洋上風力発電が建設業にもたらすもの

洋上風力発電の最前線/建設業界、新規市場に期待広がる

 政府は、エネルギー政策の今後の方向性を示す「第6次エネルギー基本計画」を10月22日に閣議決定した。2030年度の温室効果ガス排出削減目標(13年度比46%減)の達成を目指し、2030年度の電源構成で再生可能エネルギー比率を36~38%とし、2019年度実績(18%)から倍増する。再生可能エネルギーを主力電源に位置付けているが、発電施設の大半がこれからの整備となり、建設業界にとっては大きな市場になるのは間違いない。特に洋上風力発電は新規ビジネスとして期待されており、今後施設整備に向けた動きが加速しそうだ。

第6次エネルギー基本計画を閣議決定、再エネが主力電源に

 第6次エネルギー基本計画は、「2050年カーボンニュートラル宣言(温室効果ガス排出量を実質ゼロにする)」や、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比46%減という目標達成に向け、野心的な見通しを示している。低迷する経済をエネルギー政策によって刺激し、同時に脱炭素化にかかわる技術やノウハウをいち早く蓄積し、海外でも展開できるようにするのが狙いだ。

 2030年度の電源構成は▽再生可能エネルギー36~38%▽原子力20~22%▽水素・アンモニア1%▽液化天然ガス(LNG)20%▽石炭19%▽石油2%。このうち再生可能エネルギーの構成は▽太陽光が14~16%(2020年実績で8・5%)▽風力が約5%(0・86%)▽地熱が約1%(0・25%)▽水力が約11%(7・9%)▽バイオマスが約5%(3・2%)となる。2020年の再生可能エネルギー全体の割合は20・8%で、今後9年間で2倍近くまで引き上げることになる。(表1)

▼ 表1

 このうち、風力は陸上と洋上があるが、陸上風力は現時点導入量が4・2GW、FIT(固定価格買取制度)既認定の未稼働分4・8GWがすべて稼働しても合計で9・0GWしかない。このため、現行の政策努力を継続し4・4GW上乗せし、さらに環境アセスメント対象の見直しや自治体支援などで2・5GWを追加し、最終的には15・9GWまでにする。

2030年度までに3GWの洋上風力発電設備を整備

 一方、洋上風力は現時点導入量がわずか0・01GWしかない。既認定未稼働の稼働は0・67GWで、両者を合わせても0・68GW。これを2030年度までに3・7GWまで増やす。

 経済産業、国土交通両省、企業・団体などで組織する「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」がまとめた洋上風力産業ビジョンによると、「2020年度より年間100万kW程度の区域指定を10年継続」することを明記。「区域指定」→「事業者選定」→「FIT認定」といった手続きやFIT認定から事業開始までのリードタイムを8年(環境アセスメント4~6年+建設作業2~3年)かかると想定すると、1・0GW程度となる。さらに、資源エネルギー庁のアクションプランでは、案件形成の促進に向け、初期段階から政府が風況調査や系統の仮確保などを行う「日本版セントラル方式」の確立を目指すとしており、2030年度までに追加で1~2GW程度の導入が見込まれるとし、全体で3GWを上乗せする計画だ。

第1弾は五島列島の浮体式、戸田建設グループが事業者に

 この計画を画餅にさせないためには、政府の強力な後押しが欠かせない。2019年4月に施行された「海洋再生可能エネルギー整備法(再エネ海域利用法)」で、すでに施設整備に関する法律はほぼ整った。同法では国が一定の要件を満たした海域を洋上風力の「促進地域」に指定した上で、公募による事業者選定を行うことを定めているが、この手続きをすでに始まっている。

 同7月には促進区域の指定に当たり、既に一定の準備段階に進んでいる区域として11区域を整理。このうち秋田県の「能代市、三種町および男鹿市沖」「由利本荘市沖(北側・南側)」、千葉県の「銚子市沖」、長崎県の「五島市沖」の4カ所を「有望な区域」に選定。さらに、同年7月に「促進区域」に格上げされた「五島市沖」は同年12月の事業者募集を締め切り、2021年6月に発電事業者が決定した。(表2

 発電事業者は戸田建設が代表のコンソーシアム「(仮)ごとう市沖洋上風力発電」で、構成会社は▽ENEOS▽大阪ガス▽関西電力▽INPEX(国際石油開発帝石)▽中部電力-の5社。商用として国内初の浮体式ウインドファームを整備し、運営する。

 洋上風力発電は基礎が海底に固定されている「着床式」と、固定されていない「浮体式」の二方式があるが、五島市沖は浮体式が採用される。浮体式の発電設備(出力0・21万kW)を8基整備する。総出力は1・68万kW。事業会社を設立後、両省の大臣から占用計画の認定を受ける。経済産業相がFIT制度の認定、国土交通相が最大30年間の占用許可を行う。占用区域は海底面積ベースで2726・5ha。戸田建設は浮体式洋上風力発電の実用化を目指し、2010年度から五島市沖で実証実験などを継続していた。

 他の「有望な区域」3カ所(着床式)も「促進区域」となり、今年5月に事業者受付期間を終え、現在審査中。年内に事業者が決まる見通しだ。このほか、現在「有望な区域」として青森県沖日本海(北側)など4区域を指定し、整備に向けた協議会の設置や国よる風況・地質調査の準備が進められている。さらに山形県遊佐町沖など6区域は「一定の準備段階に進んでいる他の区域」に指定している。(表2)

▼ 表2

秋田など4地区で資材のバックヤードとなる基地港湾を整備

 洋上風力発電施設の建設は今後、急ピッチで進みそうだが、海上でこうした施設を建設するには風力発電に必要な各種資材を仮置きする基地港湾や、風車などの大型の機材を所定の位置まで運び、建設する特殊作業船(SEP船)も必要となる。国土交通省は両方式で必要となるスペックを検討し、早急に基地港湾の整備方針などをまとめる予定。

 現在、基地港湾として▽秋田(秋田市)▽能代(秋田県能代市)▽鹿島(茨城県鹿嶋市など)▽北九州(北九州市門司区)-の4港を指定。国土交通省は事業が急に具体化して基地港湾が不足する事態に備え、国内の複数港湾でも整備の支援体制を整える方針だ。

 一方、SEP船は洋上で4本のレグ(脚)を伸ばして海底で支え、船体を気中にジャッキアップすることで、風車等の設置を行う大型クレーンを搭載した多目的起重機船となる。気象・海象が厳しい海域でも、船体の揺れを防ぎ、安全に精度の高いクレーン作業が可能で、我が国では2018年12月、五洋建設が国内初となる800トン吊りのSEP船を建造している。

 その後、清水建設が2500トン吊り、五洋建設・鹿島建設・寄神建設が1600トン吊り、大林組・東亜建設工業が1250トン吊りのSEP船を建造中である。施工を担当するゼネコンらは、この船数では足りない場合、必要に応じて海外のSEP船の日本船籍化も検討しているという。

風車製作も含め、日本の新たなインフラ輸出産業に育てる

 洋上風力発電はすでにEU各国では実用化が進んでいるが、日本と異なり遠浅の海域が多く、台風もない。日本が台風や地震・津波などにも対応した洋上風力発電施設を実用化できれば、今後東南アジアなどへのインフラ輸出も可能になる。

 風車製作は日本メーカーが撤退したため、すべて海外調達となるが、洋上風力産業ビジョンでは2040年度までに国内調達比率を60%へ引き上げる方針を打ち出している。なかでも浮体式はEUでも実例は少なく、日本が風車の製造、建設、運営など一括してできるようになれば、世界の中でシェアを高めていくことは夢ではなくなる。洋上風力発電を世界で展開できるビジネスに育てることができるのか、今後の動向が注目される。

坂川 博志 氏 執筆者 
日刊建設工業新聞社
常務取締役編集兼メディア出版担当
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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