熱中症対策の動きが活発化/変形労働時間制の要件緩和の検討に着手

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     5月に入り、早くも25度を超える「夏日」が全国各地で記録された。屋外の建設現場で働く人たちにとって、今年も厳しい季節がやってきた。猛暑での作業は熱中症リスクが高まるだけでなく、現場の生産性も低下するため、その対策が急務となっている。国土交通省は2025年12月に「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」を策定し、猛暑対策に取り組む建設業者の支援策を打ち出した。厚生労働省は政府の日本成長戦略会議労働市場改革分科会で、1年単位の変形労働時間制の要件緩和を求める意見が出されたのを受け、建設現場も含めたその対応策の検討に入った。建設現場での猛暑対策の最新の動きをまとめた。

    猛暑での作業は生産性低下が避けらない

     厚生労働省は、気候変動による猛暑日の増加を踏まえ、熱中症対策として休憩時間の目安を発表している。暑さ指数(WBGT)値を1度超えたら1時間に15分以上、2度超で30分以上、3度超で45分以上、それ以上超過なら作業中止という基準を示している。WBGT値は、通常の建設作業(高代謝率の作業)だと26度(熱順化している人)となるので、31度で作業中止などとなる。

     中央建設業審議会(中建審)は、厚生労働省の猛暑対策の考え方などを踏まえ、2024年3月に「工期に関する基準」を改正した。WBGT値31以上の時間を日数換算して作業不能日に算入する猛暑日を明記。これを受け、国土交通省は直轄工事の工期設定指針を見直し、日数換算した猛暑日を雨休率に加味するとした。ただ、WBGT値の変動で、こまめに休憩時間を取らなければならないことには変わりがなく、夏場の作業効率は著しく低下しているといわれている。

     日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)が4月に発表した現場実態調査結果は、それを裏付けている。会員企業59社を対象に2024年10月~2025年9月末に竣工または施工中だった3億円以上の土木工事(高速道路や鉄道など民間工事を含む)の現場(有効回答1719件)をアンケートしたところ、猛暑を原因に作業効率が低下した現場が6割強を占めていることが判明した。

     作業効率が低下した程度を聞くと「10~20%低下した」現場が最も多く、「30%以上低下」と回答した現場も一定数あった。特に鉄筋や型枠、のり面、土工事などで効率が下がり、休憩頻度の増加で作業時間が減ったことが要因に挙がっている。

     日建連では5月から行う全国各地区の発注者らとの意見交換会などを通じて、猛暑・厳冬対応など気象条件を踏まえた適正工期の確保や設計基準・歩掛かりの見直しなどを求めていく方針だ。

    猛暑対策をパッケージにし、今夏に向け早めに公表

     国土交通省も熱中症が建設技能者の命に係わる問題だけに、その対策に力を入れている。2025年12月に夏場の猛暑対策に取り組む建設業者を支援する「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」を策定した。今夏の猛暑に備え、今できることから始めようという狙いで、2025年度補正予算などで今夏に施工中となる工事案件の発注前に発表した格好だ。施工時期・時間の柔軟な設定や人力作業回避につながる技術実装の促進、熱中症対策の費用充実など、施工者の工夫を引き出す仕掛けづくりを打ち出した。猛暑期間を休工可能とする工期設定や必要な費用・取り組みを検証する試行工事などにも取り組む。

     各施策は猛暑の期間・時間の現場作業を避ける対策が柱となる。発注者が主体となり夏場の現場作業を避けた工期設定を行いながら、受注者の判断で夏場を休工可能にする仕組みづくりに向けた試行工事を実施する。

     試行工事は比較的工期が長い工事が対象となる。通常より工期を長めに設定し、一定期間の休工が可能な余裕期間を設ける。効果の検証や、必要となる費用や取り組みの調査を目的とし、この結果を当初発注時の追加費用の明示や積算の方法の検討に反映させていく。

     当初工期など契約条件の枠内で猛暑期間の現場施工を回避する取り組みは、発注時の特記仕様書に受発注者間の協議で可能だと明記することを全国の出先事務所に展開。先んじて試行する関東地方整備局宇都宮国道事務所などの様式を参考にしてもらう。

     年間で労働時間を柔軟に設定できる「変形労働時間制」の運用上の課題解決も検討する。現行制度は1カ月前にシフトを組むなどの制約がネックとなり、建設業界の猛暑対策として活用が難しいとの指摘があるため、制度運用に積極的な建設会社や厚生労働省と連携し、課題の洗い出しなどを行う。

     効率的な施工や作業環境の改善に向け、直轄土木工事の総合評価方式の「技術提案評価型S型」で猛暑期間・時間の作業回避や人力作業の削減につながる施工方法や施工計画の提案を求める仕組みも行う。定置式水平ジブクレーンや作業員のバイタルチェック機器などの有用な技術・製品の実装を促す考えだ()。

    建設工事における猛暑対策サポートパッケージの主な施策

    猛暑期間を回避した工事発注

    • 猛暑日(WBGT値)を考慮した工期設定

    猛暑期間を休工可能とする工事発注

    • 効果や必要となる費用・取組の調査を目的とした試行工事の実施【新規】

    猛暑期間における現場施工回避の協議の明記

    • 宇都宮国道事務所等において、試行的に実施
    • 特記仕様書への記載を他事務所に展開【新規】

    猛暑時間の施工回避

    • 現場環境に応じて、作業の開始時間、終了時間を監督職員と協議の上、柔軟に設定
    • 早朝・夜間施工に係る警察や地元等への協議について、必要がある場合、発注者が協力すること等について、特記仕様書へ記載【新規】

    1年単位の変形労働時間制

    • 1年単位の変形労働時間制の活用に向けた関係者との連携【新規】

    効率的な施工、作業環境の改善

    • 施工・データ連携・施工管理のオートメーション化の取組を加速
    • 個社毎の取組(定置式水平ジブクレーン、バイタルチェック機器等)
    • 技術開発の促進(SBIR制度による支援に向けた公募実施)【新規】
    • 技術提案評価型S型を活用した、作業環境の改善に資する施工方法・施工計画の工夫促進【新規】

    猛暑対策に必要な経費等の確保

    • 現場管理費、現場環境改善費での熱中症対策費用の計上
    • 実態に応じた熱中症対策費用の確保【新規】
    • 維持工事等で標準歩掛がない作業は見積り等による精算変更
    • 施工実態調査に基づく歩掛の見直し
    国土交通省資料から抜粋

    過ごしやすい時期に作業日を増やし、夏場に長期休暇を

     熱中症対策の抜本的な対策として2025年から急浮上しているのが、1年単位の変形労働時間(労働基準法第32条の4)の活用だ。日本型枠工事業協会(日本型枠、三野輪賢二会長)は2025年9月、猛暑日の多い夏季に大幅な現場休工日を増やし、それ以外の期間で稼働日を増加させ、その穴埋めを行うという提言を発表した。

     具体的にはAとBの二つの案を示し、A案は7、8月に26日間の連続休暇を設定し、10月~翌年5月を隔週週休2日、6~9月は完全週休2日とする。B案は同じく7、8月に連続37日間の休みを設け、10月~翌年3月を隔週週休2日、4月と5月は4週4閉所、6~9月を完全週休2日とする。いずれも年間稼働日数は242日、休日数は123日で同水準に保っている。

     ただ、これを実施するには発注者や元請企業(ゼネコン)の協力はもちろんこと、専門工事業者の雇用面の改革も必要と自ら指摘している。その最大の課題が現状で多く採用されている日給月給制から、成果報酬を組み込んだ月給制への移行だと指摘している。休暇の増加による出来高減少を見据え、専門工事会社への資金繰り支援も必要と提案した。

    変形労働時間の適用は「建設技能者ファースト」で

     変形労働時間の要件緩和は、政府の日本成長戦略会議でも議論の俎上に上がっている。高市早苗首相は裁量労働制と変形労働時間制など、労働時間制度の見直しを加速するよう、上野賢一郎厚生労働相に指示。総合的な国力を高める中で人材力は重要と強調した上で「心身の健康維持と雇用者の選択を前提に、柔軟で多様な働き方を実現する必要がある」と、見直しの狙いを説明した。

     変形労働時間制を活用するには、月ごとの勤務カレンダーを30日前までに定めて、労使での合意が必要となる。ただ、30日前に天候は予想できないこと、建設現場での適用に労使での合意はなかなか難しいことなどもあり、建設現場ではほとんど利用されていない。

     こうした現状を踏まえ、全国建設業協会は政府の規制改革推進会議の「働き方・人への投資ワーキング・グループ(WG)」の会合で、1年単位の変形労働時間制を利用したいが、「現状は制約が多い」と指摘。勤務カレンダーの事後作成や前日までの作成を許容することを要望。同時に一度作成しても労使の合意を前提に事後や前日の変更を可能にするなど、天候に応じ臨機応変に対応できる仕組みを求めた。

     仮に利用要件が緩和され、建設現場に変形労働時間が適用できるようになれば、熱中症から建設技能者の「命を守る」だけでなく、夏休みの長期休暇が可能になり「家族と過ごす時間が多い建設業」という新たなイメージも打ち出せる。

     ただ、その際に気を付けなければならいのは、現場で働く建設技能者の処遇が本当に改善されたかどうかだ。「休暇は増えたが、給与が下がった」「休日や労働日、労働時間が直前まで確定しない」など、さまざまな問題が発生する可能性もある。あくまで建設技能者ファーストの議論が必要だろう。

    坂川 博志 氏
    執筆者
    日刊建設工業新聞社
    専務取締役事業本部長
    坂川 博志 

    1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月常務取締役事業本部長を経て、2025年4月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。
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