23年度補正予算で公共事業2・2兆円規模に/今後の建設市場の動向をみる/事業量がある今こそ変革のチャンス

23年度補正予算で公共事業2・2兆円規模に/今後の建設市場の動向をみる/事業量がある今こそ変革のチャンス

 2023年度補正予算が11月末に成立した。公共事業予算総額は2・2兆円。ここ数年、当初予算が6兆円規模、補正予算が過去2年とも約2兆円規模で推移していたが、今回は例年に比べ2000億円程度増額される見通しだ。今夏に国土交通省がまとめた建設投資見通しでは、2023年度の建設投資額(名目値)が前年度比2・2%増の70兆3200億円と予測。2011年度は42兆円まで低下したが、20年近くかけ、ようやく70兆円台まで回復した。補正予算の中身も含め、今後の建設市場の数字をまとめてみた。

物価高騰を踏まえた緊急対応分として2476億円計上

 政府は10日の閣議で補正予算案を決定した。国土交通省関係の公共事業関係費は国費ベースで1兆7657億円を計上。うち「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(2021~2025年度)関係に1兆0749億円を充てる。2024年度は5か年加速化対策の4年目となるが、通常の事業費に加え、物価高騰を踏まえた緊急対応分として2476億円が含まれる。

 これ以外の公共事業として生産性向上などに3632億円を計上。うち省エネ住宅への支援に1700億円を配分し、2022年度第2次補正予算で1500億円を計上し創設した「こどもエコすまい支援事業」と同様の取り組みを継続する。自然災害からの復旧・復興には3275億円を充てる。

ゼロ国債777億円、工期3年以上の加速円滑化国債1061億円

 公共事業関係費の主な個別施策の内訳は、流域治水などの推進が2658億円、国土強靱化に資する道路ネットワークの機能強化が2076億円、道路インフラの局所的な防災・減災対策などが451億円、重要インフラの老朽化対策が1642億円、デジタル技術を活用したインフラの整備や管理の高度化などが156億円、防災・安全交付金などが3070億円、生産性向上に資する道路ネットワークの整備などが725億円、生産性向上や民間投資の誘発などに資する港湾機能の強化が295億円、子どもの安全な通行の確保に向けた道路交通環境の整備などが235億円となる。

 公共事業の発注平準化措置として国庫債務負担行為を活用し年度内の発注も推進する。事業費ベースでゼロ国債に777億円、5か年加速化対策に基づく工期3年以上の工事が中心となる事業加速円滑化国債には1061億円を充てる方針だ。財政投融資には300億円を計上している。

公共事業費のけん引役となってきた国土強靱化5か年加速化対策

 他省庁も含めた公共事業関係費(速報値)をみると、災害復旧関連が4026億円、国土強靱化関連が1兆3022億円、生産性向上関連が4961億円の計2兆2009億円が計上される見通し。このうち、今後の建設市場を占う上で重要になるのが、国土強靱化5か年加速化対策関連予算がどの程度確保されるかだ。

 国土強靱化の5か年加速化対策は期間中の事業規模が約15兆円。いわゆる〝真水〟と言われる国費ベースでは、7兆円台半ばとされている。うち公共インフラ関係に限ってみると、事業規模が約9兆円、国費ベースが約6・1兆円とされている。

 これまで5か年加速化対策の予算は、前計画である3カ年緊急対策(2018年度~2020年度)とは異なり、当初予算ではなく、前年度の補正予算で手当されてきた。その額は、前年度の補正予算で2021年度分が約1・7兆円、2022年度分、2023年度分がそれぞれ約1・3兆円ずつだった。

国土強靭化対策の次期実施中期計画をどう作り込むのかが重要

 このため、5カ年加速化対策の残国費が2カ年で約1・8兆円しかなく、2024年度と2025年度に均等に分けると0・9兆円と言われていた。当初予算の公共事業関係費が毎年度6・1兆円の横這いで推移しているため、仮に2024年度も当初予算の公共事業費が同額程度となれば、補正予算の5カ年加速化対策の予算額次第では減少するのではないかと危惧されていた。

 財務省に対し国土強靭化関連の予算獲得に向け、先頭に立って活動している佐藤信秋参院議員によると、今回の予算について「均等割りの0・9兆円ではなく、約1兆円とした上で、国土強靱化緊急対応枠として3000億円を加えた額が確保できた」という。この増額は人件費や建設資機材の上昇で5カ年加速化対策のKPI(目標達成指標)の達成が難しくなり、財務省がインフレーターで国費の残額分を修正した結果とみられる。ただ、佐藤参院議員は「これからが重要。(国土強靭化対策の)次の実施中期計画の準備をする必要がある」とし、建設業界に国土強靭化対策に対する積極的な予算確保に向けた活動を促している。

建設投資総額の名目値、物価変動を除いた実質値も回復基調に

 公共事業関係費は、補正予算で2・2兆円規模が確保されたため、次年度への繰り越しも考えると、2024年度は本年度並みの予算が確保されることは間違いない。では、民間工事はどうか。

 建設投資の予測は国土交通省だけでなく、建設経済研究所と経済調査会も四半期ごとに発表している。建設経済研究所と経済調査会が直近の10月20日発表した建設投資見通しによると、投資総額の名目値は2023年度に前年度比3・9%増の71兆4800億円、2024年度に1・1%増の72兆2400億円を予測している。物価変動の影響を取り除いた実質値で見ても、2年続けて落ち込んだ2021、2022年度から持ち直し、2023年度は2・0%増、2024年度には0・9%増と回復基調にあると予測している。

 分野ごとに投資額の名目値を見ると、建築補修を除く政府投資は2023年度に4・8%増の23兆4200億円、2024年度に0・2%増の23兆4700億円。前年度との比較で足元の出来高が増加しており、2023年度は実質値ベースでも微増の見通し。2024年度は名目値・実質値ともに同水準と予測している。

民間住宅、民間非住宅とも2023、2024年度とも増額を予測

 民間投資をみると、民間住宅投資は2023年度に2・1%増の17兆2700億円。建設コストの高止まりや住宅ローンの金利上昇の影響で着工戸数は伸び悩み、特に持ち家やマンションは近年で最低水準にある。ただ、住宅の高付加価値化や建設コスト上昇による単価アップを要因に投資額は実質値も含めて微増すると見ている。2024年度も1・4%増の17兆5200億円と予測する。

 民間非住宅建設投資は2023年度に2・5%増の19兆1500億円、2024年度に0・4%増の19兆2300億円。実質値も含めて前年度を下回る水準ではないが、足元の着工床面積が減少しているなど企業の建設工事への投資には慎重姿勢がうかがえると分析している。

 民間非住宅分野の着工床面積は2023年度に7・3%減の4015・2万平方メートルと予測。用途別では、これまで民間のけん引役だった倉庫が9・0%減の1158・5万平方メートルとなるほか、工場が13・6%減の751・3万平方メートル、事務所が3・8%減の528・1万平方メートル、店舗が5・4%減の401・5万平方メートルと軒並み減少する。ただ、2024年度には事務所を中心に回復すると予測している。

工事量が見込めるこの時期に新たなイノベーションを

 ここまで足元の数字を中心に建設市場の動向を見てきたが、今のところ市場そのものは堅調に推移しそうだ。ただ、2024年4月から建設業に適用される罰則付き時間外規制や、ウクライナや中東の情勢など地政学リスク、中国経済の停滞など、先行きの不透明感は拭えない。

 すでに大手建設会社が11月に発表した中間決算では増収減益となる企業が相次いでいる。罰則付き時間外規制への対応は、残業時間を減らすための生産性向上に向けた設備投資や、人員補充を求められる可能性が高く、コスト増は避けられない。このため「仕事はあっても利益がでない」という状況に陥りかねない。

 この状況を改善するには、適正な価格、適正な工期で受注し、地道に生産性を高めていくしかない。事故や手戻りをなくし、効率的な施工を行う。そのためには何が必要か。従来のやり方に固執するのではなく、機械化やデジタル化などに思い切って踏み出し、生産体制を根本から変える取り組みが必要だろう。そこに新たなイノベーションが生み出さされる可能性もある。一定の工事量が見込める、この時期を決して逃してはならない。

坂川 博志 氏
 執筆者 
日刊建設工業新聞社 常務取締役事業本部長
坂川 博志 氏

1963年生まれ。法政大社会学部卒。日刊建設工業新聞社入社。記者としてゼネコンや業界団体、国土交通省などを担当し、2009年に編集局長、2011年取締役編集兼メディア出版担当、2016年取締役名古屋支社長、2020年5月から現職。著書に「建設業はなぜISOが必要なのか」(共著)、「公共工事品確法と総合評価方式」(同)などがある。山口県出身。

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