1.はじめに
新型コロナウィルスが日本で確認されてから約3年が経過しました。2023年1月に帝国データバンクから発表されたデータによれば「新型コロナウィルス関連倒産」は全業種の累計で4,892件となっています。業種別にみると、飲食業が716件と最も多く、建設業は607件と続いています。3番目に多い食品卸は255件なので、建設業がいかにコロナの影響を大きく受けたのかがわかります。新型コロナウィルス感染症は落ち着きをみせていますが、今年は「民間ゼロゼロ融資」の返済も本格的に始まり、さらに倒産件数は増えるものとみられています。
そこで今回は建設業の財務分析をテーマにお送りしたいと思います。
2.民間ゼロゼロ融資の返済が本格的に開始
「ゼロゼロ融資」とは新型コロナウィルスの影響で売上が減少した中小企業や個人事業主に実質無利子・無担保で融資する仕組みです。当初は日本政策金融公庫などの政府系企業の金融機関が対応していましたが、申込が相次いだため民間金融機関でも受け付けるようになりました。中小企業庁によれば、融資実績は約234万件、42兆円となっています。こうした施策により、新型コロナウィルスの感染拡大が始まって以降2022年まで、倒産件数は非常に低い水準に抑えられてきました。
しかし、民間金融機関のゼロゼロ融資の返済開始が2023年7月~2024年4月に集中するといわれており、この時期から倒産件数は急増するのではないかと懸念されています。
3.コロナ借換保証制度
そこで中小企業庁から「民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度(以下、コロナ借換保証)」の開始が発表されました。これは今後の返済負担のみならず、新たな資金需要に対応するために創設されました。
制度概要は以下のようになっています。
保証限度額 | 1億円 |
---|---|
保証期間 | 10年以内 |
据置期間 | 5年以内 |
金利 | 金融機関所定 |
保証料(事業者負担) | 0.2%等(補助前は0.85%等) |
要件 | 売上または利益率が5%以上減少 など |
その他 | ・100%保証の融資は、100%保証での借換が可能 ・経営行動計画書の作成 ・金融機関の継続的な伴走支援 |
取扱期間 | 2024年3月31日まで(予定) ※信用保証協会に保証申込がなされたもの |
本制度を利用するにあたっては、以下の①~④のいずれかの要件に該当し、金融機関との対話を通じて「経営行動計画書」を作成、金融機関による継続的な伴走支援を受けることが条件となっています。
① セーフティネット4号の認定(売上高が20%以上減少していること。最近1ヶ月間(実績)とその後2ヶ月間(見込み)と前年同期の比較)
② セーフティネット5号の認定(指定業種であり、売上高が5%以上減少していること。最近3ヶ月間(実績)と前年同期の比較)
※①②について、コロナの影響を受けた方は前年同期ではなくコロナの影響を受ける前との比較でも可。
③ 売上高が5%以上減少していること(最近1ヶ月間(実績)と前年同月の比較)
④ 売上高総利益率/営業利益率が5%以上減少していること(③の方法による比較に加え、直近2年分の決算書比較でも可)
申請時に必要となる「経営行動計画書」には収支計画や返済計画、具体的なアクションプランの他に、財務分析を記載するようになっています。
コロナ借換保証の申請を行わないとしても、財務分析を理解しておくことは今後の経営戦略策定にも役立ちます。ここからは「経営行動計画書」で求められる6つの指標をみていきたいと思います。
4.財務分析の代表的な指標
「経営行動計画書」に記載する指標の計算式と指標の意味をみていきます。
1)売上増加率
売上高はキャッシュ・フローの源泉となる最も重要な要素です。「経営行動計画書」では2か年の数値を用いていますが、内部管理目的の場合は3~5か年分のトレンドをみる方が良いと思います。特にコロナのような特異な状況下においては、過去の数値をふまえてその影響を見極めることが重要です。
2)営業利益率
売上高に占める営業利益の割合で、収益性を評価する上で基本となる指標です。本業の成績表とも言えます。売上高とは異なり営業利益率の良し悪しは企業規模の大小と関係ありません。
3)労働生産性
従業員1人当たりがどれだけ営業利益を生み出しているかを示す指標です。「経営行動計画書」では分子を営業利益としていますが、各従業員がどれだけ効率的に付加価値を生み出しているかを知るための指標なので、売上から諸経費を控除した付加価値額を分子とすることも広く用いられている計算方法です。諸経費には材料費や運送費、外注加工賃など他社から購入したものとすることが一般的です。
4)EBITDA(有利子負債倍率)
有利子負債の返済能力を示す倍率です。分子は手持ちの現金全てで有利子負債を返済してもなお返済しきれない金額、分母は簡易的に本業の営業活動で獲得することのできる営業キャッシュ・フロー金額を意味します。つまり本業で何年分キャッシュを獲得すれば有利子負債を全て返済することができるのかが示されます。
5)営業運転資本回転期間
事業活動を続けていく上で、何か月分の運転資金が必要かを示す指標です。いくら売上が上がっていてもその回収が遅れたり、仕入の支払期日がタイトであると手元の運転資金は底ついてしまい、事業を継続することができません。そこで何か月分の売上額が手元資金としてあれば安全かを知るための指標となります。
6)自己資本比率
自己資本の内、返済義務のない自己資本の比率を示す代表的な財務安全性指標です。無借金の場合、自己資本比率は100%となります。
5.おわりに
今回は、ゼロゼロ融資に関する情報とそれにまつわる財務指標をご紹介しました。今回取り上げたのは「経営行動計画書」に用いる指標のみですが、他にも様々な指標があります。
こうした財務指標は経営計画等の策定場面に限らず、日々の経営判断において非常に大きな役割を果たします。自社の指標を計算し、業界平均と比較するだけでも、従来見えてこなかった自社の実態を把握することに繋がります。例えば、毎月売上を確認するのに合わせて営業運転資本回転期間を計算すると、いった具合です。まずは今回ご紹介した指標を計算することから行ってみてください。
次回はより多角的な視点で財務基盤を評価できるようにその他の財務指標をご紹介し、建設業の平均値等もみていきたいと思います。
北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。税理士としてグループの税務業務を統括する。
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