1.はじめに
我が国の建設業界における雇用情勢は依然として厳しい状況が続いております。近年は大震災からの復興需要、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催等により、建設投資が増加傾向にあります。しかし、労働者は他産業に比べ高齢化が進んでおり、今後は高年齢層の労働者が大量に離職するとともに、若年者等の入職が進まなければ、将来的に技能労働者が不足する事が懸念されております。
日本建設業連合会は、2025年までに技能者が128万人ほど減少すると予測をしております。特に大工や左官などの伝統的職種の減少は必至で高齢者や女性、外国人労働者の活躍に期待をするとしても入職促進の更なる展開と労働環境の向上や制度(受け入れ態勢)の整備が必要となります。また、日本の建設業においては、重層的下請構造等の特徴が存在するほか、近年の競争激化に伴うダンピング受注やその就業形態への影響等が指摘されております。これらの対応に万全を期す必要もあるなど、課題は多岐に渡ります。
本コラムでは、現状の建設雇用の動向及び改善すべき事項に関してご説明致します。
2.建設雇用等の動向及び課題(2017年度)
(1) 建設経済の動向
国土交通省の、「平成29年度建設投資見通し」によると、2017年の建設投資の見通しは54兆9600億円(前年比104.7%)に伸びる見通しであり、ここ当面は建設業各社の旺盛な人材需要が続きと思われます。先行指標である新規求人倍率も9.06(前年8.09)と高水準であることも踏まえると、ここ当面は建設技術者の人材不足は更に深刻化すると考えられます。
(2) 建設労働者の動向
建設業の就業者数は、平成9年の685万人をピークとして減少傾向が続いており、リーマン・ショック時の平成20年には537万人(前年比約15万人減)、平成22年には498万人(前年比約19万人減)まで減少しました。平成23年は東日本大震災などの影響で502万人と微増しましたが、平成9年と比較して約27%減少しており、雇用者数も同様の傾向となっています。
(3) 建設技能労働者の需給動向
建設技能労働者の過不足状況については、平成23年度後半以降は不足する企業が続出しております。有効求人倍率を見ても、平成27年度では建設躯体工事の職業の7.00倍をはじめ、建築土木測量技術者が3.75倍、建設躯体以外の建設業の職業が2.88倍となるなど、全体の1.20倍と比較すると、人材不足の状況となっております。
建設技能労働者については、高齢化が進む一方、若年労働者が減少していることから、今後、益々不足することが懸念されています。
(4) 労働条件の動向
①建設業における1人当たりの年間総実労働時間(規模5人以上の事業所)は平成27年には2,058時間であり、全産業の1,734時間と比較してもかなり長い傾向にあります。
②建設業において完全週休2日制を導入している企業の割合(規模30人以上の企業)は、平成27年では40.0%と、平成21年の28.9%と比較すると普及は進んでいるものの、全産業の50.7%と比べると普及が遅れています。
③建設業における賃金水準については、生産労働者の年間の給与額(企業規模10人以上の事業所)を試算すると、平成27年で433万円であり、平成16年の401万円からほぼ横ばいとなっていましたが、平成25年以降は上昇傾向になっています。
3.雇用の改善等を図るための施策
(1) 若年者等の建設業への入職・定着促進による技能労働者の確保育成
①若年労働者の確保・育成
- 建設業の魅力の発信、その関心の喚起のための取組
- ハローワークによるマッチング支援
②女性労働者の活躍の促進
- 仕事と家庭の両立や女性のキャリアアップ促進のための就業環境の整備
- 男女別トイレの設置等職場環境の整備のための支援
③高年齢労働者の活躍の促進
- 技術を若年労働者へ伝授する講習機会等の提供(技術者引退後の労働環境の提供)
(2) 魅力ある労働環境に向けた基盤整備
①建設雇用改善の基礎的事項の達成へ向けた取組
- 雇用関係の明確化に向けた取組
- 長時間労働の改善のための労使の自主的な取組への重点的な指導
- 完全週休2日制の普及に向けた段階的な取組としての4週8休制の導入等の促進
- 労働保険及び社会保険の一層の適用促進
②先進国にあって日本にない制度の導入
- 建設技能者の証:技能者のID
- 能力評価の基準
- 能力に応じた地位、処遇
- 教育訓練の知識ベース・マニュアル
- 入職時のみならず継続的な教育・訓練
- 近代徒弟制度
- 制度確立・運用のための基金の設立
4.まとめ
本レポートでは建設業界の雇用の動向・改善について取り上げました。建設業界として技術者の雇用を推進する事は当然でありますが、建設業が受注産業である特性に鑑みれば、全ての労働者を雇用することには限界があります。ましてや請負やその他の形態で働く人を排除することはできません。現状の改善点をグレーゾーン化する事なく労働者に対して適正に遇すること、そのための制度を整えることが、建設業界が持続可能であるための重要なテーマであると考えます。
我が国は超高齢社会となり、労働者の高齢化は更に進んでおります。また若年者は減少傾向であるため、賃金の底上げや現場の安全管理、労働環境の整備を急速に行わなければ、建設業界の人材不足倒産を減少させることは不可能であります。今回のレポートが貴社の人材確保戦略において参考となれば幸いでございます。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。