1.はじめに
2019年10月1日より、国内において行われる資産の譲渡等又は課税仕入れ等に係る消費税は原則として新消費税率10%が適用されます。前回まで2回にわたり、適用税率の原則や経過措置の概要と、建設業に関係する請負工事の経過措置の内容や留意点について見てきました。今回は、請負工事契約において元請契約と下請契約とで適用税率が異なる場合について、数値例も用いながら具体的にみていきたいと思います。
2.元下契約での消費税のしくみ
まず消費税のしくみを簡単にみていきます。消費税は商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して広く公平に課税される税で、最終消費者が負担し、納税義務者である事業者が納付します。よって生産、流通などの各取引段階で二重三重に税がかかることのないよう、税が累積しない仕組みが採られています。具体的には、事業者は課税売上に係る消費税額から、課税仕入に係る消費税額を控除して納付金額を計算します。
建設業で考えると、元請事業者が納付すべき消費税額は、元請契約の対価に係る消費税額から下請発注に係る消費税額を控除した金額となります。以下に数値例を用いてみてみます。
上記の通り、損益計算は消費税を除いた金額で計算することができ、単純に、元請契約に係る売上1,500(税抜き)から下請発注額である仕入1,000(税抜き)を控除した金額500が利益と考えることができます。そして消費税納付額は売上にかかった消費税120から仕入れにかかった消費税80を控除して、40となります。
3.元下契約で適用税率が異なる場合
次に本題である、元下契約で適用税率が異なるケースを見ていきます。
こういった税率差が発生するのは、経過措置によって施行日(2019年10月1日)以降に2種類の消費税率が使用されることによります。
具体的な例として、消費税引上げ後、元請契約には経過措置が適用された旧税率8%での課税がなされ、下請契約には新税率10%での課税がなされる場合をみてみます。なお、比較のために、数値は「2.元下契約での消費税のしくみ」の数値例と同じものを用います。
元下契約で適用税率が異なるケース
上記の通り、消費税が適正に転嫁されていれば、適用税率の違いは元請業者の損益に影響は与えず、「2.元下契約での消費税のしくみ」で見た利益と同額の利益(500)となることがわかります。即ち、消費税が10%であっても8%であっても、損益計算には全く影響しません。
4.おわりに
消費税引上げを目前に、全3回にわたり、建設業特有の論点を中心に見てきました。既に各社にて消費税引上げに対する準備や検討はなされていると思います。建設業に関わる重要な論点として、請負工事の経過措置の適用と元下契約での適用税率が異なる場合については原則的な取扱いと合わせて見直し、スムーズな移行に役立てて頂ければ幸いです。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。