脱炭素社会実現に向け水素戦略改定

脱炭素社会実現に向け水素戦略改定

水素基本戦略って何

 政府の再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議は、2017年12月に「水素基本戦略」を策定しました。それを、ことし4月4日の関係閣僚会議で改定することに決めました。その中で2040年の水素供給量を、現在のおよそ6倍となる年1,200万トン程度に拡大する方針を打ち出しました。そのため、今後15年間で官民合わせ15兆円程度投資するとしています。新戦略は5月末をめどにまとめられる予定になっています。

 では現行の「水素基本計画」とはどういう内容なのでしょうか。

 計画は2050年を視野に、水素社会実現に向けて将来目指すべき姿「総論」「我が国のエネルギー需給を巡る構造的課題」「水素の意義と重要性」「水素社会実現に向けた基本戦略」で構成されています。

 総論に先立つ「はじめに」では、水素利用の必要性について「水素は炭素分を含まず、COを排出しないという環境性能はもちろんのこと、エネルギーキャリアとして再生可能エネルギー等を貯め、運び、利用することができる特性(貯蔵性、可搬性、柔軟性)を有する」とした上で「エネルギー資源に乏しい我が国にとって、水素はエネルギー安全保障と温暖化対策の切り札となりうる」と明記しています。

基本戦略の位置づけ

 基本戦略が策定される前、2014年4月に策定された第4次エネルギー基本計画では「水素をエネルギーとして利用する水素社会についての包括的な検討を進めるべき時期に差し掛かっている」とされ、同年6月の水素・燃料電池戦略協議会で「水素・燃料電池戦略ロードマップ」がまとめられました。

 ロードマップでは「水素利用の飛躍的拡大」~「水素発電の本格導入/大規模な水素供給システムの確立」(2020年代後半に実現)~「トータルでのCOフリー水素供給システムの確立」(2040年頃に実現)という3つのフェーズが示されました。

 最初のフェーズでは「定置用燃料電池やFCV(燃料電池自動車)の利用を大きく広げ、世界に先行する水素・燃料電池分野の世界市場を獲得する」ことが示されました。FCVについてはトヨタの「MIRAI」が有名ですし、最近では都営バスでも水素を燃料にした車両をよく見かけます。

 2つ目のステップでは「水素需要をさらに拡大しつつ、水素源を未利用エネルギーに広げ、従来の『電気・熱』に『水素』を加えた新たな2次エネルギー構造を確立」し、3つ目のステップで「水素製造にCO回収・貯留(CCS)を組み合わせ、または再生可能エネルギー由来水素を活用し、トータルでCOフリー水素供給システムを確立」するとしています。ただし、燃料電池分野では特許件数を含め、中国に大きく水をあけられているというのが実態です。

安くて安定的な水素供給をめざして

 経済産業省資源エネルギー庁では2023年度新規事業として「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業」をスタートさせます。目的は安定的で安価な水素の供給基盤を確立するため、水素を製造・貯蔵・輸送・利用するための設備や機器、システムなどをさらに高度化・低廉化・多様化につながる研究開発等を支援すると同時に、規制改革実施計画等に基づき、一連の水素サプライチェーンにおける規制の整備や合理化、国際標準化のために必要な研究開発等を行うというものです。

 具体的な事業の内容を見ると①液化水素運搬船による海上輸送技術等による国際水素サプライチェーン②水素導管による陸上輸送等による国内水素サプライチェーン③水素ステーション(水素充填技術等)④水素に適した鋼材などの流通基盤――の4分野で、水素関連技術の高度化等につながる研究開発や、規制適正化・国際標準化のために必要な研究開発を進めることにしています。

 液化天然ガス(LNG)の海上輸送やタンクでの貯蔵、パイプラインでの搬送という技術はすでに確立されていますが、LNGが液体になる温度がマイナス162度であるのに比べ、水素が液体になる温度はマイナス253度と低く、それに対応するための技術開発が必要となるわけです。

 事業期間は5年間となっています。

再エネ導入拡大めざしアクションプラン

 関係閣僚会議で岸田文雄首相は「再エネ・水素分野の激しい国際競争に対応しつつ国内の脱炭素化を進める」と挨拶したと伝えられています。

 再エネ導入拡大策としては、軽量で曲げられる次世代型太陽光パネル「ペロプスカイト太陽電池」の早期実用化が打ち出されました。当初の2030年に社会実装化という目標に対して岸田首相は「30年をまたずに社会実装めざす」と明言しました。国内企業の量産技術確立を支援し、公共施設やビルの壁面、工場や倉庫、学校、鉄道の未利用施設といったところにフィルムのように貼り付けていくというわけです。

 このほか洋上風力に関しても、現行の導入目標とは別に、発電設備を浮かべる「浮体式」の導入目標も、2023年度中に策定することにしています。

脱炭素社会へ

 化石燃料利用による地球温暖化により、世界各地で異常気象が発生しやすくなってきていることはご存じのとおりです。COの発生を抑制することの必要性はますます高まってきています。

 水素は燃焼させても水が出るだけです。再生可能エネルギーは、まさに自然の力をエネルギーに変換して使うもので、地球環境に大きな負荷を与えることはありません。地球を守るのは人類に与えられた大きな試練です。建設業も「企業市民」としてこうした試練に対応していかなければならないことは言うまでもありません。そのための技術開発が、社会に感謝されると同時に、新しい市場を開く鍵となるのではないでしょうか。

服部 清二 氏 執筆者 
株式会社日刊建設通信新聞社
顧問
服部 清二 氏

中央大学文学部卒業。設備産業新聞社を経て建設通信新聞社へ。
国土庁(現国土交通省)、通産省(現経済産業省)、ゼネコン、建築設備業、設備機器メーカー、鉄鋼メーカー、建設機械メーカーなどの取材を担当。特に建築設備業界の取材歴は20年以上にわたる。
その後、中部支社長、編集局長、企画営業総局長、電子メディア局長兼業務総局長を歴任、2019年6月電子メディア局の名称変更に伴い、コミュニケーション・デザイン局長に就任。建設通信新聞「電子版」、「月刊工事の動き」デジタル、講演集や各種パンフレットの作成、協会機関誌の制作、DVD撮影などを行う部署を管轄した。2021年7月から現職。

新たな建設特需!再生可能エネルギーが生む付加価値とは?

PickUp!
新たな建設特需!
再生可能エネルギーが生む付加価値とは?

プライバシーマーク