罰則付き時間外労働時間規制-建設業などへの適用が始まった

罰則付き時間外労働時間規制-建設業などへの適用が始まった

総会挨拶での「必須ワード」

 毎年5月、業界団体の定時総会があちこちで開かれます。全国団体から地方団体まで、職種ごとに開催されるのですから、その数は驚くほど多くなります。「業界があれば団体がある」と言われており、建設業の場合はおそらく、他の産業を圧倒するほどではないかと思われます。とはいえ、同じ「建設業」という枠の中にいるのですから、元請・下請という立場の違いを除けば「共通」する部分が多々あるというのも現実です。

 定時総会の団体会長あるいは支部長のあいさつの中で、昨年度、今年度の「必須ワード」となったのが「罰則付き時間外労働時間規制の適用」であり、昨年度は「いよいよ来年度から」という前置き、そして今年度は「規制の適用が始まりました」というものです。

「働き方改革」の一環として、大企業は2019年4月から、中小企業は翌20年4月から、時間外労働は月45時間、年360時間以内と定められ、「臨時的な特別の事情」がなければ、これを超えることができなくなったことはご存知のとおりです。ただし、「建設業」「自動車運転手」「医師」は、適用開始が5年間猶予されました。
(他に鹿児島県と沖縄県の砂糖製造業には、時間外労働と休日労働の合計について適用が延長されました)

 この適用猶予が公表された際には「5年間なんて、あっという間。今から準備を始めておく必要がある」と、団体会長だけでなく、総会に出席した来賓(特に国土交通省からの出席者)からも、しつこいくらいに言われたことは記憶に新しいと思います。

 あれから5年、今年の総会では「罰則付き時間外労働時間規制が適用されました。公共の発注者は、この規制を順守するための、種々の取り組みをしていますが、問題は民間です。どうか、民間発注者にもこの規制が守られるような、適正な工期の設定をするよう、指導して欲しい」という声が挙がりました。「泣く子とお施主様には勝てない」という、長年にわたって染みついた論理は、仮に法律でそうなったと言っても、一朝一夕で解決するものではないということが、嫌というほどたたき込まれた悲しい「商習慣」ということになるのでしょう。

罰則付き時間外労働時間規制の適用、知っていますか?

 一般社団法人建設産業専門団体連合会(建専連)がまとめた、2023年度版「働き方改革における週休二日制、専門工事業における適正な評価に関する調査結果」によれば、この規制が4月から、建設業にも適用されたことを知っていることに関しては「内容まで知っている」が74・1%、「聞いたことはあるが、内容はわからない」が22・1%という数字が出ています。さらに言うなら、3・7%は適用されたことを「知らない」ということになります。

 前年との比較では、「内容まで知っている」が16・1ポイント増、「聞いたことはあるが、内容はわからない」が9・6ポイント減、「知らない」が6・6ポイント減となっており、「周知度」はアップしていると言えるでしょうが、23年度版で「知らない」と答えた3・7%に含まれるところは、従業員を働かせるつもりなのでしょうか。気になるところです。

労働時間っていつからいつまで?

 この調査では「上限規制を遵守できるか」という質問もしています。その結果は「かなりの努力は必要だが、可能だと思う」との回答が45・0%で最も多く、「十分可能だと思う」の27・8%、「遵守するのは困難だと思う」の21・2%が続いています。建専連ではこの結果を、「かなりな努力」と「困難だと思う」の合計が7割近くを占めていることから「多くの企業が上限規制の遵守に不安を覚えている」との見方を示しています。

 ところで、工事現場近くの道路に、建設資材を積載したトラックが止まっていることを目にすることがあると思います。都心部での工事の場合、資材置き場が確保できず、揚重計画との「兼ね合い」もあって、どうしても「待ち時間」が生じてしまいます。警察では、こうした「搬入待ちトラック」に移動するよう指導しているようですが、なかなか効果が挙がらないようです。トラックの運転手は、搬入時間に合わせて資材を取りに行き、路上駐車で時間調整させられるという「無駄」な時間を過ごしているわけです。もちろん、道路交通法上も、この種の行為は問題になります。生コンクリートの打設に際しても同様なことが起きています。

 点検は遠隔臨場、打ち合わせは電子野帳の活用などで合理化できますが、実際に「モノの搬入」となると、なかなかそうはいきません。「届けるまでの時間」をどう見るかが大きな問題です。通常業務時間内に搬入できればよし、そうでなければ「残業」と見なされるとすれば、時間外労働時間規制は、現場の運営に極めて大きな影響を与えることになります。現在では、昔からよく言われていた「段取り八分」程度では済まされなくなってきました。最も効率よく資材を運び入れるにはどうするかが問われることになります。トラック運転手にも、新たな規制が適用されたことを忘れてはいけません。

油断すると法律違反に

 この制度の裏付けとなっている法律は「労働基準法」です。厚生労働省が作成したパンフレットには、法違反となるケースの例として、以下の3つが揚げられています。

 *時間外労働が月45時間を超えた回数が、年間で7回以上となった場合
 *単月で時間外労働+休日労働の合計が100時間以上となった場合
 *時間外労働+休日労働の合計の2~6か月平均のいずれかが80時間を超えた場合

 これらの場合、労働基準法違反となり「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられることになります。

 もとより、これらの「犯罪」を犯すのは問題ですが、それに加え労働基準法違反の「常習犯」というイメージを、一般に抱かせる可能性があると懸念があります。

 多くの建設業者は、働き方改革に協力し、若年労働者の確保・育成に力を注いでいます。そうした努力も、ちょっとした「見逃し」でだいなしになることも考えられます。

 厳格過ぎるほどの「時間管理」をしなければ、規制を順守するのは難しい業界ではないかと、これまで見てきて、思わせます。それでも法は順守しなければなりません。

 生産性向上のための最新技術と、現状に見合った最適な制度がかみ合ってこそ、法の順守は実現できるものです。技術の進歩は確実に進み、導入されています。さて、制度の方の進み具合はどうでしょうか。

 建設業は生活を豊かにするということに加え、国民の生命と財産を守るという使命がある産業だと思います。その国民には当然、建設産業で働く人たちも含まれます。時間外労働時間規制は、その人たちの生命を守るものです。労働時間が減ることによる収入減がないような制度づくりも平行して進められています。その結果として、来年度の定期総会での「必須ワード」がどういうものになるか、注目したいと思っています。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

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