工事進行基準での収益計算 ~資材高騰による見積原価変更の会計処理〜

公開日:2023.11.16
更新日:2023.12.11

収益計上の重要論点、工事進行基準を総ざらい

昨今、建設業では長期大規模工事が増加傾向にあり、収益計上における工事進行基準の重要性が増しています。本稿では、工事進行基準と工事完成基準の違い、資材高騰を受けて工期なかばに総原価見積と請負金額が変更された場合の計算例/仕訳まで、わかりやすく解説します。いま一度、工事進行基準についてのおさらい、ポイント整理にお役立てください。


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工事進行基準とは?

工事進行基準

建設工事や造船・ソフトウェア開発では、受注から引渡し(売上発生)までが長期にわたり、決算期をまたぐことも少なくありません(いわゆる年度またぎ)。そのため、費用や収益の計上方法が一般的な工業簿記とは異なります。

これらの業種では、業態に合わせて設けられた特殊な収益計上基準を用いることになります。

それが工事完成基準工事進行基準です。

工事完成基準では、工事が完成し、発注者に引渡したタイミングで収益と工事原価を一括で計上します。企業会計原則における実現主義に基づいており、比較的小規模な工事の会計処理に向いています。計算も非常に明快・シンプルであることから、かつては建設業において主流となる方式でした。

一方で、引渡しまで収益が計上されないため、それまでの決算期では完成工事高が“ゼロ”ということになります。これでは、取引先などのステークホルダーに正確な経営実態を伝えることができません。

一方、発生主義に基づく工事進行基準は、工事進捗度(完成度合い)に応じて、決算期ごとに工事収益(完成工事高)を計上します。期ごとの工事収益の振り幅を抑え、実態に即した財務情報を把握するのが目的です。

計算のもととなる工事進捗度の算出には、原価比例法を用いるのが一般的です(後述)。

実現主義発生主義とは?

いずれも会計学における収益計上の考え方。実現主義では、財物/役務を提供し、その対価として現金/現金等価物(受取手形や売掛金など)を受領した時点で収益を認識する。一方、発生主義では、取引発生時点で費用と収益を計上する。

当然ながら、工事完成基準よりも計算は複雑になりますが、より適時性の高い収益管理・透明性の高い財務情報開示が可能になるというメリットがあります。

表1 工事完成基準と工事進行基準の違いを比較
工事完成基準 工事進行基準
収益計上の
タイミング
実現主義 発生主義
メリット 計算がシンプルで確実 経営実態に即した財務諸表の作成が可能
デメリット 竣工・引渡しまでの期間、収益がゼロということに…
財務情報から企業活動の実態を把握しづらい
計上が複数回にわたるため、事務従事者の負担が大きい
計算も複雑

工事進行基準、取扱いの変遷

建設業の収益計上については、これまで時代に合わせる形で幾度か改正が為されています。とはいえ、工事進行基準が最重要論点のひとつであることは、いまも変わりません。

昭和24年(1949年)に企業会計制度対策調査会が公表した企業会計原則には、長期の請負工事に関する収益計上について、工事進行基準/工事完成基準のいずれかを選択適用できる旨が記載されています。

平成21年(2009年)4月以降、成果の確実性が認められる長期請負工事では、工事進行基準が強制適用されることになりました。

下記条件から、まず、事前の工事契約のなかで請負金額の決定工事原価の積算が必要であることがわかります。

成果の確実性を認める条件は?

1.工事収益総額
2.工事原価総額
3.決算日における工事進捗度

3の工事進捗度については、請負金額と工事原価をもとに、原価比例法で算出するのが一般的です。

原価比例法についてはさほど難しい概念ではありません。工事原価を積算し、決算日までにかかった工事原価を総見積原価で除して求めます。

原価比例法による工事進捗度計算

工事進捗度計算式

なお、成果の確実性が認められないものや工期が短い工事については、工事完成基準の適用が容認されています。

以前の記事でお伝えしたように、大会社(資本金 5億円以上または 負債200億円以上の株式会社)と上場企業においては、令和3年(2021年)から新収益認識基準が強制適用されています(非上場企業は任意)。国際会計基準(IFRS; International Financial Reporting Standards)に沿った内容となっており、これにより財務情報の国際比較が容易になりました。

とはいえ、履行義務の充足については工事進捗度に基づいて収益を認識します。工事進行基準の計算処理自体は、そのまま引き継がれた形です。

令和5年(2023年)上期の建設業経理検定試験においても工事進行基準について出題されており、いまなお実務上の重要論点のひとつに位置づけられていることがわかります。

工事進行基準取扱いの変遷

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なぜ、いま工事進行基準が重要なのか?

工事進行基準はなんら目新しい概念ではありません。いまも昔も、建設業の収益計上とは不可分です。

ただ、近年の収益管理において工事進行基準の重要性はこれまで以上に増しています。その背景となるのが、昨今の建設プロジェクトの大型化資材高騰です。

工事進行基準の重要性が増している大きな要因として、近年の建設規模の大型化が挙げられます。

2021年の東京五輪、目下建設中のリニア中央新幹線の例を挙げるまでもなく、2023年現在、大都市圏では大型プロジェクトによる再開発が続々進行中。北海道や熊本でも、国家プロジェクトとして次世代産業に向けた先端半導体工場の大規模建設が相次ぎ、耳目を集めています。

間接工事費や一般管理費を削減できるスケールメリットが大きいこともあり、今後も建設プロジェクトの大型化が進むことは間違いありません。

法人税法第64条では、長期大規模工事について、工事進行基準による損益算入が義務づけられています。そのため、工事進行基準の適用が求められる場面は、今後ますます多くなるでしょう。

長期大規模工事とは?

以下の要件すべてをみたすものがこれに当たります。

1.着工から引渡しまでの期間が1年以上(法人税法第64条1項
2.請負対価が10億円以上(法人税法施行令第129条1項
3.請負金額の1/2以上について、引渡し1年経過後に支払われる定めがないもの(法人税法施行令第129条2項

建設工事の大型化によって工事進行基準適用の機会が増えている一方、工事進行基準での計算を複雑にしている要因もあります。昨今、建設業の大きな課題に挙げられる、資材価格の高騰です。

コロナ禍からの経済回復に伴う建設需要拡大やロシアウクライナ問題などの地政学リスク、円安を背景とした材料費/エネルギーコストの上昇を受け、現在、建設業界は未曽有の資材価格高騰に直面しています。建設工事費デフレーターをみても、その傾向は明らかといえるでしょう()。

建設公費日

着工から引渡しまでが長期にわたる建設業では、リアルタイムで上昇する材料費は利益の大きな圧迫要因です。また、工事進行基準における工事進捗度は原価比例法で算出するため、工期中に総原価見積と請負金額が変更された場合、複雑な会計処理は避けられません。実際の計算の流れについては、正確に理解しておく必要があるでしょう。

工事進行基準における収益計算 ~実践編~

資材価格が高騰する昨今、工期中に総原価見積と請負金額が見直されるケースは、しばしば起こり得ます。

本項では、そうした場合の実践的な計算方法/仕訳例をご紹介しましょう。

では、実際に工事進行基準に沿って、期ごとの工事収益(完成工事高)を求めてみましょう。

工期が3年(1期=1年)で工事請負金額1,000千円工事原価総額760千円、工事進捗度を以下とします。

工事進捗度
第1期 第2期 第3期
35%
266千円
75%
+304千円
100%
+190千円

各期の工事収益は、上記の進捗度をもとにして、工事請負金額を按分する要領で算出します。

計算式は、下記のとおりです。

各期の工事収益(完成工事高)
第1期 第2期 第3期
【工事請負金額】1,000千円
×
【工事進捗度】266千円/760千円
350千円
【工事請負金額】1,000千円
×
【工事進捗度】(266千円 + 304千円)/760千円
= 750千円 - 266千円
484千円
【工事請負金額】1,000千円

【第1期工事収益】350千円

【第2期工事収益】484千円
166千円

この流れが、工事進行基準による収益計算の基本型になります。

ここからが応用編です。

前項で述べたように、昨今の急激な資材高騰や工期の長期化を踏まえると、工期中に総原価見積の変更を余儀なくされる場面は少なくありません。

特に、公共工事では、資材価格高騰に伴う契約内容の変更を認めるスライド条項が普及しています。材料費高騰を受けて工事請負金額が上方修正されるケースも稀ではないでしょう。こうした際の処理は、さらに複雑です。

以下、例題をもとに、工期中に総原価見積と請負金額が変更されたケースの会計処理について解説します。

工期が3年(1期=1年)で工事請負金額8,000千円工事原価総額6,080千円の工事を受注しました。

第2期末において、資材高騰の影響で、それぞれ以下のように変更されたとします。

工事請負金額 8,000千円 ⇒ 9,500千円
工事原価総額 6,080千円 ⇒ 6,460千円

各期の工事原価の発生額が以下の場合、工事利益はいくらになるでしょうか?

工事原価の発生額
第1期 第2期 第3期
2,261千円 2,584千円 1,615千円

発生工事原価をもとに、工事進捗度を割り出し、期ごとの工事収益(完成工事高)を計算します。

【第1期の完成工事高】
8,000千円 × 2,261千円/6,080千円 = 2,975千円

【第2期の完成工事高】
9,500千円 ×(2,261千円 + 2,584千円)/6,460千円 - 2,975千円 = 4,150千円

【第3期の完成工事高】
9,500千円 - 2,975千円 - 4,150千円 = 2,375千円

工事収益(完成工事高)から工事原価をそれぞれ減算し、各期の工事利益を求めます。まとめたものが、下記になります。

各期の工事利益
第1期 第2期 第3期
工事収益
(完成工事高)
2,975千円 4,150千円 2,375千円
工事原価 2,261千円 2,584千円 1,615千円
工事利益 714千円 1,566千円 760千円

応用例について、第2期の工事収益を仕訳すると以下になります。なお、第2期に工事代金の前受分として2,500千円を受領しています。

借  方 貸  方
未成工事受入金
完成工事未収入金
2,500千円
1,650千円
完成工事高 4,150千円

工事進行基準における完成工事高は、完成工事未収入金で処理します。

原価見積変更に対応できる会計システムがオススメ!

工事進行基準による損益計上は、工事進捗度と収益についてリアルタイムで把握できることが大きなメリットです。ステークホルダーに正確な情報開示を行なうためにも、正しい理解は不可欠といえます。ただ、ここまでご説明したように、工事完成基準と比較して計算が複雑に点も無視できません。

そうした問題も、専用のシステム/ソフトウェアを導入することでカバーできます。建設業ERP “PROCES.S”は、複雑な建設業会計に対応すべく開発されたERP。工事進行基準にも標準で対応し、工期内における工事原価や請負金額の変動も簡単操作でクリアできます。事務スタッフの労力を大幅に軽減するとともに、ヒューマンエラー防止に繋げます。

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よくある質問

Q工事進行基準の対象工事にはどのようなものがありますか?
A法人税法第64条において、長期大規模工事については工事進行基準で損益算入することが定められています。当該工事には成果の確実性が認められる必要があります。
Q工事進行基準のデメリットはありますか?
A多くの工事請負契約では、竣工・引渡し後に入金されることが一般的です。工事進行基準では決算期ごとに収益を計上するため、法人税等の納税が入金に先行します。資金繰りには十分な注意が必要といえるでしょう。税務上の問題以外でも、計算が複雑になることは非常な難点です。ただ、建設業会計の専用システムであれば、工事進行基準にも標準で対応しています。
Q工事進捗度の算出について、原価比例法が一般的ということですが、ほかの手法ではどのようなものがありますか?
A工事進捗度の把握に用いる手法のひとつにEVM(Earned Value Management)法が挙げられます。原価比例法では費用(インプット)を指標に工事進捗度を把握するのに対し、EVM法では出来高(アウトプット)を指標に工事進捗度を把握します。出来高と工程を一元的に管理でき、予定価格や工期の検証を容易にするなど、多くのメリットが期待される手法です。
Q工事進行基準の決算処理において、工事損失引当金は損金算入できますか?
A工期延長や資材高騰などで、工事原価が受注金額を超えてしまうことは起こり得ます。工事進行基準でも将来の損失に備えた損失見込額を工事損失引当金として計上することは認められていますが、法人税法上、工事損失引当金相当額は当該事業年度において損金に算入される費用には含まれません。
Q工事進行基準を用いた不正会計の事例を耳にしました。どのようなものですか?
A工事進行基準において、工事原価総額を意図的に小さく見積もることで工事進捗度を上昇させ、売上高を過大に計上するといった不正の手口があります。発覚後、多額の課徴金を支払い上場廃止になった例もあります。

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【参考】
・内閣府「建設資材価格の高騰と公共投資への影響について
・国土交通省 国土技術政策総合研究所「EVMS による公共工事の出来高・工程管理の手引き(案)
・国土交通省「建設工事費デフレーター
・証券取引等監視委員会「最近の粉飾の手口
・国税庁「4 収益及び費用の帰属時期の特例
・国税庁「法令解釈通達第2款 工事の請負
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