改正建設業法・公共工事入札契約適正化法(入契法)の規定のうち、適切な価格転嫁に向けた契約変更協議の円滑化措置などが2024年12月13日に施行された。同措置は、ここ数年の急激な資材費・労務費の高騰を踏まえ、受・発注者間の契約変更の円滑化を図るのが狙い。建設業者が請負代金や工期に重要な影響を及ぼす事象について契約締結前に注文者に通知。その事象が実際に発生した際、注文者は協議に誠実に応じる努力義務が課せられる。これまで余り契約変更が認められなかった民間工事にも適用されるため、価格転嫁が本当にできれば建設業者にとって大きなメリットになる。
改正建設業法のうち、初の効力のある規制措置
12月13日に施行された主な規定は、改正建設業法のうち▽契約書の法定記載事項の追加(第19条第1項第8号)▽契約変更協議の円滑化(第20条の2)▽監理技術者などの専任義務の合理化(第26条)▽営業所技術者などの職務の合理化(第26条の5)▽処遇確保の努力義務の新設(第25条の27)▽ICT活用に関する努力義務の新設(第25条の28)――などの規定。入契法は▽契約変更協議に誠実に応じる公共発注者の義務(第13条)▽公共工事の施工体制台帳の提出義務の合理化(第15条)――などとなる。
国土交通省は同日、建設業団体や官民の発注者に施行内容を周知する文書を送付するとともに、改正建設業法に基づく具体的な内容を定めた政省令に加え、元下間と受発注者間の「建設業法令順守ガイドラン」「監理技術者制度運用マニュアル」「ICT指針」などの関連する文書も合わせて通知した。今回の施行は改正建設業法・公共工事入札契約適正化法(入契法)の段階的な施行の第2弾となるもので、昨年9月施行の国よる調査権の付与などと違い、初の効力のある規制措置となる。
注文者は協議の場の要請を門前払いできない
近年、建設工事の大型化に伴い、工期が5年以上にも達する案件が出てきている。こうした大型工事では、施工期間中に資材費や労務費が急騰する場合があり、契約変更が認められないと、労務費へのしわ寄せが懸念されている。公共工事ではスライド条項で物価変動分を一定のルールに基づいて契約変更を認めているが、民間工事ではそもそも契約変更の規定さえない契約書も散見され、価格転嫁が思うようにできていないのが現状だ。
今回の適切な価格転嫁に向けた契約変更協議の円滑化措置は、こうした状況を踏まえ、せめて注文者と施工者の協議の場を設け、注文者による一方的な門前払いを禁じるもの。受注者に対し、工期や請負代金に影響を及ぼす事象に関する「恐れ(リスク)情報」を通知することを義務化し、それを受けた注文者にはリスク発現時の誠実な協議対応を努力義務化した(表1)。
請負代金等の「変更方法」を契約書の法定記載事項に
「契約変更を認めない」契約も、契約書の法定記載事項として認められない
契約前に、資材高騰等のリスクを注文者・受注者の双方が共有
⇒契約後、実際に発生した場合の変更協議を円滑化
天災などの自然的または人為的な事象により生じる、
・主要な資機材の供給の不足/遅延または資機材の価格の高騰
・特定の工種における労務の供給の不足または価格の高騰
※契約時に未発生の自然的事象に起因する事象については、発生の蓋然性を合理的に説明できる場合を除き事前に予測することは困難と考えられることから、通知が義務づけられる情報とは想定しがたい。
【「おそれ」情報の通知方法】
・受注者の通常の事業活動において把握できる、一定の客観性を有する統計資料等
に裏付けられた情報が根拠
※国や業界団体の統計資料、報道記事、下請業者・資材業者の記者発表など
・書面またはメール等の電磁的方法により、見積書交付等のタイミングで通知
誠実協議(注文者)
注文者は、受注者の協議申出に対して、協議のテーブルに着いたうえで、
変更可否について説明する必要がある
・協議の開始自体を正当な理由なく拒絶
・協議の申出後、合理的な期間以上に協議開始をあえて遅延
・受注者の主張を一方的に否定または十分に聞き取らずに協議を打ち切る
業界団体に通知した書面によると、リスク情報の通知として公共工事向けの「通知書」の参考様式を提示。発生する恐れのある事象と、その把握のために必要な情報の入手先を記載する様式で、落札決定から契約締結までの間に発注者に提出することとしている。通知すべき対象事象は、主要な「資機材」と特定工種の「労務」に関する価格高騰や供給不足・遅延が生じるリスク情報と明記。契約前に提出する見積書に、リスク情報を記載した書面を添付するなどの対応を求めている。
設計図書と施工環境の乖離はリスク情報に含まない
施行に合わせて改定した元下間と受発注者間を対象にした「建設業法令順守ガイドライン」では、労務のリスクが契約当事者の責任ではない自然的・人為的な事象で合理的に説明できる範囲で構わないことを説明。工期が短い工事などリスク発現が想定しにくい場合は通知が不要との解釈も示している。リスク情報の通知は受注者の義務となるが、あくまで受注者の通知を起点とする協議円滑化の仕組みとなることから、実際に通知するかどうかや、通知の範囲に関して受注者に判断の余地を残している。
通知を受けた注文者は誠実に協議に応じる努力義務を課し、まずは協議のテーブルに付いて変更の可否を説明する必要がある。正当な理由のない拒絶、協議開始の遅延、一方的な否定や協議の打ち切りは違反行為としている。
リスク情報として提供する根拠資料は▽メディア資料▽資材業者の記者発表▽公的主体や業界団体が作成・更新した一定の客観性を持つ統計資料――などを例示。資材業者の「口頭」だけの情報など注文者が真偽を確認できないものは根拠とならず、はっきりとした情報源であることも必要となる。
設計図書と施工環境の乖離(かいり)は、契約後に顕在化するリスクとして扱うのではなく、事前の現場確認などで契約内容に反映すべきとし、リスク情報として通知する事象には該当しないとしている。契約書の法定記載事項とした資材などの価格変動に伴う請負代金などの「変更方法」について記載例も示し、「(変更額を)協議して定める」などの記載を促している。仮に記載していても「変更しない」「変更を認めない」といった協議を前提としない内容の場合は建設業法違反としている。
変更額の上限が請負額に極めて近いケースは違反に
さらに、国土交通省は2024年12月に都内で開いた説明会で、運用上のさまざまな質問に答えている。例えば契約書に記載すべき変更方法について、国土交通省は受注者が契約変更を請求でき、変更額などを協議して定めることなどを最低限定める必要があると回答。変更対象とする費用項目を限定したり変更額の上限を設けたりすることについて、設定上限が請負額に極めて近いケースなど「実質的に契約変更を認めない内容になっている場合は違反の恐れがある」とした。
公共工事のスライド条項に請負額の1・5%などの受注者負担があることから、これに準じた対応が民間工事でも求められるのかについて、国土交通省はスライド条項を定める建設工事標準請負契約約款の改定議論を1月から本格化すると説明した上で、「民間契約の当事者間で(負担割合などを)協議の上で決めることは業法上問題にならない」とした。
工期が長い工事で当初想定したリスクを超える事象が工期途中に起きた場合の対応については、事前通知されていないことが協議を拒む理由にはならないとの考えから契約書の「変更方法」を取っ掛かりにした協議への対応が必要としている。
受注者とパートナーの関係にあるという基本認識を
施行されてまだ1カ月足らずで、運用ルールを明示する「建設業法令順守ガイドライン」も施行直前に出されたため、民間工事でどのように対応すれば良いのか分からない建設会社も多いだろう。国土交通省は今後各地で説明会を開催し、改正建設業法の周知を図っていく方針で、建設会社はこうした説明会に参加し、積極的に情報を収集していく必要がある。
国土交通省が民間発注者団体に送付した文書には、「受注者とパートナーの関係にあるという基本認識を持ち、相互のコミュニケーションを促すため、改正建設業法の内容への理解と適切な対応を」と呼びかけている。民間発注者団体はこれまで、資材価格などが急騰したケースだけの議論で、急落した場合は返金してくれるのかなどと指摘してきた。今回の措置は、リスク情報に基づき、その事象が発現した場合、受注者の要請に基づいて協議の場を設けるというのが主眼だ。設計変更を認めるか、認めないかはあくまでその協議の場に委ねられている。要するに価格転嫁を交渉できる協議の場が用意されただけで、その場で何を訴え、どう成果を得ていくかは、これからの建設業界次第と言える。

執筆者
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏
1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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