
1.はじめに
パートナーシップ構築宣言は、企業がサプライチェーン全体での共存共栄や取引先との連携強化を目指して、取引の適正化や価値の共創に取り組むことを表明する制度です。中小企業への配慮や価格転嫁の適正化を促進し、公正な取引関係の構築を図ることを目的としています。政府(中小企業庁等)が推進しており、宣言企業は公式サイトで公表されるため、企業価値や信頼性の向上にもつながります。大企業から中小企業まで、業種を問わず広く参加が可能です。
下請の重層構造が課題とされる建設業界においては、本制度が有効に機能する可能性が高く、業界関係者にとってメリットの大きい取り組みと考えられます。そのため、ここで紹介いたします。
2.これまでの経緯
2020年5月に第1回「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」が開催され、「パートナーシップ構築宣言」が導入されました。以降、企業の代表者がサプライチェーン全体の共存共栄を目指して宣言を公表する形で拡大しています。2022年11月には、制度の普及促進と意義の啓発を目的として「パートナーシップ構築大賞」が新設され、経済産業大臣賞や中小企業庁長官賞などの表彰制度が創設されました。
2025年9月現在、登録企業数は77,000社を超えており、業種別では建設業が10,580社と他業種を大きく上回り、最も多くの企業が宣言を行っている状況です。
3.建築業におけるパートナーシップ構築宣言のメリット
パートナーシップ構築宣言に登録することで、企業はサプライチェーン全体との共存共栄を目指す姿勢を対外的に明確に示すことができ、取引先や顧客、求職者など多様なステークホルダーからの信頼性向上が期待されます。さらに、価格転嫁の適正化や下請企業への配慮を明示することで、持続可能な取引関係の構築や取引先との信頼関係の強化につながります。
特に建設業界では、業務の特性上、元請・下請の重層的な取引構造が一般的であり、価格転嫁の困難さや契約条件の不透明さなどが長年の課題とされてきました。こうした状況の中、パートナーシップ構築宣言への登録は、適正な取引慣行の確立と下請企業との共存共栄を実現するための有効な取り組みとして注目されています。
本制度に登録することで、発注者としての責任ある姿勢を明確に示すとともに、取引先との価格協議の実施や契約内容の明文化など、適正な取引の推進を社内外にアピールすることが可能です。加えて、技能者の人手不足が深刻化するなか、サプライチェーン全体での持続的な雇用環境を整備することは急務であり、宣言企業としての取り組みは、協力会社との信頼関係の強化や人材確保にも好影響をもたらします。
また、前述のとおり建設業は制度への登録企業数が最も多く、業界全体としての取り組みが進んでいる分野です。そのため、未登録企業にとっては、発注者・元請企業からの信頼獲得や競争力の維持の観点からも、登録の意義は大きいと言えます。さらに、公共事業をはじめとする入札関連において、社会的責任を果たす企業としての評価向上にも寄与します。
このように、建設業においてパートナーシップ構築宣言は、業界特有の課題解決と企業価値の向上の双方に資する有効な取り組みといえます。
4.パートナーシップ構築宣言に登録するには
パートナーシップ構築宣言には、企業規模や業種を問わず、趣旨に賛同するすべての企業が登録可能です。特別な認可や審査は不要ですが、登録にあたっては、自社の代表者が責任をもって宣言を行うことが求められます。具体的には、「①サプライチェーン全体での共存共栄」「②価格転嫁の適正化」「③下請企業との適正な取引関係構築」などの取り組みを明記した宣言文を作成・提出する必要があります。宣言内容は、所定の様式に基づきオンラインで入力・提出でき、登録後は公式ポータルサイトに企業名が掲載されます。また、定期的な見直しや更新も推奨されており、実効性ある取り組みが期待されています。
5.おわりに
パートナーシップ構築宣言への登録は、オンラインでの手続きが中心で、必要書類も比較的シンプルなため、大きな手間をかけずに取り組むことができます。とりわけ建設業界では、取引先や協力会社との信頼関係の構築が一層求められるなか、宣言を通じて企業姿勢を明示することは大きな価値を持ちます。業界全体での参加が進む今だからこそ、自社の企業価値向上や取引環境の整備の一環として、登録を検討する意義は十分にあると言えるでしょう。
1981年北海道釧路市生まれ。新日本監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人)監査部門にて製造業、小売業、情報サービス産業等の上場会社を中心とし た法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、M&A関連支援、デュ ーデリジェンス等のFAS業務に数多く従事。2008年に汐留パートナーズグループを設立、代表取締役社長に就任。2009年グループCEOに就任し、公認会計士・税理士・弁護士・社会保険労務士等のプロフェッショナル集団を統括。公認会計士(日本/米国)・税理士・行政書士。北海道大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(EMBA)修了。

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