1.はじめに
近年、全世界的に技術の輸出入が活発になっています。日本においても、日本が世界に誇る鉄道技術の輸出も珍しい話ではなくなってきています。そのほかアフリカを始めとしたインフラの輸出や各地でのプラント建設も行う等、徐々に海外への技術輸出が軌道に乗りつつあります。しかし、その一方で一般建築についての輸出は多いとは言えないのが現状です。
現在、日本は少子高齢化、人口減少、それに伴う国内市場の縮小でほとんどの業界が改革期、転換期を迎えています。特に建設業界は一つ一つの金額の大きさから市場や景気の動向がよりダイレクトに反映されます。
本コラムでは、主にスウェーデンの建設企業の事例を取り上げ、比較することで、海外への建設の輸出という側面から今後の日本建設業界の維持・発展について考察していきたいと思います。
2.SKANSKA AB社の紹介
今回取り上げるのは、スウェーデン・ストックホルムに本拠を置く「SKANSKA AB社」です。この企業を取り上げた理由は、この企業の母国であるスウェーデンの市場とこの企業が取った戦略にあります。
SKANSKA AB社は1887年創業の52,000人余りの社員を抱える建設企業です。主な事業内容は、建設工事の請負、宅地開発、商業不動産開発、コンセッション(独占的な公共施設等の運営権による事業)、PPP(Public-Private Partnership/官民パートナーシップ)と、日本のゼネコンと同様のものです。
この企業はスウェーデンの国内市場が小さいことから、創業後すぐに海外へ進出し、現在では世界50か国に展開しています。進出先は、北欧、東欧、イギリス、アメリカが主となっていますが、今世紀に入ってからは積極的にアジアへのアクセスも行っており、現在では海外工事の比率が77%にも達します。
建設工事の請負では、アメリカのエンパイアステートビルの改修、マンハッタン橋の修繕、世界貿易センタービルのがれき解体撤去など誰もが知る大規模工事を自国外で請け負っています。このような工事で得られたキャッシュフローを中央ヨーロッパやアメリカの宅地開発、ショッピングモール・物流施設建設に投入し、その運営も行っています。またPPPの面では、高速道路、病院、学校等の公共工事への関与にも積極的です。
3.SKANSKA ABと日本建設企業との比較
続いては、SKANSKA ABと日本の建設企業との比較を行っていきます。
SKANSKA ABは国外で一般建築や輸送施設の工事が8割を占めており、スウェーデン国内でも同社は同様の割合となっています。
一方、日本の建設企業を見てみると、国内では一般建築だけで過半を占める一方、海外工事では一般建築が減り工場や輸送施設が増える傾向にあり、国内外で工事内容に乖離がある企業が多くなっています。また、海外工事比率にも大きな差があり、日本を代表するゼネコンである大林組は、2015年時点での海外比率が23.2%に留まっています。
日本はスウェーデンに対して、人口では約13倍、GDPでは約10倍、建設投資額に至っては約14倍の規模で、両国とそれぞれの国に本拠を置く企業を単純に比較していくことは好ましくないでしょう。しかしながら、スウェーデン国内にこだわらないSKANSKA ABは、米国のENR(Engineering News Record)誌が発表する建設業界の売上高ランキングでは常に上位にランク付けされる企業となっています。
4.日本の建設業界需要
現在、日本は戦後最大の少子高齢化と人口減少、そしてそれらに伴う市場の縮小に直面し、ひいては先々のGDPの心配も大きくなっています。多くの業界が転換や改革を強いられる中、特に建設業界は一つ一つの金額の大きさや人口集中、土地との兼ね合い等で国内市場の目覚ましい拡大は差し当たり望めないと言っていいでしょう。
単純な数を考えるのであれば、2015年の相続税の改正に伴って、日本版サブプライムローンと例える声まで聞こえるようになった富裕層によるアパート等賃借物件の乱立があります。しかしこのような需要は、一時的な潤いをもたらす一方で明確な弊害があり、それが表出すればそのデメリットを嫌う人々が忌避し、あっという間に萎んでしまうため、連続性のある健全なものとは言えません。
5.おわりに
日本の一般建築は飽和し始めている一方、世界的には住宅不足に直面している国や地域があります。新興国は言わずもがな、昨今加速しているグローバル化で移住が進み、移住先として人気の国でも急激な人口増加で住宅不足が起きています。
元々国内市場が大きくなかったスウェーデンの建設企業の姿に倣い、積極的な国外市場に参入していくことは五輪特需以降の日本建設業界の一つの選択肢と言えるでしょう。今、各地で生まれ始めている一般建築の需要に応えることが出来れば、インフラのみならず一般建築を広く海外に輸出していく足掛かりとなるのではないでしょうか。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。