1.はじめに
建設現場で働く外国人はここ数年で飛躍的に増加しました。その要因の一つが2019年4月に開始した特定技能制度です。この制度は、中小企業を中心とした人手不足を解消するために設けられたもので、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れる仕組みです。開始当初は、人手不足が特に深刻とされる建設分野を含む14分野で運用が始まりましたが、現在では対象分野が拡大され、今後16分野に拡充されることが決定しました。 新たに追加される分野として、自動車運送業が挙げられます。 この分野では、タクシーやバスの運転手を担う特定技能外国人の受け入れが想定されており 、近い将来、私たちが利用するタクシーやバスを外国人材が運転する光景が一般的になることが予想されます。特定技能制度が開始されてから、この春で6年目を迎えます。ここでは、外国人材の受け入れ状況や、特定技能外国人を受け入れる際の要件や準備について、改めて詳しく見ていきましょう。
2.特定技能制度運用状況について
現在、日本にはどれほどの特定技能外国人が在留しているのでしょうか。制度開始直後は伸び悩んでいましたが、1年を経過した頃から急速に増加し、令和6年6月時点では251,747人に達しています。海外から新たに入国するケースも増えていますが、それ以上に、既に国内に在留している外国人が「特定技能」に在留資格を変更して滞在を継続しているケースが圧倒的に多い状況です。この多くは、技能実習から特定技能への在留資格変更によるものです。詳細は、以下の表をご参照ください。

出典:出入国在留管理庁「特定技能制度運用状況」
飲食店、ホテル、建設現場など、さまざまな場面で外国人が活躍する姿を目にする機会が増えています。それでは、建設分野における特定技能外国人の割合はどのくらいなのでしょうか。出入国在留管理庁の資料によると、建設分野は在留する特定技能外国人全体の12.7%を占めており、分野別では4番目の上位に位置します。具体的な人数では、31,919人の外国人が建設分野で活躍しています。
一方、国土交通省によれば、建設業就業者は平成9年の685万人をピークに年々減少し、令和5年には483万人まで右肩下がりに減少しています。また、建設業就業者の高齢化も進行しており、こうした状況下で特定技能外国人の活躍は日本の建設現場にとって欠かせない存在となっています。

出典:出入国在留管理庁「特定技能制度運用状況」
3.特定技能外国人を雇用するには
特定技能制度は非常に細かく設計されており、ここですべてを詳しく説明することは難しいため、概要を簡単にご紹介します。まず、人材の確保から始まります。先に示したデータによれば、在留する特定技能外国人の多くは、在留資格「技能実習」からの変更によるものです。ただし、技能実習生であれば誰でも対象となるわけではありません。まず、技能実習2号を良好に修了した者が対象となります。
次に、技能実習2号の移行対象職種と特定技能1号における業務区分(土木/建築/ライフライン・設備の3つ)が重要なポイントです。難しい用語が出てきましたが、簡単に言うと、技能実習2号で行っていた作業内容と、特定技能で従事する業務区分(土木/建築/ライフライン・設備)が一致している必要があるということです。建設分野における詳細については、以下をご参照ください。

出典:出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」
国外から外国人材を受け入れるには、分野・業務区分ごとに定められた技能水準と必要な日本語能力試験に合格している必要があります。この試験は、海外および国内の両方で実施されています。
また、受入機関に求められる基準にはさまざまなものがあり、その1つとして、以下の図に示す10項目の支援を実施することが挙げられます。ただし、これらを単に漫然と実行するだけでは不十分です。特定技能運用要領では、さらに詳細な規定が示されています。
例えば、事前ガイダンスについては、「事前ガイダンスは、1号特定技能外国人が十分に理解できるまで行う必要があり、個別の事情によりますが、事前ガイダンスで情報提供する事項を十分に理解するためには、3時間程度行うことが必要と考えられます」と記載されています。このように、運用要領には事前ガイダンスだけでもさらに詳細な内容が記載されており、これに基づいてすべての支援を適切に実施する必要があります。

出典:出入国在留管理庁「特定技能外国人受け入れる際のポイント」
なお、この支援は、法務大臣が認めた登録支援機関に委託することが可能です。ただし、委託には当然ながら登録支援機関に支払う費用が発生します。また、特定技能外国人の報酬額や労働時間などは、日本人と同等以上である必要があるため、一般的に日本人を雇用する場合よりもコストがかかるのが原則です。
さらに、分野別の協議会への加入や、出入国在留管理庁への定期・随時の届け出など、受入機関にはさまざまな義務が課されています。
4.外国人との共生
2号に在留資格を変更することが可能です(初回に取得する資格が特定技能1号と呼ばれます)。特定技能2号は在留期限に上限がなく、何度でも更新できます。また、特定技能1号では原則禁止されている家族の帯同も、特定技能2号では許可されます。さらに、要件を満たせば永住申請にも挑戦することが可能です。
特定技能外国人材を一時的な人材補充で終わらせることなく、長期的に企業や日本社会で活躍してもらえる仕組みは整っています。日本の人手不足が深刻な産業で働いてくれている外国人材を大切にするためにも、まずは定められた法に基づき、適正に在留管理を行うことが重要です。
5.おわりに
建設分野では、分野ごとの特定の規定として、受入企業と特定技能外国人が「建設業キャリアアップシステム」に登録すること、特定技能外国人受入事業実施法人(JAC)への加入、さらに「建設特定技能受入計画」の認定を受けることなどが求められます。これらにより、他の分野以上にコストと手間がかかる場合があります。
本コラムが、特定技能制度の概要を理解するための入口としてお役に立てれば幸いです。
執筆者
大学卒業後、事業会社を経て、2017年汐留パートナーズグループに入社。法務事業部においてクライアントに対するリーガル面でのサポートを行う。その後国際コンサルティング事業部にて、多くの外国法人の日本進出、日本での許認可取得、イミグレーション(在留資格)関連業務に従事。外国法人の日本進出案件に関して豊富な知識と経験を有し、また、外国人の在留資格に関する業務についても精通している。様々な許認可に関する業務にも対応可能。申請取次行政書士。