1.はじめに
令和6年3月8日、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。この改正は、建設業の担い手を確保するため、労働者の処遇改善に向けた資金の確保と下請事業者への適切な分配、資材価格の円滑な転嫁による労務費へのしわ寄せ防止、さらには、働き方改革や現場の生産性向上を図るための措置が盛り込まれています。今回はこの改正の概要を見ていきましょう。
2.背景・必要性
国土交通省によれば、建設業就業者は平成9年の685万人をピークに年々減少し、令和5年は483万人となっています。また、高齢化が進んでおり、建設業の就業者に占める55歳以上の割合は36.6%と全産業の31.9%と比較して高く、29歳以下は11.6%と1割近くになっています。高齢化が進む一方で若者のなり手が少ないという悪循環が続いています。
賃金面では、建設業は他産業に比べて低く、就労時間が長いため、担い手の確保が困難さにつながっています。国土交通省によると、建設業の賃金と実労働時間は全産業と比較して以下の通りです。
平均賃金 | 平均実労働時間 | |
---|---|---|
建設業 | 417万円/円 | 2,022時間/年 |
全産業 | 494万円/円 | 1,954時間/年 |
* 出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和4年)
「毎月勤労統計調査」(令和4年)
さらに、建設業就業者数と全産業に占める割合は以下の通りです。
*()内は割合。出典:総務省「労働力調査」を基に国土交通省算出
また、令和3年後半から原材料費の高騰やエネルギーコストの上昇等により建築資材の価格高騰が続いており、生コンクリート・セメントの全国的な価格の騰勢が続いている状況です(詳細は下図(出典:国土交通省)をご参照ください)。資材高騰分の適切な転嫁が進まず、労務費を圧迫しています。
上記から建設業の担い手の確保等が急務であり、①労働者の処遇改善、②労務費へのしわ寄せ防止、③働き方改革・生産性向上への取り組みが求められています。
3.労働者の処遇改善
改正法では、「建設業者は、その労働者が有する知識、技能その他の能力についての公正な評価に基づく適正な賃金の支払その他の労働者の適切な処遇を確保するための措置を効果的に実施するよう努めなければならない」と規定されています。建設業者に対して労働者の処遇確保を努力義務化するとともに、国は当該処遇確保に係る取り組み状況を調査・公表するとしました。
出典:国土交通省
労務費等の確保とその適切な行き渡りを図るため、中央建設業審議会が「労務費の基準」を作成・勧告することとされました。また、受注者及び注文者双方に対して著しく低い労務費等による見積書の作成や変更依頼を禁止し、併せて受注者における不当に低い請負代金での契約締結を禁止することとしました。これに違反して契約した発注者には、国土交通大臣等による勧告・公表が行われることとなります。
4.資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止
2で述べた通り、建設資材は高騰しており、国土交通省はその高騰分について、受注者を含むサプライチェーン全体で適切な価格転嫁を図る必要があるとしています。今回の改正事項では、契約前のルールとして、資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」を契約書の法定記載事項として明確化しました。また、受注者には資材高騰の「おそれ情報」を注文者に通知する義務が課され、資材高騰等が顕在化したときは、契約後のルールとして、契約前の通知をした受注者が注文者と請負代金等の変更を協議できるとされています。さらに、注文者には誠実に協議に応ずる努力義務が課せられています。これにより、資材高騰分の転嫁協議が円滑化し、労務費へのしわ寄せが防止される効果が期待されます。
5.働き方改革と生産性向上
これまでの働き方改革の取り組みによって、建設業の労働時間は他産業に比べて大きく減少したものの、依然高水準にあります。
出典:国土交通省
長時間労働を抑制するため、受注者における著しく短い工期、いわゆる工期ダンピング対策を強化し、著しく短い工期による契約締結を禁止することとされました。
また、現場技術者の専任義務について、兼任する現場間移動が容易であること、ICTを活用し遠隔からの現場確認が可能であること、兼任する現場は一定以下であることなどを要件に合理化が図られます。さらに、ICT活用等を要件として、公共工事における施工体制台帳提出義務の合理化も進められます。国はICTを活用して現場管理の「指針」を作成し、特定建設業者や公共工事受注者に対して効率的な現場管理を努力義務化しました。
6.おわりに
建設業のみならず、出生数の低下による労働人口の減少は各産業において労働者不足の問題となっています。特に建設業は、出入国管理及び難民認定法に基づく在留資格「特定技能」において人手不足の分野として制度設計されているなど、この問題への対応が喫緊の課題となっています。国外の労働者にも目を向けた人材の確保が必要な時代に入ったといえるでしょう。RSM汐留パートナーズ行政書士法人では建設業の許認可や届出などの諸手続きに加え、外国人の在留資格取得支援など幅広いサービスを提供しております。お困りごとがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
執筆者
大学卒業後、事業会社を経て、2017年汐留パートナーズグループに入社。法務事業部においてクライアントに対するリーガル面でのサポートを行う。その後国際コンサルティング事業部にて、多くの外国法人の日本進出、日本での許認可取得、イミグレーション(在留資格)関連業務に従事。外国法人の日本進出案件に関して豊富な知識と経験を有し、また、外国人の在留資格に関する業務についても精通している。様々な許認可に関する業務にも対応可能。申請取次行政書士。
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