2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害を契機に、危険な盛土・切土を全国一律の基準で包括的に規制する「改正宅地造成等規制法(盛土規制法)」が5月26日に施行された。各都道府県などが盛土災害のリスクの高い地域を規制区域に指定し、規制区域内の盛土工事などが許可制になるなどが柱だ。建設現場ではこの法律の施行に合わせ、資源有効利用促進法に基づく各種規定も段階的に強化されており、建設現場での発生する残土や土砂の扱いが厳格になってきている。盛土規制法の内容と、資源有効利用促進法の改正内容を整理した。
規制エリアは宅地造成等工事規制区域と特定盛土等規制区域の二つ
施行された盛土規制法は、熱海市の土石流災害で多数の死傷者が発生したため、各種規制の強化だけでなく、違反者に対する罰則を設けたのが特徴だ。これまで盛土に対する規制や罰則は、各地方自治体が制定する条例などで決められていたが、盛土規制法は全国一律の基準で包括的に規制の網をかけている。
規制エリアは、市街地やその隣接する土地などが対象になる「宅地造成等工事規制区域」と、渓流などの上流域などが対象となる「特定盛土等規制区域」の二つ。この規制区域は、都道府県や政令市、中核市が基礎調査を実施して首長が指定する。
基礎調査の考え方や手順は国が要領案を作成しており、これに沿って調査し、市町村長などの意見を聴衆した上で指定する。基礎調査は概ね5年ごとに実施し、既存盛土について「既存盛土分布調査」、「応急対策の必要性判断」、「安全性把握の優先度調査」、「安全性把握調査(土地所有者等・原因行為者が対応する場合もあり)」、「経過観察」などを調べる。
既存盛土は許可・届出された案件が対象だが、規制区域指定前に行われた3000平方メートル以上の盛土造成地や、原地盤面の勾配が20度以上かつ盛土の高さが5メートル以上の盛土が優先して調査対象となる。これらの手順などの詳細は国が作成した「盛土等の安全対策推進ガイドライン」に記載されている。調査結果を踏まえ、必要に応じて5年ごとに規制区域を見直す。
許可、届出、中間検査、完了検査をきめ細かく規定
では、指定区域内ではどのような規制がかかるのか。まず、盛土の安全性を確保するため、擁壁や排水施設の設置、地盤の締め固めなど、盛土・切土を行うエリアの地形・地質に応じて災害防止のために必要な許可基準を国が設け、この基準に沿って都道府県知事等が盛土・切土の許可を行う。
許可後は許可基準に沿って造成主や工事施工者に3カ月(自治体によっては短縮も可能)ごとに「定期報告」を求めるほか、工事完了後には確認が困難となる工程(排水施設の設置など)について施工中に現地で検査する「中間検査」や、工事完了時に安全基準に適合しているかどうかを検査する「完了検査」を都道府県らが実施し、最終的な確認を行う。
盛土・切土の許可・届出・検査・報告の対象行為の規模は表1の通りとなる。例えば宅地造成等工事規模区域内で盛土高さ1メートル超の崖となる場合、許可が必要となり、完了検査も行われる。盛土が2メートル超の崖となる場合はこれらに加え、中間検査、定期報告も求められる。一時的な土砂の堆積(仮置き)では、堆積の高さが2メートル超かつ面積が300平方メートルを超えると、許可が必要で、完了検査も実施される。
区域 | 行為 | 届出 | 許可 | 中間検査 | 定期報告 | 完了検査 |
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宅地造成等工事規模区域 | 土地の区画形質の変更(盛土・切土) | ---- | ①盛土で高さ1m超の崖 ②切土で高さ2m超の崖 ③盛土と切土を同時に行い高さ2m超の崖(①と②を除く) ④盛土で高さ2m超(①、③を除く) ⑤盛土または切土の面積500㎡超(①~④を除く) |
①盛土で高さ2m超の崖 ②切土で高さ5m超の崖 ③盛土と切土を同時に行い高さ5m超の崖(①と②を除く) ④盛土で高さ5m超(①、③を除く) ⑤盛土または切土の面積3000㎡超(①~④を除く) |
同 左 | 許可対象すべて |
一時的な土石の堆積 | ---- | ①堆積の高さ2m超かつ面積300㎡超 ②堆積の面積500㎡超 |
---- | ①堆積の高さ5m超かつ面積1500㎡超 ②堆積の面積3000㎡超 |
許可対象すべて | |
特定盛土等規制区域 | 土地の区画形質の変更(盛土・切土) | ①盛土で高さ1m超の崖 ②切土で高さ2m超の崖 ③盛土と切土を同時に行い高さ2m超の崖(①と②を除く) ④盛土で高さ2m超(①、③を除く) ⑤盛土または切土の面積500㎡超(①~④を除く) |
①盛土で高さ1m超の崖 ②切土で高さ2m超の崖 ③盛土と切土を同時に行い高さ2m超の崖(①と②を除く) ④盛土で高さ2m超(①、③を除く) ⑤盛土または切土の面積500㎡超(①~④を除く) |
許可対象すべて | 許可対象すべて | 許可対象すべて |
一時的な土石の堆積 | ①堆積の高さ2m超かつ面積300㎡超 ②堆積の面積500㎡超 |
①堆積の高さ5m超かつ面積1500㎡超 ②堆積の面積3000㎡超 |
---- | 許可対象すべて | 許可対象すべて |
工事後も継続的に盛土・切土の安全性を担保するため、規制区域指定前に行われたものも含め、土地所有者などにはその土地が常時安全な状態を維持する責務が課せられる。災害防止の観点から必要に応じて土地所有者等だけでなく、原因行為者に対して是正措置などを命令できる。さらに、無許可行為や命令違反などに対する懲役刑や罰金刑も最大で懲役3年以下・罰金1000万円以下という厳しい刑罰や、法人に対する法人重科措置(最大3億円以下)も講ずることとしている。
道路や公園、河川など公共施設用地は法律の適用除外
ただ、盛土規制法は「災害の発生のおそれがないと認められる工事」を政令や省令で規定し、これらの工事は届出や許可が不要となる。具体的には、道路や公園、河川など公共施設用地については法の適用除外となり、鉱山保安法や鉱業法による鉱物の採取や、採石法による岩石の採取、砂利採取法による砂利の採取なども許可不要となる。
このほか、「工事の施工に付随して行われる土石の堆積であって、当該工事に使用する土石または当該工事で発生した土石を当該工事の現場またはその付近に堆積するもの」も許可不要とされている。これは、工事現場やその付近で当該工事に使用する土石や当該工事で発生した土石を一時的に仮置きするものについて、工事と一体的に安全管理が行われていることから、盛土規制法の適用除外にするというものだ。
現場から離れた土地に一時的に仮置きする場合でも、請負契約書や施工計画書等に工事現場として位置付けられていれば工事現場として扱う。また、工事現場付近は本体工事と一体的な管理が可能な範囲として本体工事の隣地や道路を挟んだ向いの土地などが該当する。その際、客観的な確認ができるように本体工事の管理者等に管理体制などを記した誓約書の提出や、同様な内容を記した看板の掲示を運用上求める予定。
堆積期間は原則、本体工事の期間となるが、やむを得ず本体工事期間後も土石の堆積を継続するものについては引き続き同法の適用除外となる。この際、工事現場付近と同様に本体工事の管理者等に管理体制などを記した誓約書の提出や、同様な内容を記した看板の掲示を運用上求める予定だ。
再生資源利用促進計画書作成の対象工事が拡大、保存期間も延長
ここまでは盛土規制法に関して述べてきたが、この先は建設発生土の適正利用など徹底する観点から、資源有効利用促進法に関する省令改正などを説明する。建設現場から搬出される建設発生土の搬出先を明確化することは、不法・危険盛土などの発生を防止する観点からも重要になる。このため、これまでも元請企業に義務付けられていた建設発生土の搬出先や搬出量などを記載した再生資源利用促進計画書の作成対象工事の拡大や、保存期間を延長する。これはすべての工事が対象となり、今年1月に施行されている。
具体的には、同計画書作成の対象工事はこれまで土砂搬出量が1000立方メートルだったが、これを500立方メートルとし、保存期間も1年から5年に延長される。発注者への報告と建設現場への掲示も義務化された。
盛土規制法の施行(5月26日)に併せ、建設発生土の搬出先について盛土規制法の許可地であるかなどを確認し、現場掲示することや、搬出先から土砂の受領書の交付を求め、元請業者が最終搬出先まで確認することも義務付けた。汚染された土壌の搬出防止を図るため、元請業者が計画書を作成する際に、発注者等が行った土壌汚染対策法などの手続き状況を確認し、現場掲示することも義務付けられた。このうち、元請業者による最終搬出先までの確認義務は2024年6月1日に施行される。
一方、優良なストックヤード業者を育成し、建設発生土のリサイクルを促進するため、新たにストックヤード運営事業者登録制度(大臣登録)も創設した。ストックヤードの登録はストックヤード運営事業者や土質改良プラント業者、自社(元請業者)の資材置き場などが対象になる。前述したように元請業者は500立法メートル以上の土砂を搬出する場合、最終搬出先の確認が義務付けられるため、土砂が混合しないように区分管理するなどの対応が必要になる。登録ストックヤードに搬出した場合は、登録ストックヤードの運営事業者が最終搬出先までの確認を行うことになるため、元請業者が最終搬出先までの確認を行う必要がなくなる。資源有効利用促進法の見直しに関しては国土交通省不動産経済局のHP(https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001618074.pdf)にQ&Aが掲載されているので、参考にしてほしい。
2027年5月までに全自治体が規制区域を指定
できるだけ分かりやすく説明したつもりだが、各措置の施行時期がずれていたり、盛土規制法の指定区域だけに網がかかる措置だったり、現場で働く人は理解しておくべきことが多い。盛土規制法の経過措置期間は2025年5月、全自治体の規制区域の指定完了は2027年5月となるため、猶予期間はあるものの、今のうちから盛土規制法と資源有効利用促進法に関する省令改正をきちん把握し、自治体の動きも含め、元請業者は対応する必要がありそうだ。
執筆者
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏
1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。