
2025年も残りわずか2カ月。われわれ新聞業界の人間にとっては、「そろそろ新年特集号の取材に本格的に取り掛からなければ」という焦りを感じ始める時期である。よくいわれることだが、年を取るにつれ、1年がどんどん短くなっているような気がする。しかし、地球の公転が加速している事実はないようだ。相対的な時間の長さの変化が原因という説が有力らしい。例えば、10歳の子どもにとっての1年は人生の10分の1に当たるが、50歳の人の1年は50分の1に過ぎない。分母が大きくなるほど、1年の割合が小さくなり、その分、短く感じられるというのだ。加齢に伴う体内時計の変化説もあるようだが、いずれにしても筆者にとっての1年は今後も加速して短くなっていきそうだ。
大型M&A相次ぐ
前置きが長くなってしまったが、加速しているものと言えば建設企業のM&A(企業の合併・買収)やアライアンスもその一つではないだろうか。特に今年は大型のM&A案件が相次いだ。まずは大成建設と東洋建設。大成建設は8月8日、株式公開買い付け(TOB)などにより、建設業界で過去最大規模となる約1600億円で東洋建設の買収に乗り出すことを明らかにした。東洋建設が強みを持つ海上工事やフィリピンでの建設事業、力を注ぐ洋上風力事業を中心にシナジーを見込み、案件の大型化や受注機会の拡大を目指すという。記者会見で大成建設の田中茂義代表取締役会長は「今2兆円の売上高を2兆8000億円にするのではなく、4兆円規模を目指しており、そのためにはビジネスモデルを変えていく必要がある」と述べた。同社は23年末にもピーエス三菱(現ピーエス・コンストラクション)にTOBを実施し、連結子会社化しており、〝攻め〟のM&Aを積極的に展開している。
インフロニア・ホールディングス(HD)も攻めの姿勢だ。同社は5月14日、三井住友建設に対してTOBを実施し、完全子会社化すると発表した。株式取得額は約940億円。統合によりエンジニアリング力の強化や土木、建築でそれぞれの得意分野の補完、アジアを中心とした海外事業の拡大といったシナジーを見込む。9月18日にTOBが成立しており、今後、所要の手続きを経て三井住友建設は年内にもインフロニアグループに参画する予定だ。インフロニアHDの岐部一誠社長は「売上高を目指してやっているわけではない。スーパーゼネコンに追いつくなどは全く考えていない。請負と脱請負の融合という、日本で唯一のモデルを目指している」と力を込める。
同じ攻めのM&Aでも大成建設とインフロニアHDの違いは鮮明だ。
中小企業でも活発化
建設企業のM&Aは、こうした大手・準大手・中堅ゼネコンだけでなく、中小企業でも着実に増えつつある。
「『会社を売りませんか』というダイレクトメールがうんざりするほどM&A仲介会社から届く。うちは全く売るつもりはないが、仲間の中には後継ぎがおらず、借金を抱える前に会社を売ってしまおうと考えている経営者が増えている」と語るのは、ある地方ゼネコンの社長だ。「後継者はいない、担い手(若い社員)は入ってこない、仕事もないという三重苦に陥っている」とも指摘する。
こうした中、〝守り〟のM&Aが近年、急増している。中小企業基盤整備機構がまとめた事業承継・引き継ぎ支援事業の2024年度実績によると、建設業のM&Aの成約件数は前年度比17・0%増の261件で過去最高を更新した。全産業に占める割合は12・2%となっている。
業種別で見ると、サービス・その他(27・3%)、製造業(19・5%)、卸・小売業(18・1%)、宿泊・飲食サービス業(14・6%)の順に多く、建設業は5番目に位置する。
国もM&Aの拡大を後押しする。経済産業省中小企業庁は8月、中小企業によるM&Aを普及・促進するため、「中小M&A市場改革プラン」をまとめた。同プランによると、経営者が60代以上で事業承継の意向が未定の法人企業(全産業)が約26万者存在することから、M&Aの拡大が今後も必要だと指摘。支援機関による事業承継ニーズの掘り起こしの強化や、M&Aアドバイザー個人の知識・スキルを担保・向上するための資格制度創設などを盛り込んでいる。
新たなアライアンスも
一方、今年は新たなアライアンスの動きもあった。東北6県の地域建設企業7社とみずほ銀行は6月30日、共同出資会社「東北アライアンス建設」(福島県郡山市、代表・陰山正弘陰山建設代表取締役)」を設立した。これまでも地域の建設企業が連携しようとするケースはあったが、各社が出資して一つの会社を設立するのは珍しい。各社が持つ経営資源やノウハウ、技術を補完し合い、新たな受注体制の構築、雇用創出・安定、企業間ネットワークによる域内経済の循環促進を目指す。陰山社長は「同じ目的を持ってワークし続ける共創プラットフォームとしてのビジネスモデルをつくり込みたい」と設立の思いを語る。
このほか、今年は東京海上ホールディングスが建設コンサルタント大手の日本工営を傘下に持つID&Eホールディングスを完全子会社にするという異業種M&Aが成立し、耳目を集めた。
冒頭、今年も残り「わずか」2カ月と書いたが、「まだ」2カ月ある。年末までにもっと驚くM&Aやアライアンスがあるかもしれない。
執筆者
取締役執行役員 編集局長
佐藤 俊之 氏
1992年、東北大学農学部卒業。ソフトウエア会社、広告代理店などに勤務。2001年、株式会社日刊建設通信新聞社入社。主に国、地方自治体、地域建設業界などを担当。東日本大震災の発生から復旧・復興の過程を取材。2025年7月より現職。










