日本型枠工事業協会が東京地区の型枠標準単価を提示/歩掛かりなど手の内を見せた理由は?

日本型枠工事業協会が東京地区の型枠標準単価を提示/歩掛かりなど手の内を見せた理由は?

 日本型枠工事業協会(日本型枠、三野輪賢二会長)が1月初めに公表した東京地区を対象にした型枠工の標準単価(材工一式)が波紋を呼んでいる。仮定の施設規模や施工条件などの標準見積書の数字だけでなく、基礎型枠や地上型枠、各作業の歩掛かりなど、労務費の詳細を明示しているためだ。元請企業がこの数字を見れば、交渉材料に使用されることも予想される。歩掛かりやその単価など自分たちの手の内をさらけ出してでも、こうした数字を出してきた背景はどこにあるのか。

歩掛かりや人工、人件費、材料費などの詳細を公表

 日本型枠が公表した型枠工の標準単価は、国土交通省が昨年6月に公表した建設キャリアアップシステム(CCUS)のレベル別年収を基に労務費を算出し、試算したものだ(表1)。具体的には4つのレベルのうち、各レベルで中程度の年収を得るために必要な額を事前に計算し、見積書を作成している。対象施設はマンションや公営住宅(RC造在来工法)、同(RC造内床PC工法)、公立中学校、病院、S造事務所ビル、工場基礎・立ち上がり、庁舎の8施設別に平均値(東京地区)を示した(表2)。

表1 建設キャリアアップシステム(CCUS)のレベル別年収(型枠)
工種 レベル1 レベル2 レベル3 レベル4
型枠 下位~中位~上位 下位~中位~上位 下位~中位~上位 下位~中位~上位
3,740,000~5,010,000~6,290,000円 4,360,000~5,770,000~7,170,000円 4,840,000~6,460,000~8,080,000円 5,520,000~7,080,000~8,630,000円
*標準単価は各レベルの中位(太字)の年収を得るための1日当たりの労務費から算出
表2 仮定の規模・条件に基づく型枠工の平均標準単価
平均値標準単価(円)
種別 施工費(1㎡) 法定福利費 合計額 備考
マンション 6,728 557 7,285 RC造在来工法
公営住宅 6,572 582 7,154 RC造在来工法
公営住宅 7,840 723 8,563 RC造内床PC工法
公立中学校 8,503 710 9,213 RC造在来工法
病院 8,878 766 9,644 RC造在来工法
事務所ビル 12,594 1,075 13,669 S造
工場基礎・
立ち上がり
7,502 610 8,112 S造
庁舎 8,678 731 9,409 RC造在来工法

 各施設はそれぞれ詳細な条件を設定。例えば庁舎工事では▽セットバックなし▽地上4階▽基礎は総ピット▽階高3600mm(スラブ底から床面有効高さ3400mm)▽基準階2階▽クレーン1基(全範囲)などの架空の条件を設定し、労務費や材料費、型枠運搬費、一般管理費といった施工費と法定福利費を合算して算出している。さらに、労務費の内訳として、基礎型枠や地上型枠、人通口、耐震スリットなどの数量、歩掛かり、人工、人件費などの詳細な数字も明記している。

適正賃金には現行単価から3~4割アップが必要

 CCUSの各レベルの取得時期と賃金は、これまで日本型枠が行ってきた雇用実態調査結果などから各レベルの年齢層を推測。レベル2が21歳、レベル3が33歳、レベル4が41歳で取得できると想定し、製造業(従業員100人未満)の高卒者生涯賃金を65歳で上回るような生涯モデル賃金カーブを作成。その上で年間就労日数を239日として1日当たりの賃金額を算出している。

 一般管理費(経費率)は26%で、年次有給休暇付与のための経費率(5%)も設けた。1班は10人とし、作業実態などを踏まえ、その中にCCUSの各レベルの職人が配置されているという前提で試算。型枠工事は実際に型枠を組む型枠工と、コンクリート打設後に型枠を解体する型枠解体工がいるため、両者の賃金、歩掛かりをそれぞれ提示。躯体種別で異なる歩掛かり・型枠材の準備率などは、日本型枠のワーキンググループ参加企業ら7社が提示した平均値としている。

 その試算によると、レベル別年収の中程度の収入を得るためには、現行単価から3~4割のアップが必要になるという。

数字は担い手確保のための目安、値上げ要望しない

 日本型枠の三野輪会長は型枠工の標準単価の公表について「材工一式の複合単価で元請側と契約する際、CCUSのレベル別年収モデルを単価に溶け込ませるのは難しい。(今回の標準単価は)仮定の建物と仮定の施工グループで算出した仮定の単価ではあるが、国が示した年収を実現する上での目安として、発注者や元請側の理解を促したい」との考えを示した。

 日本型枠では今回の標準単価をもとに、元請団体や発注機関に対し、単価の値上げ要求はしないという。団体組織で値上げの動きをすると、独占禁止違法に抵触する可能性もあるため、今回の数字はあくまで発注者や元請企業に理解を求めるためだと強調する。

 その背景には、型枠工の担い手が不足していることがある。日本型枠が昨年8月に公表した「2022年度型枠大工雇用実態調査」によると、調査対象の型枠工事会社131社の就労工数が前年調査時(130社)の8132人から35・4%減の5254人と大きく落ち込んでいる。

 1社当たりの平均就労工数も2017、2018年調査時の49・6人程度から40・1人と激減し、2010年の調査開始以降で過去最低を更新。調査企業数が前年からほぼ変わらない中、離職者の増加や新規入職者の減少に歯止めがかからない状況が続いている。

 中でも次の世代を担う若年齢層(29歳以下)の就労工数は852人で、その占有率は16%しかない。平均年齢は49歳程度と年々上昇傾向が進んでいる。その一方で、人材不足を補うため、外国人材が急増。1社当たりの外国人の平均就労工数は2・6人で、20歳から34歳までの全就労者に占める外国人の割合は約26%に上っている。

 三野輪会長は「現場打ちのコンクリート需要は縮小しても市場自体がなくなることはなく、技能者を確保・育成する上で、入職者を呼び込むための処遇改善は不可欠」という。今回の標準単価で型枠工の実情を知ってもらい、処遇改善につながればという思いがあるようだ。

賃金支払いへのコミットメントで行政指導もあり?

 それともう一つは、中央建設業審議会(中建審)が昨年9月にまとめた「持続可能な建設業を構築するための中間取りまとめ」を踏まえ、国土交通省が法制度の見直しを検討していることだ。中間まとめでは▽請負契約の透明化による適切なリスク分担▽適切な労務費などの確保や賃金行き渡りの担保▽魅力ある就労環境を実現する働き方改革と生産性向上-の三つの施策が打ち出された。

 このうち、適切な労務費などの確保や賃金行き渡りの担保では①中建審による標準労務費の勧告、②受注者における不当に低い請負代金の禁止、③適切な水準の賃金などの支払い確保のための措置――の3つの具体的な施策が挙げられ、法制度化の検討が進んでいる。

 ①は適正な工事実施のために計上されるべき標準的な労務費を中建審が作成し、労務費の相場感をつくるという。すでに技能者の労務費に関しては、公共工事の積算時に活用する公共工事設計労務単価(毎年更新)と、前述した建設キャリアアップシステム(CCUS)のレベル別年収がある。

 これ以外に中建審がどういう単価を示すのか不明だが、②の受注者における不当に低い請負代金の禁止で、中建審が作成する標準労務費が不当廉売規制の参考指標になると言われている。このため、極端に高い金額が設定されるとは思えないが、この標準労務費の設定次第では、1次下請企業に与える影響は大きい。

 さらに、③の適切な水準の賃金などの支払い確保のための措置では、建設事業者に対し、法令で技能者の適切な処遇確保を求める努力義務規定を明記するとともに、標準契約約款に賃金支払いへのコミットメント(表明保証)や賃金開示への合意に関する条項を追加すると言われている。

 元請企業へ提示する見積書に1次下請業者が労務費を明記し、その通りの賃金を技能者に払うという表明させることで、着実に賃金を行き渡らすという考えだ。1次下請企業らが賃金支払いへのコミットメント(表明保証)をして、もし約束した賃金が払えなければ、何らかの行政指導が行われる可能性もある。

コスト構造を「見える化」し、賃金を行き渡らす

 これらの措置はまだ検討中で、法制度の見直しの詳細が見えている訳ではない。ただ、国土交通省が設置した有識者会議では、公共工事設計労務単価が11年連続して上昇(全職種平均で65・5%アップ)しているにもかかわらず、職人にその賃金が行き渡っていないということが再三議論されてきており、何らかの厳しい措置が打ち出されることは間違いない。

 国土交通省は1月26日に招集された通常国会に、中建審が示した各施策を反映させた建設業法や入札契約適正化法(入契法)などの改正法案を提出する方針だ。自民党の「公共工事品質確保に関する議員連盟」(品確議連)も公共工事品質確保法(公共工事品確法)の見直し議論を進めており、2019年の「担い手3法」と同じく、3法のセットにして改正法案を提出する可能性もある。

 今回の日本型枠の標準単価の公表は、材工一式で労務費が見えづらい型枠工の内情をオープンにすることで、「これだけ支払ってもらわないと、処遇改善が進まず、本当に担い手がいなくなる」という警鐘とも言える。また、1次下請企業が「元請企業からもらった原資はきちんと払う」という宣言とも受け取れる。コスト構造を「見える化」し、適正な元下契約を求めていく専門工事業界の動きが今後、加速していくかもしれない。

坂川 博志 氏
 執筆者 
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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