カーボンニュートラルをいかに新しい価値に結びつけるのか
“脱炭素社会実現”は、現代の経済活動における大きな課題です。公共工事でもカーボンニュートラルへの取り組みが評価項目に挙がっています。具体的にどう対応すればいいのか、頭を悩ませている事業者さまも多いのではないでしょうか? 本稿では、大手ゼネコンを中心に試みられる様々な施策の事例を3つの分類に整理して解説しています。
CONTENTS
01.カーボンニュートラルとは?
02.背景となる深刻な地球温暖化
03.建設業のカーボンニュートラル
04.建設業3大カーボンニュートラル事例
05.カーボンニュートラルを成長戦略として捉える
06.よくある質問

カーボンニュートラルとは?
2020年10月の臨時国会で、2050年までに脱炭素社会実現をめざすことが宣言されました。以後、様々な業界でカーボンニュートラル(Carbon Neutral)がスローガンに掲げられています。
人間が生活するうえで、また、経済や産業を発展させるなかで、化石燃料の消費による温室効果ガス(CO2;二酸化炭素)の排出を避けることはできません。カーボンニュートラルとは、植林や森林管理による吸収や新技術によってCO2の排出を相殺し、実質的にゼロにすることを指します(ゼロカーボンといわれることも。意味は同じです)。SDGs時代、持続可能な社会づくりのうえで基盤となる考え方といえるでしょう。
脱炭素とは、CO2(二酸化炭素)の排出量をなくしてゼロを目指すことです。カーボンニュートラルが排出した温室効果ガスをさまざまな施策で相殺することで実質ゼロにすることを目指すのに対し、脱炭素はCO2の排出量を減らすことでゼロを目指します。
背景となる深刻な地球温暖化
ご存知のように、多くの環境問題のなかにあって、CO2による地球温暖化は人間生活への影響が大きく、重大視されています。
地球温暖化の現状
科学的に気温観測が始められた19世紀以降、平均気温や平均海面水位が上昇傾向にあるのは疑う余地がありません。1906年から2005年までの100年間で平均気温は0.74度上昇しています。結果、極地での海氷の大規模な融解を招いており、ホッキョクグマやペンギンが生息地を追われるなど、陸生および海生生物への影響も甚大です。

増加する自然災害
影響は極地の生態系に留まりません。海氷の融解は世界的な降水量増加に繋がっており、わが国においても洪水や高潮などの自然災害が増加傾向にあります。気象庁の統計によれば、20世紀初頭の30年間と最近30年間で比較して、日降水量200mm以上の日数は約1.4倍まで上昇しています。
気温や水温上昇による日本の亜熱帯化も懸念されており、生態系の急速な変化や農業生産減少、真夏のエネルギー問題など、多くの問題に波及していることはご存じのとおりです。
建設業のカーボンニュートラル
現在、あらゆる産業でカーボンニュートラルへの取組みが始まっています。とりわけ建設業界は、日本の基幹産業の一角として取組みを牽引する立場を期待されています。というのも、CO2の排出量部門内訳では、エネルギー産業に次ぐ形で22.4%を製造・建設業部門が占めるという統計が出ているからです。
2020年度の別の統計では、建設現場でのGHG(greenhouse gas;温室効果ガス)排出量(Scope1+2)は全排出量の約0.7%、その他、鉄鋼などの建設材料や建設関連貨物などサプライチェーンを含めた建設現場におけるGHG排出量(Scope3)は、全排出量の約1割強とも報告されています。
温室効果ガス排出を抑えるということは、ともすれば経済活動にブレーキをかけることでもあります。建設工事現場で重機や大型車両を使用せざるを得ない建設業界は、カーボンニュートラルにどう取り組めばよいのでしょうか?
Scope1(スコープ1):自社における直接排出
Scope2(スコープ2):自社が購入・使用した電力、熱、蒸気などのエネルギー起源の間接排出
Scope3(スコープ3):Scope2以外の間接排出(自社事業の活動に関連する他社の排出)
建設業3大カーボンニュートラル事例
カーボンニュートラル実現に向けて、建設業が担うべき役割の大きさについてはおわかりいただけたかと思います。現在、官民一体となって様々なプロジェクトが進められており、大きな成果を収めているとことです。代表的な事例についてご紹介しましょう。
関連法の整備
カーボンニュートラルは官民挙げての大事業です。実現を後押しすべく、さまざまな法整備が急ピッチで進んでいます。
建築物省エネ法
建設業界でのカーボンニュートラルを実現すべく、2015年に建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)が公布されました。建築物エネルギー消費性能基準を設け、非住宅部分の面積が300㎡以上の新築/増改築の場合には同基準への適合が、床面積300㎡以上の新築/増改築の場合には同基準への適合についての届出が、それぞれ義務づけられています。
太陽光パネル設置義務化
また、東京都では、2025年4月から新築物件への太陽光パネル設置義務化が決定しています。今後、太陽光パネルの設置や増設、メンテナンスなどの工事需要が増加する見込みですが、それらの費用は居住者負担となるため、東京での新築需要が減少するとの見方もあります。今後の動向には、目が離せません。

建材や施工方法の工夫
大手ゼネコンでは、大きな資本と高い技術力、豊富なノウハウを活かし、新建材の開発や大規模な改革が進められています。代表的な例をみていきましょう。
カーボンリサイクル・コンクリート
まず、期待の環境配慮型の新建材として、カーボンリサイクル・コンクリートが挙げられます。工場の排出ガスから回収した炭酸カルシウムを原料とすることで、製造工程での排出量以上にCO2を減少させる効果があるとされる、サステナブルな新素材です。
国土交通省発注の公共工事のなかで低炭素コンクリートのなど低炭素材料の導入促進が図られているほか、経済産業省も新材料製品の技術開発・実証を支援する姿勢を示しています。
プレハブ方式
施工方法の工夫としては、建材を工場で生産するプレハブ方式。効率性を高めることで、建設現場での作業負担を軽減させる狙いです。
ZEB
その他、エネルギーの高効率化を図るエコデザインやエネルギーマネジメント、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーの採用など、多角的総合的に脱炭素化を図る新しい建築物の理想形、ZEB(Net Zero Energy building)の提唱など、様々な取組みが為されています。

ICTによる生産性向上
建設現場での重機・車両など、大型建機からの温室効果ガス排出もまた、無視できない問題です。これまではディーゼルエンジンによる燃費向上やEV建機の導入で対応されていましたが、近年では、より低コストで短期間での成果が見込めるICT施工が急速に普及しつつあります。
ICTはInformation and Communication Technologyの略称で、情報通信技術と訳されます。例えばドローンを駆使した三次元測量、位置検測装置から得た情報を基に自動制御するMC(Machine Control)/MG(Machine Guidance)建機の活用、施工管理システムの導入による効率化などが代表例です。
ICT施工の導入により、丁張りなど重機周りの作業が減少するため補助作業が不要となり、施工の効率化が実現します。現場の作業時間の短縮効果は2割ともいわれ、結果として建設機械から排出されるCO2縮減が期待できるというわけです。現在、ICT施工は大中規模現場での活用が進んでいますが、小規模現場でも導入が進めば、建設業全体の生産性がより一層向上していくでしょう。
単に環境に配慮するだけでなく、同時に生産性を向上させ建設コストを下げる、一挙両全の施策として、最も期待される分野でもあります。

カーボンニュートラルを成長戦略として捉える
温室効果ガス抑制というスローガンは、ともすれば経済や産業の足枷になるのではないか、という懸念もありました。ですが、実際に蓋を開けてみれば、多くの事業者が生産性向上と両立させ、パブリシティや企業ブランド向上、新しいビジネスチャンスに結びつける成長戦略の一環として同問題に取り組んでいることがわかります。
政府が2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略のなかで示したとおり、温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも成長の機会と捉える時代に突入したといえるでしょう
大規模工場での建材生産や新建材の開発は、大手ゼネコンの資本があってこその施策ですが、ICT施工導入であれば、比較的低コストで人手不足の解消にも繋がるため、導入の敷居が低いのではないでしょうか。また、建設現場のカーボンニュートラルだけではなく、バックオフィスも巻き込んだ施策が必要です。
内田洋行ITソリューションズでは、そうした建設業事業者さま向けに多くの製品・サービスをご案内しております。カーボンニュートラル事例の詳細とともに、無料のPDF資料もご用意しておりますので、ぜひご活用ください。
よくある質問
- Qカーボンニュートラルポートとはなんですか?
- A脱炭素化に配慮して機能を高度化させた港湾のことです。水素・アンモニアなどの大量輸入・貯蔵を可能とすることで、水素等の次世代エネルギーの利活用拡大を図ります。CNPとも。
- Qエコエアポートとはなんですか?
- A空港において地上動力装置(GPU)の導入促進、空港施設のLED化など省エネルギーシステムの導入推進、空港車両のFC化・電動化によるクリーンエネルギー車両の導入促進などを推進する試み、またはそうした空港を指します。
- Qブルーカーボンとはなんですか?
- A藻場などの海洋生態系に蓄積される炭素のことです。四方を海に囲まれた日本では、カーボンニュートラルに向けてブルーカーボン生態系の活用が有望な可能性として検討されています。
本記事の関連記事はこちら
・気象庁「IPCC第4次評価報告書 統合報告書 概要」
・気象庁「気候変動監視レポート2006」
・国立研究開発法人国立環境研究所「日本国温室効果ガスインベントリ報告書2022年」
・国土交通省「国土交通省における地球温暖化緩和策の取組概要」
・国土交通省「建設現場における脱炭素化の加速に向けて」
・国土交通省「グリーン社会の実現に向けた 国土交通分野における環境関連施策・プロジェクトについて」
・国土交通省「国土交通省のインフラ分野におけるカーボンニュートラルに向けた取組」
・環境省「グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム」
・経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」