コロナ禍で公共事業費はどうなる

コロナ禍で公共事業費はどうなる

はじめに

 昨年末、政府が打ち出した新たな経済対策の予算的な裏付けとなる2020年度第3次補正予算案と、2021年度政府予算案がまとまった。こうした予算の中には、新たに5カ年の延長で事業規模が15兆円となった「防災・減災、国土強靱化のための5カ年加速化対策」の予算も含まれている。建設業界にとって、国土強靱化関連予算の延長はコロナ禍で先行きの景気が不透明な中で、事業量の確保という観点から大きな意味を持つ。新経済対策や国土強靱化策、「流域治水」などの新たな公共事業について整理してみたい。

当初予算に盛り込まれなかった国土強靱化予算

 2018年度からスタートした「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」。事業規模は7兆円で、実質的には2018年度の年度途中にスタートしたため、1年目は補正予算で事業費が手当された。2019、2020年度は当初予算に強靱化対策を含む「臨時・特別の措置」が設けられ、年度ごとに7000億~8000億円程度が通常予算に上積みされた。

 昨年12月11日に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」は、対象期間が2021~2025年度までの5年間とされ、事業規模も15兆円に膨らんだ。数字だけでみると、1年当たりの事業規模は現行の2・3兆円程度から3兆円程度に増えた格好だ。

 事業額の内訳は▽激甚化する風水害や切迫する大規模地震などへの対策(78対策)=12・3兆円▽予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策(21対策)=2・7兆円▽国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化などの推進(24対策)=0・2兆円となる。

 激甚化する災害への対応として流域治水対策や道路ネットワークの機能強化、鉄道や港湾などの耐災害性の強化、予防保全型のメンテナンスへの転換に向けた集中的な老朽化対策などを実施。こうした施策をより効率的に進めるためDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に関する対策なども盛り込んだ。計123対策ごとに5年後(25年度)の達成目標や中長期の目標も設定し、対策の期間中、進展状況を定期的にフォローアップし結果も公表するという。

 例えば、全国の高規格道路のミッシングリンク約200区間のうち、約3割で全線または一部区間の供用を開始することや、戦後最大浸水に対応した1級河川の整備率を現状の65%から73%まで引き上げる目標を掲げている。

 ただ、ある行政担当者は「前の3カ年対策の時も補正予算でスタートし、その後当初予算で『臨時・特別の措置』として盛り込むのに苦労した。今回も補正予算からのスタート。5年延長で、事業規模15兆円はありがたいが、2022年度の当初予算編成時に当初予算で確保できるかが、今後の課題だ」とし、諸手を挙げて喜べる状況ではないという。

 予算は付いたが人手不足で事業が進まなかったという状況に陥れば、見直しの動きが出てくるかもしれない。着実に予算を執行できる体制を受・発注者双方でしっかりと組み立ていかなければならない。

第3次補正予算、国交省分は3兆2912億円

 防災・減災、国土強靱化の推進を柱の一つとする政府の新たな経済対策と、その予算的な裏付けとなる2020年度第3次補正予算は12月15日に閣議決定された。第3次補正予算案では一般会計の追加歳出が21兆8353億円。国土交通省分は国費ベースで総額3兆2912億円を計上し、うち国土強靱化対策や災害復旧などの公共事業に1兆9342億円を充てる。

 公共事業費の内訳は防災・減災、国土強靱化(5か年加速化対策)に1兆3611億円、ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現などに1140億円、災害復旧に4591億円を計上。うち防災・減災、国土強靱化の関連公共事業費は▽流域治水などの推進(4261億円)▽国土幹線道路網の機能強化対策(2058億円)▽重要インフラの老朽化対策(1294億円)▽地域の防災・減災、国土強靱化・防災・安全交付金(4925億円)などを進める。

 独立行政法人などに充てる財政投融資として8141億円を計上。内訳は暫定2車線区間の4車線化に5000億円、関西国際空港ターミナル1のリノベーション事業は2000億円など。経済対策に基づく20年度全体では総額1兆5341億円の財政投融資を実施する予定だ。公共事業の発注平準化措置として、当該年度の支出ゼロで年度内に発注が行える国庫債務負担行為(ゼロ国債)には事業費ベースで1763億円を確保する。

21年度予算案、ゼロ国債に1688億円設定

 一方、2021年度政府予算案は昨年12月21日に決定した。一般会計の総額は106兆6097億円で、当初予算では9年連続で過去最大を更新した。公共事業関係費は前年度比11・5%減の6兆0695億円を計上したが、「臨時・特別の措置」を除く通常分で比較すると、前年度を26億円上回る額で、0・04%増で前年度と同水準にととどまった。

 国土交通省分は一般会計の総額が5兆8981億円(前年度〈通常分〉比0・6%減)。うち公共事業関係費は災害復旧を含め20億円上回る5兆2587億円(0・04%増)。一体で編成した2020年度第3次補正予算案を含めると、公共事業関係費は7兆1929億円となる。

 公共事業の施工時期の平準化措置として、国庫債務負担行為(国債)の活用を継続。2カ年国債は3995億98百万円(前年度当初1966億29百万円)、当該年度の支出がゼロで年度内に発注が行えるゼロ国債は1687億72百万円(同1242億28百万円)を設定した。

 気候変動によって多発する水害対策に備えるため、あらゆる関係者が協働する「流域治水」の取り組みには、第3次補正予算案と2021年度当初予算案で1兆円超を計上。両予算を「15カ月予算」として一体的に編成し切れ目無く執行することで、事業の迅速な実施を目指す。具体的には2020年度末にすべての1級水系で策定予定の「流域治水プロジェクト」に基づき、堤防整備やダムの建設・再生、利水ダムなどを活用した事前放流の推進、土砂災害対策などを展開する。

 「粘り強い河川堤防」の実現に向け堤防強化策を検討し洪水氾濫を防ぐほか、ダムの事前放流も強化。利水ダムを対象に、放流管の増設など排水機能を高める改良事業に河川管理者が主体的に取り組む制度を創設する。都道府県や民間企業による雨水貯留浸透施設整備も後押しする。

 2020年度第3次補正予算案は1月18日に開会する通常国会に提出し早期の成立を目指す。2021年度当初予算も年度内の成立させたい考えだ。コロナ禍で公共事業費は一定の予算額が確保される見通しとなったが、地方自治体を含め、それが着実に執行できるかが今後重要になる。

坂川 博志 氏 執筆者 
日刊建設工業新聞社
常務取締役編集兼メディア出版担当
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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