設計労務単価4・5%引き上げ/技能者への「行き渡り」が重要に

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     国土交通省は2026年2月末、2026年3月から公共工事の積算に適用する設計労務単価を公表した。設計労務単価は全国・全職種の単純平均で4・5%の引き上げで、日額加重平均値は2万5834円となった。初めて2万5000円を突破し、14年連続で上昇した。昨年12月に中央建設業審議会が勧告した「労務費に関する基準(標準労務費)」は、設計労務単価がベースになっており、今後この新単価で標準労務費が算出される。この標準労務費を著しく下回った額の契約は改正建設業法で禁止されており、今後、新たな標準労務費を盛り込んだ価格での取引が進み、建設技能者に設計労務単価とほぼ同額の賃金が行き渡るのかどうか、注目される。

    2012年度と比べると2倍近く上昇

     設計労務単価は、毎年10月に全国各地で実施する公共事業労務費調査で収集した実際の賃金データをもとに決定される。今回は有効工事件数が1万0031件で、有効サンプル数は8万5670人。対象51職種のうち、建築ブロック工はサンプル不足で単価を設定しなかった。

     建設技能者に実際に支払われた賃金を調査して設計労務単価は原則設定されるが、ここ数年は政策的な要素も加味されていた。実際の賃金で翌年の設計労務単価が決まると、賃金が下落傾向にあった場合、その低い賃金が翌年に反映されるため、デフレスパイラルに陥るといった指摘があったためだ。

     国土交通省らは、こうした指摘を受け、2013年度に必要な法定福利費相当額を加算するなどの政策的な措置を実施。全職種平均で15・1%という大幅な引き上げを実施した。それ以降、設計労務単価は14年連続で上昇を続け、今回の設計労務単価は過去最高値を更新した()。

    図 2013-26年の公工事設計労務単価の単純平均の伸び率推移(指数、2012年=100)
    図 2013-26年の公工事設計労務単価の単純平均の伸び率推移(指数、2012年=100)

     今回の設計労務単価は上昇局面に入る前の2012年度単価と比べると、全国・全職種の単純平均で94・1%上昇となり2倍近くに達する。都道府県別・職種別で1000以上の単価を設定しているが、ごく少数の単価を除いてほとんどがプラス改定となった。公共工事に従事する現場労働者の8割以上を占める主要12職種の加重平均は、日額2万4095円で、全国単純平均の上昇率は4・2%だった。

     12職種のうち、全国平均値が最も高かったのは型枠工で3万1671円(前年度比プラス5・0%)、次いで鉄筋工3万1267円(同4・6%)、とび工3万780円(同4・0%)、左官3万508円(同4・1%)、大工3万331円(同3・1%)の順。伸び率が最も高かったのは交通誘導警備員Bで前年比プラス6・7%(1万6749円)と大幅な上昇となった()。

    表 2026年3月から適用された公共工事設計労務単価
    職種 全国平均値 2025年度比
    特殊作業員 28,111円 4.36%
    普通作業員 23,605円 3.00%
    軽作業員 18,605円 2.90%
    とび工 30,780円 4.00%
    鉄筋工 31,267円 4.60%
    運転手(特殊) 29,442円 4.80%
    運転手(一般) 25,275円 2.90%
    型枠工 31,671円 5.00%
    大工 30,331円 3.10%
    左官 30,508円 4.10%
    交通誘導警備員A 18,911円 5.80%
    交通誘導警備員B 16,749円 6.70%

    注)金額は加重平均。伸び率は単純平均値で算出

    雇用に伴う必要経費が41%から48%に

     国土交通省は、公共工事設計労務単価と別に、事業主が負担する「雇用に伴う必要経費」の参考値も見直した。これまで設計労務単価の41%とされていたが、これを48%に引き上げた。法定福利費の事業主負担分や労務管理費、安全管理費などの現場作業に掛かる経費などが含まれるもので、標準労務費の算出にも使われる。

     必要経費の参考値の公表は、2013年度に初めて行われた。労働者本人が受け取るべき賃金が設計労務単価となるが、この中に雇用に伴う必要経費も含まれるという誤解があったため、参考値の明示が始まった。参考値は、直轄工事で実施している諸経費の実態調査結果を踏まえて算出される。

     初公表した2013年度は「設計労務単価の41%」とされたが、その後10年以上据え置かれてきた。今回の見直しでは、従来の経費のほか、建設キャリアアップシステム(CCUS)の現場運用に伴う経費なども考慮した数字になっているという。

     標準労務費を算出する際、新たな設計労務単価と新たな必要経費の参考値が使われる。改正建設業法では、必要経費分を下請代金に計上しなかったり値引いたりするのは不当行為となる。国土交通省は下請から元請に見積書を提出する際などの参考にしてもらい、必要経費分を見込んだ価格交渉を促す考えだ。

    官民の申し合わせの6%賃金アップには届かず

     2025年2月、当時の石破茂政権は賃上げ促進を経済政策の柱に掲げた。こうした政権の意向を受け、中野洋昌国土交通相(当時)と建設業主要4団体が2025年に建設技能者賃金の「おおむね6%上昇」を目標に官民で取り組むことを申し合わせた。今回の設計労務単価は、その目標を単価ベースで下回る格好となったが、国土交通省は最終的な達成可否を各団体が実施するフォローアップ調査を踏まえ検証する方針だ。

     改正建設業法に基づき中央建設業審議会(中建議)が勧告した標準労務費は、設計労務単価と必要経費の参考値を計算の基礎として、工種・作業別の「基準値(標準労務費)」を算出している。改正建設業法はこの基準値を著しく下回る見積もり・契約を禁じている。この法律は公共工事と民間工事を問わず規制の網が掛かるため、下請取引も含めて設計労務単価相当額を支払うだけの賃金原資の確保を意識した見積もりや契約が今後必要になる。

     国土交通省は近く、工種・作業別に設定した「基準値(標準労務費)」と、設計労務単価と同じく公共事業労務費調査を基礎データとする「建設キャリアアップシステム(CCUS)レベル別年収」も、新単価に基づく改定を行う予定だ。

    建設業界の商習慣を変えるチャンスに

     ここ数年、専門工事業界からは「設計労務単価は年々上昇しているが、全くその実感がない」という意見が出されていた。改正建設業法はその意見を踏まえ、標準労務費という新たな考え方を打ち出し、標準労務費を著しく下回った見積もり・契約を禁じた。

     この対象は施主・元請企業間だけでなく、元請企業・下請企業間も適用される。仮に1次下請企業が2次下請企業との契約で標準労務費を著しく下回った額で契約した場合、1次下請企業も勧告の対象となる。このため、1次下請企業も元請企業と同様にしっかりとした価格交渉が今後重要になる。もちろん、いわゆる「ピンハネ」のような行為は絶対に許されない。

     新しい設計労務単価を現場の第一線で働く建設技能者に本当に行き渡らせることができるのか、建設業界の商習慣の変革も含め、今年度は正念場の1年となりそうだ。

    坂川 博志 氏
    執筆者
    日刊建設工業新聞社
    専務取締役事業本部長
    坂川 博志 

    1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月常務取締役事業本部長を経て、2025年4月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。
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