ここ最近、建設資材の価格アップが続いています。その背景には素材価格の上昇と、一大生産拠点である中国の電力不足の影響、新型コロナによる輸入の停滞といったことが挙げられています。12月2日付の日本経済新聞の記事によると、上場大手ゼネコン4社が「工事損失引当金」を大幅に積み増しているとのことです。その背景として「利幅悪化」だけでなく、労務費や資材の高騰が上げられています。
思い出される「オイルショック」
1973年10月6日、第4次中東戦争が勃発しました。これを受け、同月16日には石油輸出国機構(OPEC)に加盟している産油国のうちペルシャ湾岸6カ国が、原油の公示価格を1バレル3・01ドルから5・12ドルに引き上げることを発表しました。翌17日にはアラブ石油輸出国機構(OAPEC)が原油生産の段階的削減を決めました。
同機構は20日以降、イスラエルが占領地から撤退するのまでイスラエル支持国に対する経済制裁として石油の禁輸措置をとることを決めました。12月23日になって、OPEC加盟国のペルシャ湾岸6カ国が74年1月から原油価格を5・12ドルから11・65ドルに引き上げることを決定しました。
当時の日本は、円高不況に陥っており、産油国の動きを見て、73年11月16日に「石油緊急対策要綱」を閣議決定し、「総需要抑制策」が取られることになりました。この時、大型公共事業も凍結・縮小されることになりました。具体的には、整備新幹線建設の大幅延期、本州四国連絡橋3ルートの着工延期などです。当時を物語る映像としてトイレットペーパーの争奪・買い占めがあります。テレビの深夜放送も自粛されることになりました。
消費者物価指数が74年には23%上昇し、「狂乱物価」という言葉で語られました。経済成長率は前年比マイナス1・2%と、戦後初めてのマイナス成長となりました。このオイルショックは79年にも起こっています。
「オイル」から「コロナ」へ
国内の物流が断絶したのは、何と言っても2011年3月11日に発生した「東日本大震災」でしょう。東北方面との陸上交通手段が遮断され、モノが流れなくなってしまったことは記憶に新しいと思います。その結果、メーカーでは製造拠点の再配置などを余儀なくされたと言われています。「新型コロナ禍」はそれよりも広い範囲での製造拠点見直しを迫られることになりました。部品の輸入ができず、生産計画を見直すという事態を引き起こしたからです。
いわゆる事業継続計画(BCP)の見直しですが、これは東日本大震災の時にも行われましたが、その規模が全世界に広がったといえるのではないでしょうか。
例えば、中国で製造している衛生陶器が入荷できないため、建物が完成させられないという事態に至りました。その中国では電力不足から銅の精錬ができず、銅地金の価格が高騰しています。また、東南アジア諸国で製造している部品の供給が滞っているため、製品の供給が困難になっているものも出てきています。建設関連業界にとっては、かなり深刻な状況になってきているのが現実です。
素材価格はどうなっているか
素材の1つとして「銅地金」の動向を見てみます。JX金属によると銅建値は2021年3月に、1トンあたり100万円の壁を越え、102万2,200円となります。以降、4月は104万4,500円、5月は115万6,800円、6月は111万1,400円、7月は108万7,500円、8月は107万4,700円、9月は107万8,900円、10月は115万3,100円、11月は116万5,200円と推移しています。銅はエアコンの室外機や給湯配管、屋根材として使われるほか、電気自動車(EV)のバッテリーに大量に使われます。建設と自動車の取り合いの様相を呈しています。
先日、某大手空調機メーカーが熱交換部分を銅からアルミに変更するという報道もありました。建築設備工事会社では、従来の銅配管に代わってアルミ配管に切り替えるという動きもあり、実際に「アルミ配管設備工業会」が誕生しています。材料の入手のしやすさとコストに加え、施工性といった面でも、材料の変更を余儀なくされたのではないかと見られています。
また、塩ビ管や塩ビ継手に代表される石油関連資材は、原油の高値圏は抜けたものの「ナフサは内外価格差が大きく、国内価格が急騰し、製品価格への転嫁が見込まれる」とする見方があります。管材商社大手の橋本総業の「セグメント別市場動向」によれば、化成品は「原料メーカーの2次値上げで、各メーカー再値上げを表明」した結果、「製品価格への転嫁が加速される見通し」だとしています。
単に調達コストだけではない
海外からの原材料供給ストップは、実際の工事に使う資材供給にも大きな影響を与えており、その1つに吹付ウレタンがあります。ビルやマンションの壁面断熱に使うものですが、代替がきかないために、仕上げなどの後工程に大きな影響を与えかねない状況に陥っています。完成、引き渡しが遅れれば、賠償問題も絡んで、建設業の経営に大きなダメージを与えます。資材の問題は、単に調達コストだけの問題ではなく、信用問題、賠償問題も内包していることになるわけです。
当たり前の話ですが、すべての製品は「資材」で構成されています。その資材の安定的な入手方法を確立することが、切実に求められています。よきパートナーを見つけることこそ、安定経営への道だといえるでしょう。
顧問
服部 清二 氏
中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。
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