みんなで仲良く休みましょう-適正工期で全員幸せ

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中建審で複数の委員から意見

 10月3日、中央建設業審議会(中建審)の総会が開かれました。この中で2024年4月から「時間外労働の上限規制」が建設業にも適用されることを受け、複数の委員から「適正工期確保の実効性」を高めるために「工期に関する基準」を見直すべきとの意見が出されたとの報道がありました。事務方である国土交通省はこの意見に対し、今後検討すると回答、次回以降の中建審総会で審議される見通しとなりました。

 見直し意見を述べたのは堀田昌英委員(東大大学院工学系研究科教授)と奥村太加典委員(全国建設業協会会長、奥村組社長)。堀田委員は「理念的な規定ではなく、より実効性のある仕組み」を、奥村委員は熱中症への対応を視野に「猛暑日による不稼働」を指摘し「WBT(暑さ指数)値31以上での不稼働を明示してほしい」と訴えました。

建設産業の働き方はどうなっているか

 2018年6月の「労働基準法改正」によって、法定労働時間は1日8時間、1週間40時間までとされ、時間外労働は原則として月45時間かつ年360時間(月平均30時間)と定められました。この規定は大手企業が19年4月から、中小企業は20年4月から適用されましたが、建設産業は24年4月からの適用となったことは周知のとおりです。ただし、災害の復旧・復興事業には適用されません。

 では、建設産業で働く人たちの労働実態はどうなっているのでしょうか。以前にも触れたので簡単に記しますが、国交省の「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査(令和4年度)」によれば、技術者の13%、技能者の5%が平均残業時間45時間超であり、技術者の7%、技能者の2%が月当たり最大残業時間100時間超となっていることが分かっています。

 また「工期不足」に対しては休日出勤、早出・残業といった時間外労働で対応しているとの回答が4割を超え、これら時間外労働での対応は下請け業者ほど多い傾向にあると分析されています。特に2次以降の下請工事では休日出勤と早出・残業で対応しており、その割合は休日出勤27%、早出・残業29%の計56%に達しています。ここに「適正工期設定」の盲点があるのではないでしょうか。

泣く子とお施主様には勝てぬ

 「施主」という単語に「お」という接頭語に加え、最後に「様」が付くというこの言葉は、ある意味、建設産業ならではということが言えそうです。それはともあれ「お施主様」のおっしゃることは絶対であり、何があっても守り抜かなければならないものです。そのせいではないのでしょうが、工期の設定に関する項目でも「注文者の意向が優先され、受注者の要望が受け入れられないことが多い」という回答が約半数を占めました。

 公共工事が週休2日制を含めて工期を設定しているのに対し、民間では、なかなかそうはいかないようです。

 民間の場合は「建築」の占める割合が多く、工期の長短が収益に関わってくるケースが多いというのが、その理由だと思われます。1日でも早く店舗をオーブンさせたい、賃貸マンションの入居を開始したいといった情景を思い浮かべれば分かるでしょう。実際、大型商業施設では工事遅延による損害賠償を求められるといったケースもよく見られます。

 融資を受けている場合、遅延した分だけ利息が増えるということもあるわけですから、工期を延長することは手持ちの資金を減らすということになりかねないからです。

適正工期設定に関する法改正

 19年の公共工事品確法・建設業法・入札契約適正化法の一体改正によって、国交省直轄工事だけでなく、地方公共団体の発注工事でも週休2日の確保等を考慮し、必要となる労務費等を請負代金に適切に反映することなどについて要請されたほか、民間工事でも関係省庁を通じて同様な形で発注されるよう働き掛けられました。「著しく短い工期」に対しては「駆け込みホットライン」が設けられ、活用が求められています。また、新型コロナウイルス感染対応という新しい事態も生じました。いずれにせよ、「どう見ても無理な工期」という状況は解消されつつあると思われます。

適正工期は誰のものか

 言うまでもなく建設産業は、元請・下請関係で成り立っています。「工期」は元請と「お施主様」との協議によって決まりますが、往々にして、それは「お施主様」の事業の都合が支配します。「何月何日の開店」「何月何日から入居可能」などなど、その要素は多岐に及びます。道路の供用開始もそうでしょう。いわゆる「ケツカッチン」という状況です。

 元請はその責任上、完成時期に責任を負わねばなりません。ただ、そのために下請に無理をさせているのではないかという懸念があります。「働き方はどうなっているのか」のところで記したように、2次以下の下請の休日出勤、早出・残業に依存しているのではないかということです。適正工期は元請だけでなく、そこでともに働く下請にとっても適正でなければなりません。「工期」という枠を下請作業に割り振るのか。個々の職種にとっての適正工期でなければ、真に適正な工期ではないということになります。

 しっかりした現場管理で職種ごとの適正工期を割り出し、「みんなで仲良く、しっかり休む」ことが大切です。

発注者との懇談会でも続々と訴え

 地方整備局や地方自治体と当該地域の建設業協会、建設関連業協会との懇談会でも、この時間外労働時間規制は、常に議題の最初に挙げられています。とはいえ、建設業も建設関連産業も、この規制が適用されようがされまいが「やること」は同じはずです。となれば適正な工期設定は当然のこととして、例えば「打ち合わせ」「書類提出」などを、いかに合理的に行うかということも大切になってきます。最近テレビコマーシャルで見かけるようになった「電子野帳」などの電子機器の活用も図られてしかるべきでしょう。建設のDX(デジタルトランスフォーメーション)化は避けて通れませんし、自治体も率先して導入していくべきでしょうし、実際、利用範囲は拡大してきています。自治体(発注)側も業界の思いに応えようとする姿が垣間見えます。あとは民間発注者です。

 建設業と運輸業に与えられた「猶予期間」は、まもなく終わりを告げます。「猶予期間の5年間なんてあっという間ですよ。この間にできることはしておきましょう」と鳴らされた警鐘は、いよいよ現実のものとして目の前に迫ってきました。

「バレなければいい」というのではなく、あくまで「罰則付き」という「犯罪」であることを肝に銘じてほしいものです。働き方を正してこそ、若手の入職につながり、それが建設産業を守ることにつながると思います。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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