建設DX事例 ~「2025年の崖」対策は万全ですか?~

公開日:2023.12.08
更新日:2023.12.08

建設業におけるDX推進、その現状は?

経済産業省は、2018年のDXレポートのなかで「2025年の崖」という表現を用いました。要約すれば、可及的速やかにDXを採り入れなければ日本企業は国際的競争力を失い、それによる経済損失は2025年から年間約12兆円にのぼるだろう、という試算です。2025年の崖を乗り越えるために、各業界で進むDX。本稿では、建設業のDXについてお伝えします。

建設DXとは

あらゆる要素がデジタル化/グローバル化されていくなかで、さまざまな業種でビジネスモデルの抜本的な変革が求められています。データとデジタル技術を駆使することでの変革と競争力の優位性を確立すること、これがDX(Digital Transformation;デジタルトランスフォーメーション)です。2018年、経済産業省の「デジタルガバナンス・コード2.0」のなかで定義づけられて以後、いまや単なるバズワードに留まらない、ビジネスシーンにおける一大テーマに位置づけられています。

労働集約型で人的コストが高い建設業においても、DXによる省人化/省力化は注目度が高いテーマです。一方で、DX導入のハードルが他業種より高いことも、また、事実でしょう。製品が規格化された製造業とちがい、受注生産方式である建設業が扱う成果物は一品一様、画一的な機械化が難しいことがひとつ。また、勘や経験、技術など、職人気質が重んじられる現場とICTが円滑に連携しづらいことなども、要因として挙げられます。

ただ、国土交通省が主導するi-Construction(アイ・コンストラクション)(※)などの後押しを受けて、近年、大手ゼネコンを中心に、建設業界でも革新的な最新技術が続々と導入されています。

※建設業界へのICT導入などによる生産性向上の取り組み

以前の記事でも「建設工事業におけるDXの現状と展望」をご紹介しましたが、今回はより具体的に事例/成功例を挙げながら、さらに掘り下げて解説します。

2025年の崖とは?

2018年のDXレポートのなかで、経済産業省は2025年の崖という表現を用いました。要約すれば、2025年までにDXを採り入れなければ、日本企業は国際的競争力を失い、それによる経済損失は年間で約12兆円にのぼるだろう、という試算です。DX推進は企業レベルの話というよりも、政府の経済政策の要衝に位置づけられるものといえるでしょう。

DL資料

建設DXは建設業の3大課題を解決するか?

DX導入にあたっては、当然ながら、けっして安価でない投資が必要です。また、担当者のスキル開発など、習熟面も大きなハードルとなります。

にもかかわらず、多くの建設業事業者が積極的にDXに取り組んでいることは、理由のない話ではありません。建設業界が抱えるいくつもの課題を鑑みれば、業界が今後も健全に成長していくためにはDXしか活路はない、という強い危機感からのことといえます。

昨今の労働人口減少を受けた人手不足問題は、全業種にとって大きな課題です。国土交通省が発表した統計では、2020年(令和2年)の建設業の就業者数は492万人。ピークである1997年(平成9年)から比較すると、28.1%の減少となります(図1)。

特に建設業では技能者の高齢化が進んでいます。熟練世代が一斉に引退すれば、業界は立ち行かなくなるでしょう。

建設業の就業人数

人手不足の解消は喫緊の課題ですが、建設業の労働環境は1980年代よりいわれる3Kのイメージがいまだに根強く、全業種間で激化する人材獲得競争で大きく不利です。また、このまま人手不足が進めば、人材獲得競争に勝ったとしても必要な人員を確保できる保証はありません。

現在、国土交通省と建設業界は協同で新3Kに向けた取組みを進めています。ただ、一度根づいたイメージの刷新に時間がかかることはまちがいありません。並行してICTを活用した省人化を進めることこそ、改革の両輪といえるでしょう。

3K・6K・新3Kの違いは?

バブル期以降、「きつい・きたない・危険」の3Kや「帰れない・きびしい・給料が安い」を加えた6Kなど、従来の建設業の労働環境についてイメージ低下を助長するような表現がしばしば使われてきた。担い手確保のために、国土交通省と業界は新3Kを掲げ、その実現に取り組んでいる。ICT施工を中心にするi-Constructionもその一環。
新3Kは「給与・休暇・希望」の頭文字から成る。

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国土交通省の調査では、建設業の労働生産性が他業種と比較して大きく見劣りすることが報告されています(図2)。

製造業とは異なり機械化による大量生産を図れないこと、また、受注単価の低さに対して必要となる人員が多いことなどが主な理由です。業界特有の重層下請構造も、大きな重しとなっています。


また、建設業では労働生産性の規模間格差が特に大きいことがわかっています。中小企業は、競争力の面で、大きな不利を強いられます。

人手不足と労働生産性の問題に拍車をかけるのが、働き方改革2024年問題です。

平成31年(2019年)に施行された働き方改革関連法による労働基準法改正を受け、現在、多くの企業で時間外労働についての是正が図られています。

改正労働基準法では、時間外労働の上限が原則として月45時間/年360時間と定められており、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません。また、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を超えることはできないと定められています。

■年720時間
■複数月平均80時間
■月100時間未満

※上記に違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれあり

※災害時における復旧及び復興事業には、時間外労働と休日労働の合計について、複数月平均80時間以内、月100時間未満とする規制は適用されない

改正労働基準法は、大企業では平成31年(2019年)4月より、中小企業では令和2年(2020年)4月より適用されています。

ただ、建設業では慢性的な人手不足による長時間労働が常態化しており、災害の際の復旧工事など臨時的な対応が常に必要であるため、例外として本規制について5年の猶予が設けられていました。

その猶予も令和6年(2024年)4月に解かれます。多くの事業所で対応に追われることは、必至といえるでしょう。これが建設業界の2024年問題です。

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建設DXの実例と成果

上述の課題から、建設業ではDXの成否が産業/企業の維持に直結します。現在、官民挙げてさまざまな新技術を採り入れながら、生産性向上への道を模索しているところです。建設DXの代表例を、以下に挙げてみました。

従来、インターネットに接続されていなかったさまざまな機器をネットワークで繋ぐことで情報交換する仕組み、IoT(Internet of Things)。令和2年(2020年)に国内で5Gのサービスが開始されたことで、高速・大容量の通信を活用できるようになり、一気に実用化が進みました。

建設工事現場での実用例としては、経験の浅いドライバーをコンピューター制御でサポートするMC(Machine Control)/MG(Machine Guidance)建機や規格の異なる様々な重機にフレキシブルに対応できる遠隔操作型人工筋肉ロボット、測量や現場調査へのUAV(ドローン)利用などが挙げられます。

国交省に報告されている主な導入効果

MC建機:施工日数15日縮減
UAV測量:23人日⇒3.5人日

なかでも、身に着けるIoTともいうべきウェアラブル端末は、比較的導入が容易であることから、多くの建設工事現場で成果を挙げています。スマートグラスを通して工事現場の映像や音声をリアルタイムで事業所に送信、コミュニケーションを図りながら作業を進めることが可能です。

人手不足とともに、世代間の技術継承は建設業にとって避けて通れない課題です。ウェアラブル端末を活用すれば、事業所にいる熟練者から遠隔による助言・支援を送ることができるため、有力なソリューションになり得ます。また、デバイスを通して取得したビッグデータをクラウドに蓄積、正確な工程管理や人材配置の最適化に繋げるなど、多くの可能性を秘めたデバイスです。

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建設業のDXは、IoTのように大掛かりなものだけではありません。現場情報の連携アプリであれば、既存のスマートフォンやタブレットをそのまま活用できるため、比較的低コストで導入が可能です。

建設業では、ひとつの工事で大量の図面や作業指示書、工程管理表が必要になります。現場情報の連携アプリがあれば、事業所からも工事現場からも工事ごとに整理された情報にアクセスできるため、端末ひとつを持ち運ぶだけで事が足ります。部門間のコミュニケーションも、スムーズかつ活発になるでしょう。

建設DXといえば建設現場のDXのイメージが強いですが、バックオフィスのDXも併せて考える必要があるでしょう。工事原価管理や労災管理など、他業種と比較して複雑な事務作業が多い建設業では、管理部門の省人化/業務効率化も現場と同等に重要です。

建設業ERP “PROCES.S” は、建設業の基幹業務を網羅したシステムです。

建設業の会計実務は建設業会計という特殊な会計基準で行なうため、一般的な会計システムでは対応できません。PROCES.Sは、建設業の業態に合わせて開発されているため、それらの問題をカスタマイズの必要なくクリア。また、建設業の管理業務についてノウハウを有する専任スタッフが導入から運用までをトータルでご支援します。DXの第一歩として、自信をもっておすすめできるシステムです。

PROCES.Sバナー

2023年以降、第四次AIブームともいえるほど注目を集めるAIですが、建設業とも非常にかかわりが深い分野です。

二次元CADをAIに解析させて三次元化したり、遠隔操縦を超えた自律作業型の無人建機などはさかんに研究されてきましたが、より身近な例として、ChatGPTなどの生成系AIを施工管理や経営管理に活用する動きもあります。

本項目については、たいへん好評だった建設セミナーをレポートにまとめました。関心のある事業者さまは、ぜひそちらもご覧ください!

Seminar Report

ChatGPTを活用して
建設会社の業務生産性課題を
解決する方法

これからDXを進める建設事業者さまへ

前述のとおり、建設業はデジタルの導入にあたって特殊な事情を抱えた業界ですが、新型コロナウイルス禍の影響による外圧も相まって、現在、多くの企業がDX推進に取り組んでいます。IT導入補助金など、政府からの支援をうまく活用して導入を進めた事例も多くあります。

本稿では、建設業におけるDX推進の代表的な事例や製品例をご紹介しましたが、新しいワークフロー構築にご不安を抱える事業者さまも多いのではないでしょうか。そういった事業者さまに向けて、建設現場とバックオフィス双方の建設DX事例をPDF資料により詳しくまとめました。

インフラ維持・国民の安全な暮らしを守るうえで、建設業は最重要の役割を担う基幹産業であることは、疑いようもありません。多くの課題を乗り越えて、今後も成長産業としての躍進が期待されています。本稿と本資料が、貴社のDXと発展の一助になれば幸いです。

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