国土交通省が発表した2021年度末(2022年3月末)時点の建設業許可業者数は47万5293業者で、前年度末に比べて0・3%、1341業者の増加となった。ピークだった1999年度末(60万0980業者)以降、4年連続の増加は初めて。数年前まで許可業者数は許可の有効期限の延長などの影響を受け、増減を繰り返していたが、4年連続増加は業者数の減少が底を打ったと言える。許可業者数の推移から見えてきたものを整理してみた。
許可業者数の減少に歯止め、建設投資の増加が後押し
2021年度の新規許可取得業者数は1万8806業者(前年度比5・4%減、1064業者減)。許可失効は1万7465業者(5・0%減、926業者減)で、内訳は廃業を届け出たのが8043業者(3・3%、273業者減)、更新手続きを行わなかったのが9422業者(6・5%、653業者減)だった。新規取得業者数は前年度を下回ったものの、許可失効業者数の減少も大きかったことから、総数では1341業者ほど前年同月に比べ増加した。
1994年に許可の有効期限が3年から5年に延長されてから、更新期を迎える業者の多寡に比例し許可業者数は「2年増加」と「3年減少」を繰り返してきた。通常であれば2020、2021年度は減少する年度に当たっていたが、この周期性を覆す結果となった。なぜ、増加に転じたのか、様々な理由が考えられるが、その一つが建設投資の増加だろう。
国土交通省が昨年10月に発表した建設投資見通しによると、2010年度を底に回復基調が続いている。2010年度は約42兆円まで落ち込んだが、2011年の東日本大震災を契機に、復興需要や国土強靱化施策などが牽引役となり、2015年度には約57兆円に急拡大。その後の都市部の大型再開発事業なども追い風となり、ここ数年は62~63兆円で推移している。2021年度の建設投資も前年度を2・9%上回る62兆6500億円程度になると予想している。こうした建設市場の拡大が許可業者数の増加につながったのは間違いない。
大臣許可や特定許可が増加、営業エリアを拡大か
許可業者数の中身をもう少し詳しく見てみる。複数の都道府県にまたがって営業活動を行う大臣許可は1万0373業者(1・0%増、106業者増)、一つの都道府県内で営業を行う知事許可は46万4920業者(0・3%増、1235業者増)。下請への請負額の多寡で分かれる一般・特定許可別では、一般許可が45万0901業者(0・2%増、825業者増)、特定許可は4万7823業者(1・6%増、768業者増)だった。この数値だけで軽々にものは言えないが、大臣許可や特定許可が増えているのは、経営が安定した建設会社が将来に向けて、営業エリアの拡大や大規模工事への挑戦などを進めているのかもしれない。
複数業種許可企業が微増、総合化や多能工化の動き
29の業種区分の許可総数は167万3673業者で、前年度末に比べ2・0%増加した。複数業種の許可を受けた事業者の割合は53・3%となり、前年度末に比べ0・4ポイント増加した。取得業者数が増加したのは前年度と同じ25業種となった。
増加は「とび・土工」の2617業者(前年度比1・5%増)が最も多く、次いで「鋼構造物」の2496業者(同3・0%増)、「石工事」の2432業者(同3・4%増)が続いた。一方、減少は「建築」の1717業者(同1・2%減)が最も多く、「造園」の220業者(0・9%減)、「さく井」の40業者(1・7%減)、「清掃施設」の16業者(3・8%減)の4業種で、前年調査でも同様に減少していた。
1業種のみの許可を受けている業者は22万1913業者(全体の46・7%、前年同月比1294業者の減少)で、複数業種の許可を受けている業者は25万3380業者(全体の53・3%、同2635業者の増加)であった。複数業種の許可を受けている業者の割合は、前年同月比0・4ポイント増加。建設業許可業者数が最も多かった2000年3月末時点と比較すると、1業種のみの許可を受けている業者の割合は全体の56・5%で、9・8ポイント減少した。複数業種の許可を受けている業者の割合は全体の43・5%で、9・8ポイント増加した。
業種別のデータを見る限り、複数業種の許可取得が進んでおり、総合工事業や多能工などの動きが少しずつ広がっているのが分かる。
一人親方は減少傾向、事業継承認可は1127件
許可業者数を資本金階層に見ると、中小企業者(個人と資本金3億円未満の法人)の数が47万2839業者で許可業者全体の99・5%を占める。うち「個人」は7万0920業者(前年度比3・5%減、2554業者減)と年々減少しており、構成比も過去最低を更新し14・9%となった。「個人」である一人親方は高齢化が進んでおり、今後さらに減少していく可能性が高い。
許可業者数を都道府県別に見ると、東京都が4万3535業者(全体の9・2%)、大阪府が4万0042業者(8・4%)、神奈川県が2万8576業者(6・0%)、愛知県が2万7155業者(5・7%)と、当然のことながら一定の事業量のある都市部が多い。前年度に比べ、東京の許可業者数はほぼ横ばいとなったが、大阪府や神奈川県、愛知県、滋賀県、長崎県などは1%以上の増加となった。東北や北陸、四国では減少の県が目立った。ピーク時との比較では、宮城県を除いた全ての都道府県で減少し、秋田県、宮崎県、群馬県で減少率が高くなっていた。許可業者数の増減は事業量の多寡での影響が大きそうだ。
2020年10月に建設業許可に関する事業承継及び相続に関する制度が新設された。改正前の建設業法では、建設業者が事業譲渡・合併・分割を行う際、これまでの建設業許可を廃業するとともに、新たに建設業許可を新規申請する必要があった。このため、廃業日から新たな許可日まで営業ができない空白期間が生じていた。新制度はこの空白期間を解消した。
この事業継承制度の認可件数は、2020年10月の継承制度施行からの半年間で203件、2021年度は1127件となり、同制度を活用する企業が増えている。ただ、制度上の改善策は進んだものの、後継者不足が解消された訳ではなく、さらに一歩踏み込んだ後継者対策が今後必要になってくことは間違いない。
執筆者
日刊建設工業新聞社
常務取締役編集兼メディア出版担当
坂川 博志 氏
1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。