What(何)からWhy(何故)の時代に-パーパス経営って?

What(何)からWhy(何故)の時代に-パーパス経営って?

経営思想いろいろ

 以前、「ESG(環境・社会・企業統治)経営で企業価最大化へ」ということをご紹介させていただきました。そこでは、2022年10月に発足した「一般社団法人ESGネットワーク」が提唱する「企業・団体が抱える社会課題の解決と自社の競争優位性の強化を両立させる『ESG経営』を通じ、企業価値の最大化と持続可能な成長」をしていくための人材育成や組織作り、競争優位性を強化するためのビジネスコンサルティングといった点について報告しました。

 このESG経営に加え、昨今では「パーバス(purpose)経営」ということが言われ始めています。「purpose」は「目的、意図、意義」を意味します。ここから独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)では、「パーバス経営」を「自社の存在意義を明確にし、いかに社会に貢献するかを定め、それを経営の軸として事業を行うこと」と定義しています。存在意義を明確にするということは、逆に言えば、その企業が何故、社会に存在しているのかを示すことでもあるでしょう。

 中小機構ではパーパス経営をすることによって、ステークホルダーからの支持の拡大、従業員のエンゲージメント向上などを図ることができるとしています。

実例を見る――高砂熱学工業の場合

 空調工事最大手の高砂熱学工業(東京都、小島和人社長)は、創立100周年を機にグループの「パーパス」を策定、公表しました。公表した資料の中で同社は、パーパスが「当社グループに集う全ての人たちの心の拠り所となる」と位置付け、かつ、その必要性について「劇的に変化する事業環境に迅速かつ柔軟に対応し、多様な価値観を活かして、高砂熱学グループが持続的に成長し、社会へ付加価値を創出していくためには『何のために存在するのか、どうありたいのか=存在意義』を改めて問い直し、明文化することが必要不可欠と考えた」と述べています。

 その結果、同社が掲げたパーパスは「環境革新で、地球環境の未来をきりひらく。」というものになりました。

 参考のために同社のパーパス全文を記します。

 空気を調和する。そこから生まれる無限の可能性がある。
 高砂熱学は、一人ひとりが百年の歴史から受け継いできた
 技術と誇りを胸に、人の和で多様性と共創の輪をひろげていく。
 空間環境を創造し、地球へ、そして宇宙へ。
 あらゆる環境革新をリードしつづけます。
 私たちと家族、世界中の人々の笑顔、すべての生命とともに。

パーパスの考え方

 まず考えなければならないのが、自社の事業の正確な把握でしょう。その事業が継続できているのは社会から求められているからであり、社会に貢献しているからに他なりません。

 求められていることに企業の存在価値があると考えれば、その事業を通じて「社会貢献していこう」という視点に立つことでパーバスは制定できるのではないでしょうか。

 もちろん、それが経営者の独りよがりであってはいけません。従業員が同じ思いを抱き、やさしい言葉で誰でも理解できることが必要です。単なる高尚な思念ではなく、自分たちの手が届くようなものでなくては、それこそ「絵に描いた餅」になってしまいます。そして何より大切なことは、それがきちんと社内に浸透していることです。

 パーパスと紛らわしいものとして「ミッション」や「ビジョン」があります。中小機構によれば「ミッション」は「何(What)をするか」、「ビジョン」は「どこ(Where)を目指すのか」であり、「パーパス」が求める「何故(Why)社会に存在するのか」との意味の違いを理解することができると思います。

 パーバス経営を始めようとする時、「パーバス・ドリブン」という言葉に突き当たります。「ドリブン(driven)」は「ドライブ(drive)」の過去分詞で、「~に影響を受けた」「~に適合する」「~によって動く」「~に反応する」という意味があります(ジーニアス英和大辞典)。そこから、たとえば「ピジョン・トリブン」という言い回しでは「ビジョンを元に事業を展開する」といった意味で使われます。つまり、「パーバス・ドリブン」とは「目的・意図・意義を元に存在を考える」ということになります。

パーバス・ドリブンって必要なの?

 東日本大震災の後、復旧作業に携わる建設業者の姿を見て、多くの若者が土木の道に進んだと言われています。それは建設業という存在が、本当に社会に役立っているということを目の当たりにしたからだと言われています。

 確かに豪雪地帯では地元建設業者による除雪作業がなければ、地元住民の生活自体が立ちゆかなくなります。存在理由は言わずもがなです。「何故、地場の建設業は存在するのか」という問いに対する答えは、すでに出ているといえるでしょう。ただし、現代ではそれを明示することが求められてきているのです。明示することにより、高砂熱学工業が自社のパーパスの中で述べているように「所属する社員など全ての人たちの心の拠り所」になり、企業経営の原動力となると考えられるからです。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

Magazine
建設ITマガジンVol.12
ESGは企業経営に貢献するか?

プライバシーマーク