テレワークが建設業にもたらすもの

テレワーク・デイズ2021始動

 東京オリンピックが7月23日から8月5日まで、パラリンピックが8月24日から9月5日までの日程で開かれます。これに合わせ総務、厚生労働、経済産業、国土交通の4省は7月19日から9月5日までの期間を、「テレワーク・デイズ2021」として、集中的にテレワークに取り組むことを決めました。さらに大会終了後も「レガシー」としてテレワークを着実に定着させていくことにしています。オリンピックとパラリンピックの間の期間は「選手や関係者の移動が予想される」ことを踏まえ、実施期間に含めることとなりました。

 テレワークは新型コロナウイルス感染防止対策として推奨され、取り組み目標として出勤者の7割減という目標が打ち出されました。今回の「テレワーク・デイズ2021」でも、その実績を踏まえ「各社において実施期間における積極的な目標を設定し、実行すること」が要請されています。参加団体は「実施団体」「特別協力団体」「応援団体」の3類型として3,000団体の参加が目標に据えられています。とはいえ、果たして建設業に「テレワーク」はどれだけ馴染むのでしょうか。

建設現場はエッセンシャルワーカーが中心?

 テレワークの普及で生まれてきたのが「エッセンシャルワーカー」という言葉です。「キーワーカー」「クリティカルワーカー」とも言われ、最低限の社会インフラ維持に必要不可欠な労働者をいいます。具体的には、健康・医療・介護、教育・保育、主要な公共サービス、政府機関・地方公共団体、食品その他の日用品・衛生用品の取り扱い関係者、公安および国家安全保障、交通機関、公益事業インフラ・通信インフラ・金融業に携わる労働者のことを指します。ちなみに、報道機関は「主要な公共サービス」に分類されています。

 これを見ると「建設業」で働く労働者はエッセンシャルワーカーには入っていないように見えます。しかし、公共事業インフラに携わるという視点で見れば、エッセンシャルワーカーであるということができます。実際、現場で働く労働者はテレワークができません。もっとも、「建設業」を企業として考えれば、当然、テレワークに馴染む業務もあります。例えばCAD図面の作成や積算業務といった分野です。実際、新型コロナウイルス感染拡大による非常事態宣言に伴ってテレワークが推奨される以前、介護や妊娠などの理由によって自宅勤務を求められたケースで、これらの業務をこなしていた人たちもいました。そういう視点からすれば、テレワークは何も新しく始まった取り組みではないということができるのではないでしょうか。結婚してリタイアした人たちが「学び直し」で選ぶ道として「CAD」や「BIM」といったものが挙げられていることからも、建設業にもテレワークが進む素地があるといえるでしょう。

 実際に現場でものづくりに携わる人たちにとっては、テレワークは難しい課題ではあるものの、建設機械の遠隔操作技術は年々進歩を遂げているのも事実ですし、AI(人工知能)を使って、複数の建設機械を一度に制御するということも行われています。現場の人たちは、事務所でモニターを見ながら機械の動きをチェックしているのですから、これも立派な「テレワーク」だと言えます。なにも、自宅で仕事をすることだけが「テレワーク」ではないのです。

通信技術が現場を変える

 建設機械の遠隔操作が導入されたのは、今から30年前、1991年6月3日に発生した、長崎県の雲仙・普賢岳の噴火による火砕流で被害を被った地区の復旧現場だと記憶しています。この火砕流では、死者・行方不明者44人(うち行方不明者3人)、建物被害2,511棟(うち住家1,399棟)という被害を出し、国道57号線は817日間、国道251号線は196日間、島原鉄道は1,699日間不通となりました。被害総額は約2,299億円に達しました。噴火活動は95年まで続きました。

 復旧作業に建設機械は不可欠なのは明白です。そこで試されたのが遠隔操縦だったのです。オペレーターが離れた場所からモニターを見ながら建機を操作することが行われました。慣れない操縦にオペレーターが苦労したことは想像に難くありません。その時はそう思いませんでした(そういう概念もなかったような気がします)が、職場ではないところで仕事をする、まさに「テレワーク」です。一時期、労働者不足への対応ということから、建築の分野で技術開発が進められた「全自動ビル」とは違い、実際に離れた場所から操作をするわけですから、「テレワーク」の先駆けだったといえるでしょう。

 課題は、モニターを見てレバーを操作するのと、実際に建機が動くのにわずかにタイムラグが生じるということだったといいます。それも今や5G(第5世代移動通信システム)でタイムラグはほぼなくなりました。建機オペレーターは自宅にいながら、建設現場に行くことなく建機を動かすことができることになります。そういう点では、テレワーカーとエッセンシャルワーカーが共存するというのが建設業の姿なのかもしれません。

建設業のイメージアップ

 建設業といえば「3K(危険、汚い、キツい)」仕事の代名詞でした。それを変えつつあるのがテレワークではないでしょうか。危険でキツく、汚い仕事は遠隔操縦で機械に任せるといったことができれば、建設業のイメージは大きく変わります。若い労働者の入職を促進するためには、そうした面をアピールする必要がありますし、技術開発も求められます。スーツを着て現場に行き、そのままデートに行ける。そんな建設現場であれば、建設業のイメージは大きく変わり、建設業を志願する若者も増えるでしょう。

 今、農学部が人気だそうです。それは単に「農業」という1次産業に従事するのではなく、農産物を加工(2次産業)し、販売(3次産業)までを一貫して手がける6次産業(1+2+3)に変貌したからです。建設業も「やり方」を変えることで、別の産業のような姿に変えることができるかもしれません。「テレワーク」という働き方が、何か構造的な変革をもたらすきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
常務取締役社長補佐
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、現在のコミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。

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