2023年インボイス制度導入! 今知っておくべき建設業の対応は?

公開日:2022.11.10
更新日:2023.10.12

準備は万端? インボイス制度総ざらい

2023年10月より、適格請求書等保存方式、インボイス制度が導入されます。伝統的に一人親方の比率が大きい建設業には、特に大きな影響が予測されます。本稿では、制度概要から注意点、具体的な対応までをわかりやすくまとめました。ぜひ、いまからチェックしておきましょう!

建設業者に影響大、インボイス制度

2023年(令和5年)10月より導入されるインボイス制度は、全業種の経理業務に変革が求められる内容になっています。現在、多くの事業者さまが対応に追われているのではないでしょうか。とりわけ建設業は、制度導入の影響が最も大きい業種のひとつとされており、制度への正確な理解が欠かせません。

ただ、インボイス制度は消費税法のさまざまな条文が絡む内容となっており、たいへん複雑です。まずは図説を交え、インボイス制度の概要について理解を深めましょう。

そもそもインボイスとは、従来の区分記載請求書に新たな記載事項を加えた新書式、適格請求書の別称です。

2023年10月以降、商取引に際しては、この新書式請求書の交付と保存が義務づけられます。

ごく簡単にいえば、商取引の買い手がインボイスを保存していない場合、本来受けられるべき税金の控除が受けられません――これがインボイス制度(適格請求書等保存方式)です(図1)。

図解インボイス

事業者が税務署に納付する消費税額は、課税売上に係る消費税額から、課税仕入等に係る消費税額を控除して算出します(図3)。

仕入れ税額控除

売上額から仕入等に係る税額を控除しないと、消費税を二重に納付することになり、事業者にとっては大きな負担です。仕入額が高額になりがちな建設業者では、その影響はなおさら深刻です。

2023年10月以降、この仕入税額控除を受けるためには、要件として適格請求書の保存が義務づけられています。制度導入以後、適格請求書を発行できない免税事業者との取引は、市場原理として大いに不利益になります。

インボイス制度導入による建設業者への影響

益税問題解消を期待されるインボイス制度ですが、導入に抵抗を示す声も少なくありません。特に建設業への影響や問題点について整理してみましょう。

当然ながら、適格請求書を作成するにあたっては、現行請求書に項目を追加するため、事務従事者の負担が増えます。追加する項目は適格請求書発行事業者の登録番号適用税率税率ごとに区分した消費税額等の3つです。

また、免税事業者からの課税仕入等については、救済目的の経過措置として、一定割合の仕入税額控除の適用が設けられています。そのため、会計の仕訳処理については期間中かえって複雑になります。

※詳細については無料のPDF資料を参照

仕入税額控除の仕訳例

2023年10月1日から3年間、免税事業者からの課税仕入等については、仕入税額相当額の80%を控除できる経過措置が講じられています。すなわち、10万円の材料を免税事業者から購入した場合の仕訳は、以下になります。

仕入税額控除の仕訳例

個人事業主の廃業

インボイス制度による最も深刻な影響は、弱い立場にある個人事業主が、より厳しい苦境に立たされることです。

すでに述べたように、制度の導入以後、仕入税額控除を受けるには適格請求書の保存が要件となります。ただ、これまで課税を免れてきた売上高1,000万円以下の個人事業主や小規模事業主は、適格請求書を発行できません。

元請事業者(課税事業者)の立場としては、仕入税額控除を受けようと思えば、こうした免税事業者との今後の取引を継続するか否か、再考せざるを得ないでしょう。

逆に、免税事業者側は、適格請求書発行事業者登録を行い課税事業者となるか、取引先が減ることを覚悟で免税事業者を続けるかの二択を迫られます。

免税事業者は益税を得ていると批判されがちですが、単にそれを加味したぎりぎりの価格設定で事業を続けてきたに過ぎません。課税事業者となっても免税事業者を続けても、今後、廃業に追いやられるケースが激増するのではないかと懸念されています。

建設業法とインボイス

インボイス制度導入以後、建設業界ではさまざまなトラブルが起こることが予想されます。

一例として、国土交通省はつぎのようなケースを挙げています。請負金額総額110万円で工事の請負契約を交わしたのち、下請業者が適格請求書発行事業者でないことが判明したため、消費税相当分の10万円を払わないことにした。適法か否か?

もちろんこれは建設業法第19条の3「不当に低い請負代⾦の禁⽌」に違反します。罰則こそないものの、国土交通大臣・都道府県知事から指示や勧告を受ける可能性があります(参考:建設業法違反をしないために ~インボイス制度編~)。

一人親方問題の比率

建設業においては、技能者全体に対する一人親方の比率が大きく、じつに15.6%を占めています。その数は、推計約51万人。一人親方は個人で仕事を請け負う、いわばフリーランスの大工で、その多くは課税売上高1,000万円を超えません(参考記事:一人親方問題の今後は? 建設業の労務・経理がこう変わる!)。

取引先に一人親方を抱える元請事業者にとっては、難しい問題です。自社の利益や事業の継続を考えれば、一人親方との取引を見直す必要があります。ですが、これまで培ってきた一人親方との関係性、こうした方々の生活への配慮など、心情的な問題を軽く考えることはできないでしょう。

インボイス制度は偽装請負問題を解決する?

建設業における偽装請負問題とは、実態は従業員である作業員が一人親方(個人事業主)として扱われることを指します。雇用関係でない体であれば、事業主は社会保険料の負担義務を免れます。ただ、インボイス制度が導入されれば一人親方と取引するメリットが相対的に少なくなり、副次的にこうした不正もなくなるのではないか、といわれています。

建設業が採るべき対応は?

建設業は取引金額が高額になりがちな業種であり、消費税の二重納付の負担は特に深刻な問題です。資材や人件費が高騰する昨今、より一層精度が高いコストカットが求められる建設業にとって、インボイス制度への対応は、最優先の課題といえます。

建設業が採るべき対応について、いま一度整理してみましょう。

あらかじめ済ませるべきインボイス対応として、適格請求書発行事業者の登録申請が挙げられます。

先に述べたとおり、適格請求書に記載する項目のひとつに適格請求書発行事業者の登録番号がありますが、これは適格請求書発行事業者の登録申請手続きを行った事業者にのみ通知されるものです。申請方法は、税務署への持参・郵送・e-Tax経由のオンライン申請の3通り。詳細については、別に用意した無料のダウンロード資料をご参照ください。

イメージ

くり返しになりますが、取引先から適格請求書を発行してもらえなければ消費税の仕入税額控除を受けることができません。無用なトラブルを避けるためには、取引先が免税事業者か適格請求書発行事業者かをあらかじめ確認することは重要なポイントです。

2020年の建設業法改正以後、国土交通省は一人親方の処遇改善を求めており、今後もその傾向は強まるでしょう。建設業の人手不足が深刻化している世情も踏まえれば、直接雇用に切り替えたほうが双方のメリットが大きいかもしれません(参考記事:2020年改正建設業法3つのポイント解説!)。

前回の記事で取り上げた電子帳簿保存法改正に続き、今回のインボイス制度導入。請求書業務は、ここ数年で急速な変化に見舞われています。事務負担の増大にお悩みの事業者様も多いのではないでしょうか?

インボイス制度導入後、売り手である登録事業者は交付したインボイスの写しを、買い手も交付を受けたインボイスを保存しなければなりません。大量の書類を紙で保管することになり、事業所のスペース圧迫や担当者の負荷増大も懸念されます。この機会にオフィスのペーパーレス化をご検討される事業者様も、少なくないのではないでしょうか。

インボイスの具体的な記載例や補助金情報と併せ、ペーパーレス化を実現するソリューションについて、無料のダウンロード資料にまとめております。ぜひ、そちらもご活用ください!

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また、インボイス制度導入による建設業への影響については、無料の情報誌である建設ITマガジンでも特集しています。こちらもPDF版を無料でダウンロードできますので、ご活用いただければ幸いです。

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よくある質問

Q適格請求書発行事業者とはなんですか?
Aインボイスを交付するための登録申請を済ませた事業者のことです。インボイスを発行できるのは、消費税の課税事業者であり適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者に限られます。
Q適格請求書発行事業者になるにはどうしたらいいですか?
A適格請求書発行事業者の登録申請書に必要事項を記入し、税務署に提出する必要があります。詳しくはダウンロード資料をご覧ください。
Qインボイス制度が導入された2023年10月以降も、免税事業者である一人親方からの請求書に、消費税額の請求が含まれているのですが……
A免税事業者が消費税額分を請求することは、たしかに一見して不自然であるように感じます。ただ、2023年10月現在、免税事業者である一人親方が従前どおり消費税額分を請求すること自体は、禁止されていません。また、請求書のうえで消費税額分を請求したとしても、免税事業者はそのぶんの納付の義務を負うわけではありません。ただ、免税事業者からの請求書は登録番号の記載がなく、適格請求書でないため、元請事業者はそれを基にした仕入れ税額控除を受けることができなくなります。消費税の扱いについては、元請事業者と免税事業者間で事前の協議が必要です。

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