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はじめに
近年、建設業界では後継者不足や人材不足を背景として、M&Aが急速に増加しています。日本におけるM&Aデータを提供するレコフデータによれば2020年から2024年の間の5年間において、建設業界におけるM&A件数は上場企業ベースで約3.8倍に増加しています。件数増加の背景には、第一に人手不足の構造的な深刻化があります。少子高齢化という日本の人口構造もあり、建設技能者の高齢化は解消の見込みが立たず、新規入職者の確保も追いついていません。そのため、人材ごと買収する目的でM&Aを選択する企業も出てきています。
建設業界の人材においては、特に近年、外国人材の存在感が急速に高まっています。厚生労働省の「外国人雇用状況」によれば、2023年時点で建設業に従事する外国人労働者は約14万5千人となり、前年比24.1%増と、全産業の中でも高い伸び率を示しました。さらに2025年には20万人を超え、建設業における外国人材への依存度は一段と高まっています。
M&Aを検討する際、財務や税務、建設業許可の承継に注目する企業は多いものの、外国人雇用に関するデューデリジェンス(DD)が十分に行われているケースは、決して多くありません。しかし、外国人材が企業価値の重要な構成要素となった現在、その確認を怠ることは大きなリスクとなり得ます。
M&Aの手法によって異なる在留資格上の対応
建設業のM&Aで多く用いられる手法は、株式譲渡、合併、事業譲渡の3つです。まず、株式譲渡の場合、会社自体は存続し、株主のみが変更されます。外国人従業員から見れば雇用主は変わらないため、通常、在留資格への影響は限定的です。
一方、買収後に商号や勤務地、職務内容が大きく変更される場合には注意が必要です。例えば在留資格「技術・人文知識・国際業務」を有する外国人従業員の場合、商号や勤務地の変更があれば、事由発生から14日以内に出入国在留管理局へ所属機関等に関する届出を行うことが義務付けられています。また、職務内容に変更があった場合には、技術・人文知識・国際業務の活動範囲内であるかについても注意を払う必要があります。
次に合併の場合です。吸収合併では、消滅会社に所属する外国人従業員が存続会社へ承継されます。雇用関係そのものは継続しますが、勤務先企業が変更されるため、出入国在留管理局への届出や特定技能制度上の手続きが必要になるケースがあります。
「技術・人文知識・国際業務」については、所属機関の消滅、名称変更、所在地変更があった場合、外国人本人に所属機関等に関する届出義務があります。また、「特定技能」については、単なる届出ではなく、在留資格変更許可申請が必要になります。一方、「永住者」や「日本人の配偶者等」など、就労制限がない在留資格については、別段手続きは必要ありません。このように、在留資格ごとに取扱いが異なります。
さらに注意が必要なのが、事業譲渡です。事業譲渡では、本人の同意なく労働契約を承継させることができません。そのため、外国人従業員との雇用契約は当然には引き継がれず、個別に雇用契約を見直す必要があります。
「技術・人文知識・国際業務」については、基本的には「名称変更」および「所在地変更」の届出が中心となりますが、別途労働契約等を締結した場合には、「契約の終了」および「新たな契約の締結」に関する届出が必要になります。特定技能外国人については、さらに慎重な対応が求められます。
外国人在留資格デューデリジェンス(外国人在留資格DD)の重要性
M&Aでは、財務デューデリジェンス(財務DD)や法務デューデリジェンス(法務DD)が一般的に実施されます。しかし実務上、外国人在留資格デューデリジェンス(外国人在留資格DD)は十分に行われていないことがあります。確認すべき事項としては、以下が挙げられます。また、これらの確認は在留カードの提示を求めたうえで、本人確認の意味も含め、面前で行うことが適切です。
- 在留資格の種類と期限
- 現在および将来の業務内容と在留資格の整合性
- 雇用契約書
- 社会保険加入状況
また、特定技能外国人を雇用する会社においては、上記に加えて以下の事項も確認する必要があります。
- 特定技能支援計画の実施状況
- 受入機関に関する基準の遵守状況
- 労働法令の遵守状況
- 建設分野特有の受入制度への対応状況
- 出入国在留管理局に対する届出の履行状況
受入機関に関する基準の遵守状況の一例として、特定技能外国人を受け入れている企業で過去1年以内において非自発的離職者が発生している場合、当該企業は受入機関に関する基準を満たさず、特定技能外国人を受け入れることができません。このように、特定技能を受け入れる企業においては、受入基準を遵守している必要があります。また、この基準は他にも多く存在し、支援計画、分野別の告示、届出義務の履行状況など、さまざまな点に注意を払う必要があります。財務諸表には現れないこうしたリスクを把握することは、近年のM&Aでは極めて重要になっています。
クロスボーダーM&Aという新たな潮流
近年、外国資本による日本企業の買収や、海外企業による日本法人設立に関する相談も増えています。特に、アジアの企業が日本で建設業を始めたいという問い合わせは、弊所において年々増加傾向にあります。
建設業許可においては、経営業務の管理責任者や営業所技術者など、一定の経験や資格を有した人的リソースを配置する必要があります。新規に日本に進出してくる海外企業にとって、こうしたリソースの確保の目途が立たず、進出が頓挫することも少なくありませんでした。しかし、ここ最近では、クロスボーダーM&Aという手法に挑戦する海外企業も出てきています。もっとも、外国資本が建設会社を買収したからといって、外国人従業員の在留資格への影響が、日本資本による買収と大きく変わるわけではありません。
一方で、日本企業の買収後、日本法人の経営者として日本で活動を行う場合には、在留資格「経営・管理」が必要になります。2025年10月16日より「経営・管理」に関する基準等が改正され、資本金が500万円から3,000万円に引き上げられるほか、常勤従業員1名以上の雇用、経営者の学歴および職歴、日本語能力などが求められるため、M&A前に検討しておくべき重要な事項となります。
重要なのは、買収後も受入機関としての適格性を維持し、適切な雇用管理を継続できるかという点です。今後、日本国内の人手不足がさらに深刻化する中で、外国資本による建設業への参入や、外国人材を中核資産として評価するM&Aは増加していく可能性があります。
おわりに
建設業界では、今後もM&Aが増加していくと考えられます。そして、その成否を左右する要素として、外国人材の重要性はますます高まっていくでしょう。外国人労働者数は全国で250万人を超え、建設業においても過去最高を更新しています。建設会社の企業価値は、もはや建設業許可や技術者資格だけで決まる時代ではありません。人材、とりわけ長年育成してきた外国人技能者も重要な経営資源となっています。M&Aを検討する際には、「外国人在留資格デューデリジェンス」という視点を持ち、在留資格や労務管理体制を十分に確認することが、将来のリスク回避と企業価値向上の両面において重要になるのではないでしょうか。
・現場メディア「建設業M&Aの実態|上場企業ベースで5年で約4倍、中小の事業承継の選択肢と許可承継制度」
・厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (令和7年 10 月末時点)」
・厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況【概要版】(令和7年 10 月末時点)」
2007年2月、行政書士・司法書士・土地家屋調査士の合同事務所に入所。建設業、宅建業等の許認可に携わるとともに申請取次行政書士として外国人の在留資格に係る申請を年間300件以上行う。独立を経て2019年1月にBIG4の行政書士法人にシニアとして入所。外国人の在留資格に関する品質管理や取次、社内教育を行うとともに、許認可を担当。在留資格においてはオリンピックやラグビーワールドカップ関連を担当。2024年4月に中井イミグレーションサービスの代表社員に就任。2025年7月、RSM汐留パートナーズ行政書士法人との合併に伴い同法人の代表パートナーに就任。行政書士。

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