1.はじめに
建設業は他の業種に比べ、「受注請負産業である」「生産現場毎に計算が行われる」「入札・契約制度がある」等の特徴があるため、予算管理や原価計算管理が会社の損益を左右する非常に重要なファクターとなります。そのため、実際に多くの会社で予算管理や原価計算は行われています。そこで、今回は建設業の原価計算の一部である実行予算について確認していきたいと思います。
2.実行予算を作成する必要性
建設業においては、同一製品を継続的、反復的に生産するわけにはいかないため、工事の契約毎や現場毎に生産するものが変わってくることになります。そのため、それぞれの契約や現場毎に実行予算を作成しない限り利益率や工程、進捗状況等が分からないことになります。実行予算を作成することにより、事前にどの部分のコストを削減することができるか明らかにすることができます。さらに工事着工後もそれぞれの現場毎に実際原価を把握することにより、実行予算と比較し、赤字や損益の悪化が早期に発見できることになります。そのため、赤字や損益の悪化を食い止めることができる部分については、迅速に対応することが可能になります。実際には現場は不確定要素に満ちており、完全にコントロールできる訳ではありません。しかし、実行予算と対比して管理することが重要であることには変わりないのです。
3.実行予算と会計
会計には、投資家や利害関係のある第三者に経営状況を適切に報告するために定められた財務会計、税務申告を正しく行うために定められた税務会計、経営判断や意思決定のために会社が管理するための管理会計の3つがあります。
財務会計は会社の経営状態を外部の利害関係者(ステークホルダー)へ開示するために作成されます。そのため、誰もが比較できるよう統一の基準により作成されている財務諸表をもとにして作成されることになります。
税務会計は税務申告のために作成するものです。公平な課税を課すために調整がなされるため、財務会計とは、導き出される数値はズレることもあります。
管理会計は、主に事業計画書や中期経営計画の策定、取締役会の資料作成、予実管理と分析を行うために作成されます。それぞれの企業ごとに経営者が必要とする情報を示すことが大切です。実行予算は管理会計の一部となりますので、会社にとって使い勝手が良いものにする必要があります。
4.実行予算の作成方法
実行予算は、本来であれば受注前に作成し検討材料とすることが理想的ですが、遅くとも現場着工前には作成することが必要です。なぜなら、見切り発車をしてしまうと目標とすべき指標がないため、赤字になっていても早期に発見できない可能性がでてくるためです。逆に利益が出ていたとしても実行予算を作成していないとどのくらい利益が生じるのか工事が終わってみないと分からないということになりかねません。
そのため、実行予算の作成には精度も必要になってきます。仮に実行予算を作成し、その予算を基に工事を受注したとしても、その実行予算が実際原価とかけ離れていたら、現場で実行予算通りに作業を進めようとしても不可能になってしまいます。しかし、実行予算が正確であれば現場で手配する単位や工事の進捗状況が目に見える形で管理出来ます。
実行予算は、作成担当者を誰にするか、どのように作成するかが最も重要となってきます。通常は、工事現場を担当する責任者が作成することになります。工事の担当者が作成することによって、当事者意識が芽生え、責任感が生じ、担当者のコスト意識も高まるという効果も期待できます。仮に経営者等の管理職が作成する場合でも、現場担当者の目で確認することが必要です。正確な実行予算の作成には、現場担当者の目が必要不可欠なものとなるからです。
5.工事完了後の実行予算
完了した工事における実行予算はそのままにするのではなく、必ず振り返ることが重要になります。なぜならその実績データを基に次の工事における実行予算を作成することになるからです。実績データは会社の財産であり競争力の源泉でもあります。常に最新のデータにアップデートしておくことが肝要になるのです。
6.おわりに
実行予算を作成することは、会社にとって重要であるということが認識して頂けたかと思います。実際の方法については、会社や工事の規模や業績に合わせて管理しやすい方法で行っていければよいかと思います。その際に、経営者であれば、会社の意思決定や利益目標の達成であり、現場担当者であれば、工事の進捗状況の管理やコスト意識が目的意識として必要になります。なんのために作成しているのか、目的意識を持って作成して頂ければ会社にとってより良い実行予算を作成することが可能になります。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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