1.はじめに
建設業界は建設投資のピークを迎えた平成4年度から投資が冷え込み、平成22年度に底を打った後、現在に至るまで緩やかな回復をみせています。しかし回復とともに日本の社会情勢等の状況も変化し、技能者数の減少、建設業就業者の高齢化、日本人口の減少、働き方改革の推進、資材価格の高騰などあらたな課題を抱えるようになりました。建設業就業者について見ると、55歳以上が35.9%、29歳以下が11.7%と高齢化が進行し、次世代への事業承継が大きな課題となっています。
そのような中、建設業許可件数は緩やかに回復しております。今回は建設業許可業者の現状とこれから建設許可を取得する方のために建設業許可要件についてお伝えいたします。
2.建設業許可業者の現状
国土交通省によると、令和6年3月末現在の建設業許可業者の件数は479,383業者とされています。前年同月比4,435業者(0.9%)の増加でしたが最も多かった平成12年3月末時点と比較すると約20%減少しています。建設業許可業者の内訳を確認すると、まず都道府県別の分布としては東京都が全体の9.2%、次いで大阪府8.6%、神奈川県6.1%となっております。また、一般、特定別許可業者数の比較でみると一般建設業を取得している業者は454,163業者、特定建設業を取得している業者は49,029業者となっています。
業種別にみると取得している業者が多い3業種は、「とび・土工工事業」の181,234業者(許可業者の37.8%)、「建築工事業」の144,239業者(許可業者の30.1%)、「土木工事業」の131,523業者(許可業者の27.4%)となっています。一方、許可を取得している業者が少ない3業種は「清掃施設工事業」390業者(許可業者の0.1%)、「さく井工事業」2,261業者(許可業者の0.5%)、「消防施設工事業」15,838業者(許可業者の3.3%)となっております。また、複数業種の許可を受けている事業者の割合は53.9%で半数以上の許可業者が複数業種をもっているということになります。
3.建設業許可について
建設業法によると建設業とは、「元請、下請その他いかなる名義をもってするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業」をいいます。建設業を営む者は建設業の種類ごとに、国土交通大臣又は都道府県知事の許可を受ける必要があります。ただし、建築一式以外の建設工事では、1件の請負代金が税込500万円未満の工事、建築一式工事では1件の請負代金が税込1500万円未満の工事または請負代金の額にかかわらず、木造工事で延べ面積が150㎡未満の工事は、許可を得ずに建設業を営むことができます。
請負代金については1つの工事を2以上の契約に分割して請け負うときは、各契約の請負代金の額の合計額となります。また建設業法の適用は日本国内であるため、外国の工事等には適用されません。
複数の都道府県に営業所を設けようとする場合は国土交通大臣許可、1の都道府県のみに営業所がある場合は知事許可がそれぞれ必要となります。営業所とは必ずしも本店所在地をさすものではなく、請負契約の締結(見積・入札・契約等)に実体的な行為を行う事務所をいいます。もちろん、知事から許可を受けた建設業者は許可を受けた都道府県のみならず、他の都道府県でも工事を行うことは可能です。
一般建設業、特定建設業については、工事の全部または一部を下請けに出す場合の下請負契約金額によってそれぞれ分類されます。特定建設業は下請負契約金額が4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上/複数の下請業者に出す場合は、その合計額)で、一般建設業許可は4,500万円未満(建築一式の場合は7,000万円未満)または工事の全てを自社で施工する場合です。
4.建設業許可の許可要件
建設業許可を取得するためには大きく6つの要件が必要とされています。
② 専任技術者に関する要件
③ 財産的基礎に関する要件
④ 誠実性に関する要件
⑤ 欠格要件等
⑥ 社会保険への加入
以下、①②③⑥についてそれぞれの要件を簡潔に説明していきます。
① 経営業務の管理を適正に行うに足りる能力
従前は「経営業務の管理責任者」という要件を満たした常勤役員1名で「経営能力」を証明しておりましたが、2020年10月1日より常勤役員1名での証明に加えて要件を満たした常勤役員を直接に補佐する複数名で「経営業務の管理を適正に行うに足りる能力」の要件を満たすことができる、とされました。常勤役員1名での証明は常勤役員が建設業に関し5年以上の経営業務の管理責任者としての経験を有すること等です。
また常勤役員1名に加え常勤役員を直接補佐する複数名の場合の一例としては、常勤役員1名が「建設業に関し、2年以上役員等としての経験を有し、かつ5年以上役員等または役員に次ぐ職制上の地位にある者」に加え「直接に補佐する者については財務管理経験、労務管理経験、運営業務経験について建設業者または建設業を営む者において5年以上の経験を有する者」の要件を満たす必要があります。
② 専任技術者に関する要件
営業所に配置しなければならない専任技術者については一般建設業許可、特定建設業許可についてそれぞれ要件が違います。簡潔に述べると一般建設業許可、特定建設業許可ともに「取得する業種について定められた資格取得者」に加え、一般建設業許可では当該業種に関する実務経験が10年以上ある者など、一定の実務経験者についても専任技術者となることが認められています。また特定建設業許可についても一定の要件を満たした建設工事で2年以上の指導監督的な実務の経験を有する者も定められております。
また専任技術者は営業所に常勤して、専らその職務に従事する者のことをいい、同一法人内であっても他の営業所の専任技術者を兼ねることはできません。
③ 財産的基礎等に関する要件
【一般建設業許可の財産的基礎】
次のいずれかに該当すること。
500万円以上の資本金調達能力があること
直前5年間東京都知事許可をうけて継続して営業した実績があること
【特定建設業の財産的基礎】
次の全ての要件に該当すること。
流動比率が75%以上であること
資本金の額が2,000万円以上であること
自己資本の額が4,000万円以上であること
自己資本とは法人では貸借対照表における「純資産の部」の「純資産合計」の額をいいます。
⑥ 社会保険への加入
健康保険、厚生年金、雇用保険など適切な社会保険の加入が建設業許可の要件となっています。
5.おわりに
建設業許可業者は社会情勢の変化等により取り巻く状況がめまぐるしく変化します。冒頭に述べさせて頂いた建設業就業者の高齢化や、高齢化による後継者不足などから業界内のM&Aや事業承継が進むため、令和2年10月1日から円滑に事業承継できる仕組みが整備されました。また「経営業務の管理を適正に行うに足りる能力」が設置されたのも建設業界の人材不足によるところからと推察されます。
建設業界を取り巻く環境としては人材不足のため、「特定技能」の在留資格を取得した外国人材の雇用の促進も進められております。このように急ピッチで法整備もなれているなか、有用な制度利用などを大いに活用することが必要となります。今回のコラムがその一助になれれば幸いです。
執筆者
大学卒業後、事業会社を経て、2017年汐留パートナーズグループに入社。法務事業部においてクライアントに対するリーガル面でのサポートを行う。その後国際コンサルティング事業部にて、多くの外国法人の日本進出、日本での許認可取得、イミグレーション(在留資格)関連業務に従事。外国法人の日本進出案件に関して豊富な知識と経験を有し、また、外国人の在留資格に関する業務についても精通している。様々な許認可に関する業務にも対応可能。申請取次行政書士。
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