1.はじめに
帝国データバンクが公表した建設業動向調査で、2021年の倒産件数は過去最少水準であったことが発表されました。
新型コロナウィルスの収束が不透明な中、倒産件数が少ないというのは意外にも感じますが、倒産件数が減少傾向であることは必ずしも建設業界の見通しが明るいということを意味しません。
今回は建設業の倒産を糸口に、建設業の課題といわれている諸問題の現状をみていきたいと思います。
2.2021年の統計~全産業~
建設業の数値を見ていく前に全産業の状況をご紹介します。
東京商工リサーチが公表したデータによれば、2021年度の全国企業倒産件数は6,030件となりました。2年連続で前年度を下回り、高度経済成長期以後では最低水準でした。また、倒産した企業が抱えている負債総額は7,053億5,600万円で、4年連続で前年を下回りました。最も大規模だった倒産案件は負債総額1,004億8,300万円で特別清算開始の決定を受けた(株)東京商事で、次いで電力小売の(株)F-Powerや蓄電池販売のD-LIGHT(株)などエネルギー関係の企業が続いています。
また、新型コロナウィルス関連倒産は1,718件と公表されています。
3.2021年の統計~建設業~
帝国データバンクは、2021 年に発生した建設業者の倒産の集計・分析を発表しています。それによれば2021年の建設業の倒産件数は1,066件と前年比15.8%減となっています。2000年以降、2009年と2019年を除いた全ての年で前年度を下回っており、減少トレンドが続いています。業種細分類でみると以下のように建築工事関係の業種が上位を占めています。コロナ禍における新設住宅着工件数の減少や建築資材の高騰などが影響しやすい業種が厳しい状況であった点は2020年と大きな同様です。
負債総額についても3年連続小規模化し、1,066億8600万円でした。負債規模の大きさでいうと、相沢建設㈱(富山県)の34億3,300億や㈱九設(大分県)の30億6,400万円といったものがありましたが、全体としては約6割が負債額5,000万円未満となっています。
帝国データバンクと集計方法が若干異なりますが東京商工リサーチのデータによると、建設業における新型コロナウィルス関連倒産は198件となっており、2020年の68件と合わせて累計266件となりました。
4.建設業界の新型コロナウィルス関連倒産の傾向
産業界全体にしても、建設業界にしても倒産件数が減少していることと倒産企業の負債規模が縮小していることは同様です。
但し、新型コロナウィルス関連倒産について、他業界比較で建設業界を見ると厳しい状況となっています。全産業の新型コロナウィルス関連倒産1,718件は前年度の843件に比して約2倍ですが、建設業における2021年の新型コロナウィルス関連倒産件数は198件と前年度(68件)の約3倍と増加スピードが増しています。その結果、2020年4月に初めて発生した建設業の新型コロナウィルス関連倒産は2022年3月初旬時点で累計318件となりました。業種別の内訳は以下のようになっています。
(出典:東京商工リサーチHP)
前項でご紹介した2021年の結果と同様、建築関係が軒並み件数を増加させているのは、新設住宅着工件数の減少と“ウッドショック”や“アイアンショック”といった価格高騰が重なったことが背景にあります。そして、住宅建築を中心に取り扱う建築、リフォーム、内装業者は小規模事業者が多く、元々財務基盤が脆弱であったことが、建設業のコロナ倒産が増加した大きな要因です。日本政策金融公庫が公表している業種別の融資残高の推移をみると、増加率でいえばサービス業に続いて建設業は2番目です。
(単位:億円、%)
平成28年度末 | 平成29年度末 | 平成30年度末 | 令和元年度末 | 令和2年度末 | |
---|---|---|---|---|---|
製造業 | 26,752 (47.1) |
25,881 (46.9) |
24,871 (46.7) |
23,874 (45.8) |
32,201 (39.2) |
建設業 | 2,602 (4.6) |
2,559 (4.6) |
2,521 (4.7) |
2,494 (4.8) |
5,164 (6.3) |
物品販売業 | 9,201 (16.2) |
8,955 (16.2) |
8,343 (15.7) |
7,871 (15.1) |
14,137 (17.2) |
運輸・情報通信楽 | 5,389 (9.5) |
5,356 (9.7) |
5,382 (10.1) |
5,499 (10.6) |
8,506 (10.4) |
サービス業 | 6,010 (10.6) |
5,818 (10.6) |
5,842 (11.0) |
6,125 (11.8) |
14,889 (18.1) |
その他 | 6,887 (12.1) |
6,562 (11.9) |
6,302 (11.8) |
6,211 (11.9) |
7,281 (8.9) |
合計 | 56,844 (100.0) |
55,133 (100.0) |
53,264 (100.0) |
52,079 (100.0) |
82,180 (100.0) |
- 融資残高には、社債を含みます。総貸付残高から設備貸与機関貸付及び投資育成会社貸付を除いたものの内訳です。
- ( )内は構成比です。
(出典:日本政策金融公庫HP)
コロナ支援策として実行された多額の融資も、減収トレンドが続いている状況下で返済が開始され、過剰債務におちいった企業が徐々に倒産の危機に晒されていくことになりそうです。
減収については今後も建材価格の高騰の影響が続くと言われています。本来は仕入価格が上昇した分販売価格に反映されることが自然ですが、建材会社と施主との間で建設会社にしわ寄せが集中している形です。この背景について、次項にて建設業の実態をみていきたいと思います。
5.価格転嫁の状況
帝国データバンクは仕入単価が上昇した企業の割合を調査しています。2021年12月時点の統計では産業全体で64.2%となり、リーマンショックがあった2008年(65.5%)以来の高水準となっています。建設業に限定すると仕入単価が上昇したと回答した企業の割合は(72.7%)と51業種中14番目でした。
建設業は他業種と比較しても高い割合で仕入単価が上昇しているという結果になりましたが、建設業でその上昇分を販売単価に反映した企業の割合は31.1%という結果となり、価格転嫁が適切に行われているとはいえません。また木材の主要輸入相手国の一つがロシアであることも今後の懸念材料となっています。ウクライナ情勢不安が続く中、さらなる“ウッドショック”により価格高騰が当面の間継続することは間違いなさそうです。
順位 | 51業種 | 仕入単価が上昇した 割合(%) |
仕入単価が上昇した企業で、販売単価が上昇した割合(%) |
---|---|---|---|
1 | 鉄鋼・非鉄・鉱業製品卸売 | 92.7 | 87.2 |
2 | 鉄鋼・非鉄・鉱業 | 88.7 | 56.3 |
3 | 化学品製造 | 83.3 | 51.1 |
4 | 飲食店 | 83.1 | 28.6 |
5 | 機械製造 | 82.0 | 34.8 |
6 | 電気機械製造 | 81.4 | 31.0 |
7 | 飲食料品・飼料製造 | 80.5 | 31.8 |
8 | 建材・家具、窯業・土石製品製造 | 80.3 | 52.7 |
9 | 再生資源卸売 | 80.0 | 83.3 |
10 | 精密機械、医療機械・器具製造 | 79.5 | 32.3 |
11 | 繊維・繊維製品・服飾品製造 | 77.3 | 35.3 |
12 | 建材・家具、窯業・土石製品卸売 | 77.0 | 66.9 |
13 | 輸送用機械・器具製造 | 74.3 | 32.1 |
14 | 建設 | 72.7 | 31.1 |
15 | 化学品卸売業 | 71.6 | 67.2 |
16 | 繊維・繊維製品・服飾品卸売 | 69.4 | 32.5 |
17 | 飲食料品卸売 | 65.2 | 62.6 |
18 | 専門商品小売 | 64.8 | 85.4 |
19 | 機械・器具卸売 | 64.4 | 55.5 |
20 | 農・林・水産 | 63.1 | 29.3 |
21 | 運輸・倉庫 | 60.0 | 19.2 |
22 | 飲食料品小売 | 59.7 | 40.5 |
23 | パルプ・紙・紙加工品製造 | 58.5 | 10.9 |
24 | 出版・印刷 | 57.5 | 17.7 |
25 | 各種商品小売 | 56.8 | 52.0 |
注:販売単価が上昇した企業は、仕入単価が上昇した企業のうち、前年同月と比べて販売単価が「やや上昇」「非常に上昇」した企業の合計
出所:TOB景気動向調査(2021年12月)
6.建設業の人手不足問題
建設業においては人手を確保することができずに倒産に追い込まれるといったケースも増加の一途をたどっています。
労働基準法の改正や36協定の締結など、どの業種においても労働環境の改善は進んできています。建設業界ではこうした法整備だけでなく建設キャリアアップシステムなど、新たな制度により労働環境・処遇の改善に向けた取り組みが続けられています。しかし未だその効果がでているとは言い難く、就業者数は減少する一方です。
(出典:日建連ハンドブック2021)
また、人手不足を補うため外国人労働者の雇用が年々増加していましたが、コロナ禍により外国人の雇用が困難な状況となりました。新型コロナウィルス感染症が収束していけば外国人雇用も再び増加すると考えられますが、変異株の流行が続く中、それがいつになるのか不透明な状況です。
(参考:厚生労働省 外国人雇用状況の届出状況について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin-koyou/06.html)
7.おわりに
今回は建設業の倒産状況とその背景にある諸問題の実態についてみてきました。倒産件数は最低水準であることから、政府の支援策は一定の効果があったと評価できるでしょう。しかし、人手不足のように以前から懸念されつつ目立った改善が見られない問題に、コロナ禍という突発的な事情が重なったことで、政府の支援策でぎりぎり耐え忍んでいた企業の倒産が今後は徐々に増加するとみられます。融資のような対処療法だけでなく、根本治療も並行して実行されることが急務といえる状況です。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
建設業の最新動向2023
~倒産数増加をどう食い止めるか~