CM(コンストラクションマネジメント)業務市場が毎年着実に拡大している。日本コンストラクション・マネジメント協会(CM協会、川原秀仁会長)の調査によると、2024年度のCM業務市場は、400億円を超える規模となり、プロジェクト件数も2500件を超えた。発注者側の技術者不足などに加え、CM業者が単なる建設事業のマネジメントにとどまらず、様々な提案活動を行っていることが、市場拡大に寄与しているようだ。CM業務の普及で、ゼネコンの設計施工案件も増えている可能性もある。
生産・倉庫・物流施設は4年間で2倍に
CM協会が2月に発表した調査は、同協会が運用する認定コンストラクションマネジャー(CCMJ)資格者が在籍する設計事務所や積算事務所、CM専門会社ら374社と、建設コンサルタンツ協会(建コン協、中村哲己会長)のPM(プロジェクトマネジメント)専門委員会所属企業18社の計392社を対象に2024年度に手がけたCM業務を調べた。回答者数は49社だった。
CM業務を受託した企業は35社。CM業務の売上高は407億円(2023年度調査363億円)で、前年度比12・1%増となった。直近の決算期でCM業務の売上高が前期比で大きな変化がなかった企業と、増加した企業の合計は90%超と、2023年度調査の約70%を大きく上回り、過去最大となった。
用途は「事務所(民間)」が最多で、「生産・倉庫・物流施設」と続いた。データセンターや半導体工場などが含まれる「生産・倉庫・物流施設」は2021~2024年度の4年間で2倍弱に拡大しており、投資意欲が旺盛な製造業などの分野に、CM業務が積極的に導入されていることが分かる。
普及に向けた課題では、建築分野、土木分野ともに「担い手不足」が90%を超えた。「発注者のCMに対する認知度」や「CM業務以外の本業の繁忙」が障害になっているとの回答も目立った。
東京が111件でトップ、大阪、千葉が続く
CM業務の調査は、国土交通省も実施している。公共事業でのCM業務の採用状況を調べているもので、調査対象は建築がCM協会、土木が建設コンサルタンツ協会の会員企業で、前述の調結果査とほぼ同じ傾向を示しているが、公共事業に絞ってみると、地方自治体でも着実に広がっていることが分かる。
建築分野の調査は、CM会社に過去に受注した公共建築のピュア型CM業務の累計実績を聞いている。有効回答者数は21社。2023年度末までの受注件数は438件で、2021年度末までの実績を聞いた前回調査から98件増えた。
都道府県別に分けて発注件数を見ると、東京都が111件(直近2年で28件増)でトップ。大阪府が56件(12件増)、千葉県が33件(7件増)で続く。それら上位を含めて2桁の発注実績があるのは福島、埼玉、神奈川、愛知、兵庫、広島、高知の各県を加えた10都府県。一方、青森や富山、石川、福井、鳥取、島根の6県は実績がゼロとなっている。都道府県によって取り組みに温度差があるようだ。
施設用途別で見ると「学校」が90件(15件増)、「庁舎など」が88件(22件増)、「病院など」が83件(14件増)と続き、この3用途で全体の6割に達する。発注者の属性では政令市を除く市区町村が226件(52件増)と半分以上を占める。学校法人や病院機構など国・自治体以外の公的機関が113件(22件増)、都道府県が40件(8件増)、政令市が35件(9件増)、国が24件(7件増)となる。
基本計画からが5割で、川上業務も担当
事業費別では、2017年度から30億円未満の小規模案件の受注が右肩上がりに増え、2020年度には過去最高の4割超に達した。ただし、その後は50億円以上の大規模案件のウエートが再び増え始め、2023年度は小規模案件が2割弱で低調だった。
CM業務の実施段階として最上流の基本計画から手掛けるのは約5割で、うち工事施工まで一貫して業務を受託しているのは約4割。複数年にまたがる業務も全体の約6割を占めた。
一方、土木分野では2023年度まで累計で受注したピュア型CM業務は26社・216件。直近2年に限ると土木で36件の受注があり、地方自治体を中心にCM方式の導入が順調に伸びている。案件のうち、約7割が基本計画や基本設計など事業の上流段階からCM方式を活用。災害復旧や新設・維持管理での活用が増えている。直近2年の受注件数は災害復旧で10件、新設・維持管理で26件。災害復旧で実績がない地域でも活用が広がっている。
技術職員が少ない自治体などで採用促進
いまさらCM業務の説明はいらないと思うが、簡単に業務内容を示す。CM業務は、CM業者が発注者側に立ってプロジェクトの計画や発注方式の検討、工程・コスト管理などのマネジメントを行うもの。このため、技術職員が少ない地方自治体などのマンパワー不足を補完するための活用が有効とされる。2014年の改正公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)では、公共事業の執行でCM方式の採用が正式に位置付けられた。国土交通省のCM業務の調査は、この改正品確法に基づいて2年に1回のペース行われている。
調査結果をみると、公共建築での累計実績のうち建築職員数10人以下の団体での活用は約2割で、建築職員が1人もいない団体での活用も10件程度あった。ただ、直近2年で大きく増えた訳ではなく、建設プロジェクトに取り組む際の選択肢としてCM方式が一般的になっている訳ではない。
このため、国土交通省は技術系職員が不足する自治体でも利用しやすいよう整理した「ピュア型CM方式活用ガイドライン」を2020年9月に公表。小規模自治体の参考になる点に重きを置いて活用事例20件を紹介する「CM方式活用事例集」も2021年6月に作成した。CM協会が主催するセミナーなどで最新の調査結果に加え、ガイドラインや事例集を紹介しながら地方自治体でのCM方式の活用を促している。
一方、民間工事でも着実に増えている。民間発注者が設計施工一貫でゼネコンに発注する際、専門的な知識のあるCM業者に発注者の立場に立ってアドバイスをしてもらうためだ。さらに、CM業者が単なる建設計画・施工監理だけに止まらず、例えば完成後のスポーツ施設の運営手法や、どのような施設を組み合わせた複合施設が良いのか、大学施設の無駄のない教室の活用方法など、さまざまな提案を行っていることも、CM業務市場の拡大に寄与している。
ゼネコンの設計施工一貫受注額が5割台に
日本建設業連合会が毎年発表している会員企業を対象にした建築設計部門年次アンケートでは、国内の建築受注額に占める設計施工一貫受注額が、ここ5年間50~55%と高い水準で推移している。2011~2013年ころは36%前後だったことを考えると、設計施工一貫受注比率が急激に高まってきている事が分かる。
この大きな要因がCM業務の普及があると言われる。CM業者が基本計画、基本設計などを手がけ、実施設計・施工はゼネコンが行う。CM業者はもちろん施工監理も行うが、実施設計からゼネコンが携わるため、施工側の視点からもさまざまな提案が行われ、建設費の削減も可能になる。CM業者とゼネコンの両社の提案が行われることで、施主にもメリットが多いようだ。欧米では一般的なCM業務が、日本でも今後確実に広がっていきそうだ。

執筆者
日刊建設工業新聞社 専務取締役事業本部長
坂川 博志 氏
1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月常務取締役事業本部長を経て、2025年4月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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