建設業で働く外国人材は年々増え続けている。円安などの影響で日本で働くことを嫌う外国人材が増えているというが、それでも特定の地域・国によっては日本で働きたいという外国人材は少なくない。その背景には日本の治安の良さや、待遇面での改善がある。建設業界も外国人材を単なる賃金の安価な人材と見るのではなく、会社の新たな戦力として教育・研修制度を充実させる企業も増えている。昨年8月末には特定技能の在留資格の職種区分が見直され、従来の19区分から3区分に変更され、ほぼ全ての建設作業に関わる職種をカバーした。これにより、特定技能の外国人の仕事の幅が広がり、多能工化や工種、企業の枠を超えた流動化が進む可能性がある。建設業界でのこれまでの外国人材の動きと、最近の現状を整理してみた。
東京五輪に向けた旺盛な建設需要に対応した外国人材の活用制度
建設技術・技能の移転を目的に始まった外国人技能実習制度は、いまや無くてはならない制度になっている。現場で働く技能者の高齢化や若手入職者の減少で、建設現場は徐々に外国人材に頼らないと回らないという状況が生まれつつある。国土交通省の資料によると、建設分野に携わる外国人数は2011年に1万2830人だったが、2021年には11万0018人に増加。10倍近くまで膨らんでいる(表1)。ここまで急増した背景には、2015年4月から始まった「外国人建設就労者受け入れ事業」と、2019年4月からスタートした改正出入国管理法(入管法)に基づく新在留資格「特定技能外国人」制度がある。
表1 建設分野に携わる外国人数
出典:外国人建設就労者・特定技能外国人は年度末時点。その他は10月末時点の人数
外国人建設就労者受け入れ事業を簡単に説明すると、2020年の東京五輪開催に向け、建設需要が急増することに備え、政府は3年間の技能実習を終了した外国人に「特定活動」として2~3年の在留資格を与え、日本の建設現場に引き続き従事してもらう制度を設けた。2020年までの時限的な措置だったが、東京五輪の1年延期や、新型コロナスィルスのパンデミックなどの影響で、結果的には2022年度まで延長された。
同事業では、外国人技能者を受け入れる企業は、国土交通省の認定を受けた特定監理団体と共同で△受け入れ人数△就労場所△業務内容△報酬予定額など受け入れに必要な事項を明記した適正監理計画を作成。この計画が国土交通省から認められると、建設分野24職種36作業を対象とする「特定活動」として2~3年の在留資格を得るための申請を入国管理局に行える。
この制度の開始と同時に設立されたのが「国際建設技能振興機構(FITS=フィッツ)」。大手ゼネコンらが共同出資して立ち上げたもので、既存の技能実習制度で国際研修協力機構(JITCO)が制度推進事業実施機関として行っていた、特定監理団体や受け入れ企業の巡回指導、外国人材の母国語による電話相談などを国土交通省の委託を受け、実施している。並行して国土交通省は事業の適切な推進に向け、関係省庁や建設業団体、受け入れ企業を指導する特定監理団体、学識経験者で構成する「適正監理推進協議会」を発足。受け入れ企業の倒産・認定取り消しなどで就労の継続が困難になったり、就労者が転職を希望したりするケースでは特定監理団体などを支援している。
特定技能1号は在留期間5年、同2号は無期限、家族帯同も可能
新在留資格「特定技能外国人」制度は、人口が減少局面に入り産業間の人材獲得競争が激化する中、同制度により外国人材の受け入れを拡大し、国内産業の持続的な発展を目指すという政府の肝いりの施策。同制度は、一定の技能を持った外国人を日本の労働力として受け入れる。在留資格は「特定技能1号」と「同2号」の2種類で、1号の在留期間は上限5年。2号は職長レベルの人材を想定し、在留期間は無期限(更新制)で家族も帯同できる。
外国人建設就労者受入事業で外国人材の失踪や不法就労などが指摘されたため、国土交通省は、同制度の適切な運用に向け、建設業の特性を踏まえた独自の受け入れ計画・審査の仕組みを構築。外国人材の入国に先立ち、受け入れ企業による計画の作成、国土交通省の独自審査、法務省による入国審査と3段階の手順を設けた。外国人材の処遇についても同等の技能の日本人と同等以上の報酬を月給で支払うほか、技能習熟に応じた昇給などの徹底を求めた。また、外国人材の建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録なども義務化した。
外国人材の受け入れには▽海外訓練と試験(日本語能力と技能)▽試験のみ(訓練などは受け入れ企業が実施)▽試験なし(技能実習・建設就労からの移行)-の3ケースを想定。特定技能1号の試験は、国土交通省が提携する訓練校の在校生から希望者を募り、現地の短大や専門学校で行う。日本語と日本式施工の訓練をした後に学科・実技の技能試験を行う。ベトナムとフィリピンで2020年2月に実施予定だったが、2020年春から流行した新型コロナウィルスの影響で延期となり、海外での試験は思うように進んでいなかったが、昨年から試験が実施されるようになった。
建設業の外国人材に対し、きめ細かな対応を行うFITSとJAC
この制度の開始に合わせて発足したのが「一般社団法人建設技能人材機構(JAC)」。専門工事業団体と元請団体が参加し、外国人材の適正で円滑な受け入れに関する事業などを実施する。JACは、受け入れ企業への人材紹介や外国人材に対する必要な知識の提供、転職のマッチング、相談・苦情の母国語対応などで、外国人材の受け入れを支援するほか、特定技能外国人の試験・選考、就職支援も担う。試験の実施に向け、ベトナムの訓練校とも業務提携している。
2022年8月末、政府は特定技能の在留資格制度に関する建設分野の運用方針改正を閣議決定した。建設業に関連する全作業をカバーできる緩やかな枠組みとして、新たに▽土木▽建築▽ライフライン・設備-の3区分を設定。これまで技能実習では外国人材の受け入れが認められていた工種が、特定技能では19区分の工種に限定されていたため、円滑な移行ができない工種があったが、これによりほぼ全ての工種で技能実習から特定技能への移行が可能になった(表2)。特定技能の在留資格を得るために必要となる試験も刷新。これまで試験の作成・実施主体だった各専門工事業団体に代わり、3区分ごとに建設技能人材機構(JAC)が試験を行う。試験合格後に職種別の専門技能などを身に付けるため、JACと各団体が連携し訓練・研修を充実させる。この新たな3区分と新試験制度で、多能工のような働き方ができる。例えば躯体工事に携わる際は建築区分の鉄筋、型枠、とびの各工事などに作業範囲が広がった。
表2 建設分野の業務区分の統合
業種区分を3区分にし、外国人材を新戦力として育てることが重要
建設業界はいま、担い手不足の解消に向け、様々な施策を展開している。ただ、産業間の人材獲得競争は激化しており、必要な若手人材を建設業に呼び込むことは現実的にはかなり厳しい。業界を挙げて現場の機械化や省人化などの生産性向上に取り組んでいるが、2024年4月から適用される時間外労働の上限規制の適用などを考えると、今以上に人材が不足することも予想される。そうなれば、頼れるのは外国人材というのは自然の流れだろう。
工種区分が3区分になったことで、外国人材は今後、より待遇の良い工種、企業に流れていく可能性もある。いまこそ、外国人材を新たな戦力として教育し、育てていくこと、日本人と変わらない給与など処遇面の改善を進めていくこと、そうした取り組みをした企業だけが生き残れるのかもしれない。
執筆者
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏
1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。