建設業倒産 過去10年で最多――資材高騰、人手不足に泣く


夜逃げ倒産?に消費者はビックリ

 2024年12月、全国に40店舗を展開する大手脱毛医療の「アリシアクリニック」が破産開始決定を受けたと報道されました。負債総額は124億円、事前に施術費用を振り込んだ「債権者」は9万人に及ぶと言われています。当然のことですが、従業員1,500人も解雇されることになりました。

 そして2025年に入って、やはり脱毛医療医院の「トイトイトイクリニック」が閉鎖され、1月31日に営業を停止し、自己破産する意向であることが判明しました。いずれも「突然のこと」であり、債権者という名の被害者にとっては「そんなことはおくびにも出さなかった。信じられない」ということに尽きる事態となりました。

 企業がなくなるという「衝撃」を「雇用解雇」「施術費用未返還」という形で示す格好となりました。

2024年の倒産は11年ぶりに1万件超

 東京商工リサーチの調べによると、2024年の全国の企業倒産件数(負債総額1,000万円以上)は1万6件で、前年に比べ1,316件、15・1%増となりました。同社によれば11年ぶりに1万件を超えたといいます。負債総額は2兆3,435億3,800万円で、金額で591億7,100万円、率にして2・4%前年を下回りました。金額が前年を下回るのは3年ぶりとのことだそうです。

 倒産理由のうち「人手不足関連」を見ると、「求人難」が114件(前年58件)、人件費高騰104件(59件)、従業員退職71件(42件)となっており、合計では289件(159件)、前年比81・8%増と倍近い数字となりました。

 産業別に倒産件数を見ると、10産業のうち8産業で前年を上回りました。

 最も多いのが飲食業の3,392件(前年比13・2%増)で、建設業の1,924件(13・6%増)がそれに続きます。現場に資材を運ぶ運輸業は457件(9・9%増)でした。建設、運輸の両産業とも2024年4月から時間外労働時間規制を受けることになった産業であることから、そのことも倒産件数増加に影響しているのかもしれません。

建設業の倒産はどうだったか?

 東京商工リサーチの集計は前項で書いたとおり1,924件です。その負債総額は1,984億5,800万円で前年比7・6%増となり、3年連続して前年を上回りました。負債が1,900億円を超えたのは、ちょうど10年前の2015年のことだそうです。

 負債額別の倒産件数では、1,000万円以上5,000万円未満の小・零細規模の倒産が1,084件(前年比15・9%増)と大幅に増え、全体の56・2%を占めました。その一方、10億円以上も21件と、前年の9件から大幅増となりました。

 建設業許可業者数は増加し、都市だけでなく地方での再開発も動き出し、コロナ禍の低迷から受注環境は民間中心に徐々に回復していると、同社では昨今の建設市場を見ていますが、その一方で「資材高や人手不足に伴う労務費などの深刻なコストアップが直撃」したことが、「経営に打撃を与えた」とし、その証左として「物価高倒産」が前年を11件上回る142件に増加したことを挙げています。

 資材高倒産とともに、倒産要因とされるのが人手不足倒産です。建設業従事者の高齢化と職人不足、後継者不足が顕著になってきており、それが倒産を招いています。実際に人手不足関連倒産は前年を52件上回る180件に達しています。加えて、2024年4月から適用開始となった時間外労働時間規制が追い打ちをかけます。働ける「枠」が制限されるわけですから、仮に従来の人員設定のままの工期のだと、工期を守ろうとすれば、その分の「人手」が必要となります。当然、コスト増につながります。工期遅れは逸失利益の賠償ということにもつながりますから、信用問題も含めてきっちりと工期を守る必要があります。2つの壁にはさまれている状況だといえます。

 ちなみに、建設業の職種別の倒産は、建築工事業の301件(18・5%増)を筆頭に、土木工事業249件(15・2%増)、とび・土工・コンクリート工事業179件(21・7%増)と続いています。

 それでは帝国データバンクではどうなっているのでしょうか。同社では2024年の建設業の倒産件数を1,890件(負債1,000万円以上、法的整理)としており、こちらも過去10年で最多となったとしています。業種別では、大工工事やとび工事などの「職別工事」が879件、土木工事などの総合工事が600件、電気工事などの「設備工事」が411件と、いずれの件数も前年を上回り、職別と設備は過去10年で最多となったとしています。従業員数別では「10人未満」が1,742件と9割以上を占めました。次いで「10人以上50人未満」が143件、「50人以上100人未満」が5件、「100人以上」は2年連続でゼロという結果でした。

 こうした事態に対し同社では「木材をはじめとした建築資材価格の高止まりに加え、建設現場での職人不足と人材の維持・確保に伴う人件費の高騰によって事業の継続を断念する傾向が目立った」との見方を示しています。

価格転嫁、適正工期、適正工事費

 石破茂首相は2025年2月4日、公共工事設計労務単価を月内に引き上げるよう、閣僚懇談会で指示しました。それを受けて中野洋昌国土交通大臣は「最新の賃金上昇の情勢を踏まえ、月内に適切な労務単価を設定する」と約束、同月14日に国交省は、公共工事設計労務単価を、全国全職種平均で6%引き上げることを決めました。

 賃上げは、岸田前政権でも「5%」という数字が達成すべき数字として打ち出され、実際に昨年の春闘でも、大手はほぼ実現できました。その一方、零細・中小では「とても無理だ」という声が高まりました。物価高に負けない賃上げというスローガンが政府や労働側に高まっている中、零細・中小は人件費の上昇を含めた厳しい経営が迫られ、それはまた、今年も繰り返されることになるでしょう。中野国交大臣と日本建設業連合会、全国建設業協会、全国中小建設業協会、建設産業専門団体連合会の主要建設4団体は、技能者の賃上げ目標をおおむね6%とすることを申し合わせました。

 労務単価のアップ分が、現場で働く人たちにきちんと渡されるのかどうか。資材高騰の穴埋めとして流用されはしないかという懸念も生じます。

 時間外労働時間規制の適用によって、現場に入る延べ人数が増加し、その人件費が経営を圧迫するということも、現実に起こっているのではないでしょうか。工期厳守という「魔物」によって企業経営が成り立たなくなるという状態です。公共工事では、週休二日を含めた余裕のある工期設定も認められます。それが民間にどこまで認められるのか。

 建設という大きな事業は、当然、巨額の投資を必要とします。投資額すべてを手持ち資金というわけにはいかないでしょうから、そこには融資という「借金」が生まれます。事業者にとって、借金の利息は大きな負担で有り、できれば事業を早く終わらせ、借金も早く返したいと考えるのは当然です。発注者がどれだけ工期の余裕を認めるのか、事前協議の重要性は増してきています。

 無理な仕事は建設企業の体力を奪います。帝国データバンクの調査によれば、建設業の価格転嫁率は43・7%と、全業種平均の44・9%をわずかに下回っているそうです。

 逆に言えば、全産業で半分以上は「転嫁できていない」ということになります。建設業の場合、契約締結から着工~竣工までは、長い期間を要します。その間に資材価格は変動しますが、現時点では「価格が下落する」ということは想定しがたい状況です。発注者との定期的な協議による「修正」が不可欠です。「泣く子と施主には勝てない」などと言っている場合ではなくなっています。今は勇気を持ち、必要なことは必要だとして話し合っていくことが強く求められている時代なのではないでしょうか。

 もちろん「人の問題」もそうです。「人をどう回すか」という人材配置計画をしっかりと立てることが、今ほど求められている時代はありません。いや、将来は、今以上にこの計画が重要性を帯びてきそうです。AI(人工知能)に、よりベストに近い配置計画を立案してもらう時代も、そう遠くはないような気がしています。

 機械化できるところは、できるだけ機械化し、人間しかできない分野に人材を投入するという「新しい建設産業」の姿は、そう遠い時代の話ではないような思いがしています。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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