就職戦線始まる
大学生向けの就職戦線は、3月1日からの会社説明会でスタートします。学生は志望する業種の企業や団体が主催する説明会に参加し、会社の概要や仕事の内容などを学びます。その後、6月1日から面接や選考が始まります。この時点ですでに「内定」を取得する学生も出てきます。あとは単位を落とさずに、無事に卒業できれば、4月からは「社会人」としてスタートすることができます。
もっとも、この就職活動の「解禁日」は、もともと日本経済団体連合会(経団連)が会員企業を対象に決めていたもので、当然のことながら「解禁破り」といったことが行われていました。解禁日が年々早まり、あまりに早くなりすぎたために「学生の勉学に支障が出る」との声が上がり、今は政府主導という形になりました。>
思い起こせば、我々が学生の時は「解禁日」が4年生の10月でした。面接用のスーツ(いわゆるリクルートスーツ)がいつ脱げるか、逆に、いつまで着続けなければならないのか、次々に「脱リクルートスーツ」する友人たちを見るたびに思ったものです。
せっかく入ったのに
厚生労働省が2021年10月に発表した「2020年度における新規学卒就職者離職状況」によると、就職後3年以内の離職率は中学卒が55・0%(対前年比4・8ポイント減)、高校卒が36・9%(2・6ポイント減)、短大など卒が41・4%(1・6ポイント減)、大学卒が31・2%(1・6ポイント減)と減少していますが、それでも中卒では半数以上、高卒で約4割、短大・大卒で約3割が離職していることになります。これを「多い」と見るか、「少ない」と見るか微妙な数字ですが、以前のように「一度勤めたら定年まで勤め上げる」という風潮がなくなり、より良い条件の企業、本当に自分に合った仕事に移るという考え方が浸透してきたということだという解釈もできるでしょう。
「こんなはずではなかった」という思いがあるにもかかわらず「せっかくの縁だから、最後まで」という昔風の考え方は、もはや化石でしかないのでしょう。中卒の離職率が半数以上なのは、親や教師の勧めるままに就職したため、意に沿わないということが要因だと推測されます。
建設業の離職率
新規学卒者の離職率が最も高いのは、高卒、大卒とも「宿泊業・飲食サービス業」で、高卒が61・1%、大卒が51・5%となっています。半分以上が就職3年以内に離職しています。以下、高卒、大卒とも「生活関連サービス業・娯楽業」、「教育・学習支援業」と続き、高卒では次に「小売業」、「医療、福祉」、大卒ではこれが逆転します。この5業種が「ビッグファイブ」です(業種は厚生労働省の分類による)。
それでは「建設業」はどうでしょうか。
大卒の離職率は28・0%で前年より1・5ポイント減少しています。一方、高卒は42・7%で3・1ポイント減となっています。
大卒で建設業より高い離職率なのは「不動産業、物品賃貸業」、「学術研究、専門・技術サービス業」、「調査産業」「サービス業(他に分類されないもの)」に次ぐ第9位ですが、高校生では「不動産業、物品賃貸業」に次ぐ第7位となっています。高卒の離職率全体より高い数値です。昔から建設業は「給料が安い」「休日が少ない」「危険」という「3K」職場と言われてきました。この中では「休日」と「給料」が重要視されていると言われています。
高校生の就活
最初に大学生の就職活動について触れました。それでは高校生はどうなのでしょうか。
民法改正によって、在学中に「成人」となる高校生ですが、やはり就職に関しては親や教師が大きく関わっているといってもいいでしょう。親、特に母親の存在は大きいものがあります。子どもを手放したくない母親にとって、地元にある大きな企業に勤めさせることが一番の「安心・安全策」ではないでしょうか。もしかすると、仕事の内容は二の次かもしれません。インターンシップも経験しますが、その期間は短いものです。したがって、うわべだけなぞって、「本当の」仕事内容は分からないまま就職するということも考えられます。
ところで、高校生への求人票の開示解禁は7月1日となっています。その後、会社選び、親との面談、インターンシップなどがあって、9月の入社試験と続きます。2カ月の間に就職希望の生徒と、これだけのやりとりをするのですから、進路指導の教師は大変です。「せめて、求人票の開示が1カ月早ければ」という現場の声があるのも当然でしょう。一方で、某工業高校で聞いた話では、就職活動がほぼ終わった段階で「生徒がほしい」と言ってくる企業もあるそうで、それはそれで困った問題だと、その教師は言っていました。
人を採り、離職させないためには
夢と希望を持って就職したのに、この先、自分はどうなっていくのか。そうした不安は多かれ少なかれ、ある時、誰しも抱くものです。企業側としても、せっかく手間暇かけて採用した人材ですから、有力な戦力に育ってほしいと考えるのは当たり前です。
では、どういう人材に育ってほしいのか。採用した企業側は、自分たちが期待する人材に育ってもらうための説明をし、そのためのプロセスを示す必要があります。勤務何年でこういう仕事をしてもらい、給料はいくらくらいになるといったステップアップの順番を明示することが必要なのではないでしょうか。そうした明確な目標が示されれば、それに向かって努力するのではないかと思われます。人材を「人財」に変えるためには不可欠なテクニックであり、社員のことをしっかり考えている企業だと、送り出し側(親や学校)にも訴えることができます。目標を持たせることで、離職率も下がるのではないでしょうか。
顧問
服部 清二 氏
中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。