登録数100万人達成が見えてきたCCUS 建退共連携や インセンティブ措置で登録が加速するか

登録数100万人達成が見えてきたCCUS 建退共連携や インセンティブ措置で登録が加速するか

 技能労働者の就労履歴などを電子的に管理する建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録者数の100万人達成が見えてきた。早ければ年度内にも突破する見込みだという。2019年4月から本格的な運用が始まり、わずか4年弱で100万人到達は、料金改定などの曲折はあったものの、驚異的なスピードと言えるだろう。CCUSの運営主体である建設業振興基金(振興基金、谷脇暁理事長)がまとめた2021年度収支でも、約6億円の単年度黒字となり、2020年10月の料金改定時に掲げた単年度黒字目標を2年前倒しで達成した。ただ、現場タッチ数を見ると、約8~9割が大手建設会社が加盟する日本建設業連合会の会員企業の現場と言われ、今後さらに拡大していくには、中小・零細建設業者に登録メリットを示し、どう理解を求めていくのかが鍵になりそうだ。

建退共制度に一括作業方式を導入、CCUS登録に弾み

 CCUSの普及の起爆剤なると言われているのが、9月から本格運用された建設業退職金共済制度(建退共)との連携だ。勤労者退職金共済機構(勤退共)建設業退職金共済事業本部(建退共本部、岸川仁和本部長)は、これまで証紙を手帳に貼って管理していた建退共制度の掛け金納付を、CCUSの就業履歴データを活用して電子的にできるようにした。手続きを簡易にするため、新たにシステムを改修し、元請または1次下請主体の「一括作業方式」と呼ぶ新機能も導入した。

 一括作業方式は、元請や1次下請が下位下請で働く技能者の就業履歴データをCCUSから一括し取り込める仕組み。従来、データの取り込みは被共済者の直接雇用主に限定していたが、元請や1次下請でもできるようになったため、中小・零細が多い2次以下の下請の事務作業が解消される。同時に元請が行う下請への工事情報ファイルの受け渡しも省ける。

 一括作業方式を利用する場合、あらかじめ現場単位で元請もしくは1次下請のどちらかがCCUSの就業履歴データを一括し取り込むかを選択する必要がある。当月末までにCCUSに登録すれば翌月から利用できる。

建退共とCCUSの連携で、技能労働者の意識が変わる?

 建退共制度とCCUSが自動連携したことで、技能労働者は現場に設置されているカードリーダーにタッチするだけで毎日退職金が貯まっていくため、より退職金の積み立てを実感できるようになる。元請企業側もまとめて証紙を購入する必要がなく、実際にかかった分だけの掛け金を負担すれば済むので、両者にとってメリットがありそうだ。

 ただ、建退共制度について、公共工事では掛け金相当額が現場管理費の一部として積算に計上されているため、多くの現場で導入されているが、民間工事ではこれまで、ほとんど利用されていないのが実情だ。大手建設会社では民間工事でも掛け金を負担すると表明する企業も複数出てきており、今後、建退共の掛け金が自動的に積み立てられる現場と、そうでない現場が出てくることになる。そうなった時に技能労働者は、どちらの現場で働きたいと思うのか。そこまで考えて、元請は現場の運営をしていかなければならないだろう。

都道府県32団体、政令市11団体がCCUS登録で企業評価

 CCUSを普及させる上で、欠かせないのが地方自治体を含めた発注者側の対応だ。国土交通省が行った、都道府県と政令市を対象にした発注工事でのCCUSのインセンティブ措置実施状況調査によると、CCUSの登録企業などを工事成績評定や総合評価方式による企業評価を導入している都道府県は32団体(ほか3団体が導入予定を表明済み)、政令市は11団体だった。2022年度に入ってからは、京都府、鳥取県、山口県、香川県の4団体が新たに導入しているという。

 CCUSは、技能労働者の就労履歴や取得資格などを正確に把握し、技能や経験に応じた処遇に改善していくのが狙い。結果的には現場の担い手不足に悩む元請企業にも役立つが、直接的なメリットが見えづらいため、中小・零細が多い地方建設会社には負担だけが増え、登録に消極的な経営者も多いと言われる。

 ただ、発注者からしてみると、実際に現場で働く技能労働者が減少し、事業執行に影響が出ることは避けなければならない。このため、技能労働者の処遇改善を進め、少しでも多くの若者が建設業に入職、定着してもらうとことは喫緊の課題になりつつある。

 このため、各発注者はCCUSの企業評価メニューとして▽モデル工事など工事成績評定での加点▽総合評価方式での加点▽入札参加資格での加点▽カードリーダーなどの費用補助などを実施している。

経審でも2023年度からCCUS対応が加点対象に

 国土交通省も各種のCCUS普及策を実施。新たに経営事項審査(経審)の評価項目にCCUSの現場導入状況を追加した。CCUSを全現場で導入する企業は15点、全公共工事で導入する企業は10点を付与することにした。これらは2023年1月1日に施行され、例えば3月決算企業は2023年4月以降に現場導入すれば加点対象になる。

 ある地方建設会社の社長は「外濠がどんどん埋められている感じ。いまだに元請企業が進んでCCUSを登録するメリットを感じないが、入札時のCCUSのインセンティブ措置は無視できない」という。

 さらにこう付け加えた。「(CCUSに)登録するからには自社にメリットがあるように、現場の事務効率や生産性をあげる方法を考えたい」という。CCUSでは、民間企業が提供する各種の現場ソフトとAPI連携し、その中には安全書類や作業スケジュールなどの電子化などのサービスを提供しているものもある。

 CCUSの登録は、無理矢理やらされていると思わず、登録するからには、どうすれば自社のメリットがあるのか、そんな視点で取り組む必要がありそうだ。

坂川 博志 氏
 執筆者 
日刊建設工業新聞社
常務取締役編集兼メディア出版担当
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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