭には勝てない」のか。経営層にとっては事業主との信頼関係を保ちながら、理解を得ていくという努力が、ますます必要な時代になってくるのは目に見えています。「必要な費用はきちんといただく。いただけないなら、スペックを下げる」とまで言い切る「度胸」が必要になるかもしれません。
顧問
服部 清二 氏
中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。